三重県情報公開審査会 答申第296号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人と異なる開示請求者が平成17年12月23日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の法人が特定の土地上に搬入した古畳について三重県が取った措置等に関する一切の情報」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成19年8月7日付けで行った異議申立てに係る公文書の開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立てについて
本件異議申立ては、上記2の開示請求に対し実施機関が平成18年2月3日付けで公文書部分開示決定を行ったところ、当該開示請求を行った開示請求者から同月14日付けで異議申立てがなされ、当審査会の平成19年3月14日付け答申第267号を踏まえ、実施機関が当該決定の一部を取り消し、改めて行った本決定に対して、平成19年8月29日付けでなされたものである。
なお、実施機関は、上記2の開示請求を行った開示請求者に対して、平成19年8月31日付けで、本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)については、本件異議申立てに係る決定がなされるまで開示を停止する旨の通知を行っている。
4 本件対象公文書について
本件対象公文書は、平成17年4月14日付け業務報告書に添付された建設廃棄物処理委託契約書である。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○ 条例第7条第3号(法人情報)に該当しない
異議申立人には特定の法人が不適正に保管していた廃畳の処分を受託した実績がないことが判明していること、本件対象公文書においては、異議申立人の名称等が廃畳の撤去に係る最終処分先として記載されているにすぎず、廃畳の不適正保管に異議申立人が関与していたとは考えられないこと、また、かかる関与をしていたかのような記述も見当たらないことなどを総合的に判断した結果、本件対象公文書に記載された異議申立人の処分先No.(許可番号等)、再生施設名称及び再生施設所在地(以下「再生施設名称等」という。)を開示しても、異議申立人が風評による被害を受ける高度の蓋然性があるとはいえず、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するとまでは認められない。
6 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次の理由により、本決定の取消しを求めるというものである。
○ 条例第7条第3号(法人情報)に該当する
本件対象公文書に異議申立人の名称等が最終処分先として記載されていることにより、開示請求者にとっては、通常、異議申立人が廃畳の不適正保管に関与していたと考えるのが普通である。異議申立人は、特定の法人から廃畳の処理を受託した実績がなかったなど、廃畳の不適正保管とは無関係であることは、県には明らかでも、開示請求者には明らかでなく、そのような事情を開示請求者に知らせる手続も条例に定められていないから、再生施設名称等が開示されることにより、異議申立人が風評被害を受ける高度の蓋然性があり、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害する。
7 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
異議申立人は、本件対象公文書に記載された再生施設名称等の開示を受けた者は、異議申立人が廃畳の不適正保管に関与していたと考えるのが普通であるから、これらの情報が公にされることにより、異議申立人が風評被害を受ける高度の蓋然性があり、その競争上の地位その他正当な利益を害すると主張する。
確かに、当審査会が平成19年3月14日付け答申第267号において述べているように、廃畳の不適正保管に無関係な産業廃棄物処理業者に関する情報を開示することにより、これを閲覧する者によっては、その内容を誤解し、当該業者も不適正保管に関与していたと考え、ひいては当該業者の利益が害されるおそれがないとはいえない。しかるに、本号(法人情報)は、公にすること「により」、法人等の利益を害すると「認められる」ものを非開示とすると規定しているのであって、公にすることに加え他の不確定な要因が重なり、法人等の利益を害する「おそれがある」ものまで非開示とすると規定しているわけではない。すなわち、本号により非開示とされる情報は、「公にすることにより」、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものであって、「公にすることにより」直ちに法人等の利益を害するのではなく、公にされた情報を閲覧した者が誤解した場合に、はじめて法人等の利益を害する「おそれ」があるにすぎないものまで含むものではない。
そこで、当審査会において本件対象公文書を見分したところ、本件対象公文書は、特定の法人が不適正に保管していた廃畳を撤去するために特定の産業廃棄物処理業者と締結した契約書であり、当該廃畳の最終処分先として異議申立人を含む複数の産業廃棄物処理業者等の名称、所在地、許可番号等、廃棄物の種類の種類、処分方法が記載されているが、撤去された廃畳の最終処分先の一つである異議申立人が廃畳の不適正保管に関与していたとは、通常考えがたい。また、本件対象公文書中に、異議申立人が廃畳の不適正保管に関与していたかのような記述も見当たらない。さらに、実施機関の説明によれば、異議申立人の名称等は本件対象公文書に記載されているものの、特定の法人が不適正に保管していた廃畳の処分を受託した実績がないことが判明している。
以上のことを総合的に判断すると、本件対象公文書に記載された再生施設名称等は、これを開示しても、直ちに異議申立人が風評による被害を受けるという高度の蓋然性があり、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するとまでは認められない。
なお、異議申立人は、異議申立人が廃畳の不適正保管とは無関係であることなどを開示請求者に知らせる手続が条例に定められていないから、異議申立人が風評被害を受ける高度の蓋然性があると主張するが、そのような手続の有無をもって本号(法人情報)該当性が左右されるものでもないから、異議申立人の主張は採用できない。
したがって、再生施設名称等は本号に該当しないと判断した実施機関の判断は妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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19. 9.19 | ・諮問書の受理 |
19. 9.20 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
19. 9.25 | ・開示理由説明書の受理 |
19. 9.26 | ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
19.10.12 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第282回審査会)
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19.11. 9 | ・審議 ・答申 (第284回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学准教授 |
※委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。