三重県情報公開審査会 答申第306号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成19年2月9日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県教育委員会教育長が指導力向上支援研修教員に平成15年度、退職勧奨及び分限免職を起案・供覧・決裁(専決)した文書(添付書類等全ての文書)」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成19年4月16日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、「決裁文書」(職員の分限処分について)である。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
異議申立人は、本決裁文書は教育委員会への提案のための決裁であり、三重県教育委員会教育長が専決決裁した文書でないと主張するが、本決裁は、平成15年度の指導力向上支援研修教員の分限免職について、三重県教育委員会教育長が実質的に決定を下した文書であり、異議申立人の請求内容に対する文書としては、他には該当文書が存在しないことから、実施機関として本文書の部分開示を行ったものである。仮に、「職員の分限処分について」の起案・決裁文書が異議申立人の求めていた文書でなかったとしても、本文書以外に該当する文書は存在しないことから、異議申立人にとって必要な情報は入手できたものと思料され、異議申立人が、異議を申し立てる理由はないものと考える。
5 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次の理由により、本決定は取り消すべきであるというものである。
本件対象公文書は、見た目は教育長が決裁した文書ではあるが、当該決裁文書には、「このことについて、当該教育委員会から報告がありましたので、職員分限審査取扱要領第7条に基づき、別紙のとおり申し立ててよろしいか。」と記載されていることから、申立てをするための起案・決裁文書である。異議申立人が開示請求で求めた文書と違うことは明らかである。教育委員会にあげるための決裁をしただけのものであり、分限を決裁した文書ではない。
実施機関は、実質的に決定を下した文書であって他に該当する文書がないことを理由に、開示請求に該当しない文書を特定して開示決定することは許されない。実施機関が開示請求対象文書の不存在を認識しているのであれば、不存在決定をしなければならない。開示された文書が開示請求に対応した文書であれば問題はないが、必要な情報が入手できるとして別の文書を開示しても、請求した文書を開示したことにはならない。異議申し立ての趣旨は、開示された文書は開示請求した文書ではないということである。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本決定の妥当性について
異議申立人は、「退職勧奨及び分限処分」を決裁した文書の開示を請求したところ、本決定により開示された本件対象公文書は、当該処分について「教育委員会に提案すること」を決裁した文書であるから、実施機関の文書の特定は誤っていると主張している。
確かに、異議申立人が指摘するように、本件対象公文書の起案の本文には「職員の分限処分について、別紙により教育委員会に提案してよろしいか。」と記載され、添付文書には「公立学校職員の分限処分について別紙のとおり提案する。」と記載されているのみで、当該処分を行うとする記述は見られない。
実施機関の説明によると、分限処分の際には、職員分限審査委員会を開催し、その審査委員会で教育長も含め最終的な決定をする。本件対象公文書は、その決定に基づいて、教育委員会事務局が、教育委員会に提案してよいかという起案を行ったのであるが、実質的に教育長が分限処分を決定した文書であり、この文書以外には対象公文書は存在しない。
確かに、教育委員会に提案する起案文書であるが、教育委員会事務局内部では同種の事案に関して行われる通常の処理により、教育委員会に提案するという本件対象公文書の起案により、実質的に処分を行っているとする実施機関の説明に不自然な点は見られない。
以上のことから、本件対象公文書は教育委員会に提案することをもって、実質的に分限処分についての起案・決裁を行った文書であると解されることから、本件開示請求に対し本件対象公文書を特定した本決定は、妥当である。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
本件について不自然な点はないとはいえ、少なくとも分限免職等の不利益処分に関しては、その起案があるべきだと考えられる。なぜならば、行政機関が、その作成する文書をもって、その事務を遂行することから考えると、意思決定の過程が文書自体から読み取れることが必要である。
実施機関は、その事務処理に係る県民への説明責任の観点からも、文書作成および文書管理について適正な運用をするとともに改善に努められたい。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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19. 6.27 | ・諮問書の受理 |
19. 7. 4 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
19. 7.23 | ・非開示理由説明書の受理 |
19. 7.25 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
19.11.15 | ・意見書の受理 |
19.11.15 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第285回審査会)
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19.12.13 | ・審議
(第287回審査会)
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20. 1.24 | ・審議 ・答申 (第289回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学准教授 |
委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。