三重県情報公開審査会 答申第291号
答申
1 審査会の結論
- 税務政策室が行った公文書不存在決定は、妥当である。
- 県税事務所が行った公文書非開示決定については、その決定を取り消し、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
- 税務政策室及び県税事務所が行った公文書の存否を明らかにしない決定についてはその決定を取り消し、対象公文書を特定し改めて決定すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平18年1月22日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定法人の延滞金について、特定日X以降及び特定日Y以降に、県が延滞金の回収に関して協議した会議録、業務報告書など一切の資料」(以下「開示請求ア」という。)及び「当該法人の延滞金について、特定日Z以降に、県が当該法人から上告・上告受理の申立を県がしてくれるように申し入れを受けたか否かが分かる一切の情報(以下「開示請求イ」という。)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成18年2月3日付けで行った、以下に掲げる公文書不存在決定、公文書非開示決定及び公文書の存否を明らかにしない決定の取消しを求めるというものである。
- 開示請求アに対して、税務政策室が行った公文書不存在決定(以下「決定A」という。)
- 開示請求アに対して、県税事務所が行った公文書非開示決定(以下「決定B」という。)
- 開示請求イに対して、税務政策室が行った公文書の存否を明らかにしない決定(以下「決定C」という。)
- 開示請求イに対して、県税事務所が行った公文書の存否を明らかにしない決定(以下「決定D」という。)
3 本件対象公文書について
本件開示請求に対して実施機関が特定した文書は、決定Bの対象となった特定法人の滞納整理カードである。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、以下の決定が妥当というものである。
(1)決定Aについて
税務政策室は、徴税事務を行っていないことから、請求対象となる公文書を保有していない。
(2)決定Bについて
徴税事務を行っている県税事務所は、本件対象公文書として特定法人の滞納整理カードを特定したが、納税者等の秘密は条例第7条第1号に該当する法令秘情報であり、条例第7条第3号に該当する非開示情報が分かちがたく含まれているものであること、税務行政の適正執行に著しい支障を及ぼすおそれがある条例第7条第6号に該当する非開示情報である。
○ 条例第7条第1号(法令秘情報)に該当
特定の法人に滞納があるか否かについては、徴税事務を行う上で知りえた事実であり、地方税法第22条に規定する守秘義務を課せられている。
○ 条例第7条第3号(法人情報) に該当
開示することにより、特定の法人に滞納があるという事実が明らかになることにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害することが認められる。
○ 条例第7条第6号(事務事業情報)に該当
上告した訴訟に係るものであり、開示することで当該事務・事業の遂行に著しい支障を生じる。
(3)決定C及びDについて
以下の理由により、条例第11条(公文書の存否に関する情報)に該当する。
仮に開示請求イに係る公文書が存とすれば、当該公文書は滞納整理カードであり、地方税法第22条により守秘義務を課せられた法令秘情報を開示することになる。否とすれば、開示請求イに係る事実がないという、納税折衝の内容を開示することになり、非開示とすべき法令秘情報を開示することになる。
また、開示請求イに係る公文書の存否を答えるだけで、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、条例第7条第3号に該当する非開示情報を開示することになる。
5 異議申立て理由
異議申立人の主張の概要は、以下のとおりである。
当該法人の延滞金の徴収を怠る行為の違法性を訴えた住民訴訟では、高裁で延滞金の徴収を怠っていることは違法であることを確認する旨の判決が出された。現在最高裁で継続中であるため確定はしていないものの、延滞金の徴収を怠っていることは違法であるとの高裁の判断が示された事案について、守秘義務を理由に非開示決定することは、条例の解釈を誤ったものであり、違法である。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)決定Aについて
決定Aについては、実施機関は、税務政策室では徴収事務を行っていないため請求に係る文書を保有していないことから不存在とした。この実施機関の説明からすると、徴税に関する文書を税務政策室が保有していないとしても特段の不自然を認めるにはいたらない。
(3)決定Bについて
決定Bの理由については、実施機関は、地方税法第22条に規定する守秘義務により法令秘情報に該当し、開示することにより特定の法人が識別されることにより当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害することが認められ、滞納の事実が明らかになると当該法人に重大な不利益があるとして条例第7条第3号に該当し、訴訟に係る情報であることから、同条第6号に規定する事務事業情報に該当するとしている。
これに対して異議申立人は、当該法人の延滞金の徴収を求める訴訟では、現在最高裁で継続中であるため確定はしていないものの、延滞金の徴収を怠っていることは違法であるとの高裁判決が出ている。税を公平に徴収していることが納税者側にとって納税意欲を持たせるものであり、判決の出ている事案についてその後の納税状況を明らかにすることは公益に属するものであると主張している。
実施機関が非開示とした対象公文書は、特定法人の滞納整理カードである。当該公文書は、徴収第3号様式(以下「様式」という。)(1)、同(2)、同(3)、同(4)(続紙)及び添付資料で構成されており、納税者に関する情報、処理経過、整理状況、徴収状況等が記録されていると認められる。
実施機関は、特定の法人に滞納があるか否かについては徴税事務を行う上で知りえた事実であり、地方税法第22条に規定する守秘に該当することから、条例第7条第1号の法令秘情報に該当する非開示情報であると主張する。また、開示することによって、当該法人に滞納がある事実を公にすることになり、かかる事実が公にされることによって当該法人に競争上の不利益が生ずることが認められることから、条例第7条第3号に規定する法人情報に該当すると主張する。さらに、滞納整理カードの中に記録されている徴税の手法等が公にされることによって、徴税事務に著しく支障をきたすことから条例第7条第6号に該当すると主張する。
ア 条例第7条第1号(法令秘情報)の意義について
本号は、法令若しくは他の条例の定めるところによる、又は実施機関が法律上従う義務を有する各大臣その他国の機関の指示による場合の非開示を定めたものである。法令若しくは他の条例の定めるところにより公にすることができない情報は、この条例によっても開示できないことを確認的に規定するとともに、各大臣その他国の機関からの法的拘束力を持った指示により公にすることができない情報については、非開示とすることを定めたものである。
イ 条例第7条第1号(法令秘情報)の該当性について
実施機関は、特定の法人に滞納があるか否かについては徴税事務を行う上で知りえた事実であり、地方税法第22条の規定により守秘義務が課せられていると主張している。
地方税法第22条に規定する守秘は、地方税に関する調査に関する事務に関して知りえた秘密であり、一般に知られていない情報で、かつ他に知られないことに利益があると客観的に認められる情報についての守秘義務を課したものと解される。
したがって、滞納者名については、地方税に関する調査に関する事務に関して知り得たものとは言えず、むしろ地方公務員法第34条第1項に規定する公務員がその職務上知り得た秘密に該当すると考えられる。
地方税法第22条の対象となる守秘義務は、地方税に関する調査に関する事務に関して知りえた秘密であり、かつ非公知の情報である。当該法人に関する滞納の事実は、公務員がその職務上知り得た秘密であることは言うまでもないが、異議申立人は、当該法人の延滞金の徴収を求める住民訴訟は、現在最高裁で継続中であるため確定はしていないものの、延滞金の徴収を怠っていることは違法であるとの高裁判決が出ているとしている。これに対して、当該法人の延滞金の徴収に係る住民訴訟がある事実については実施機関も認めている。また、当該法人の延滞金の徴収に関する住民監査請求の監査結果が県ホームページで公表されていることから、当該法人に延滞金が発生している事実は非公知ではない。
当該法人に延滞金があることは非公知とは認められないことから、当該法人に滞納があったこと、およびその徴収事務のために滞納整理カードが作成されている事実を明らかにすることは、実施機関が主張する地方税法第22条に規定する守秘義務違反には当たらないと解する。
上記理由により、滞納者名が本条本号に該当する非開示情報であるとする実施機関の主張は採用できない。
以上により、実施機関が決定Bの理由として法令秘情報としたことは是認できない。
ウ 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
エ 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書が滞納整理カードであることから、特定の法人に関して本件対象公文書が存在することは、当該法人に滞納があるという事実を示すものである。一般に、特定の法人に滞納があるという情報が明らかになると、当該法人の事業活動が展開しにくくなったり、競争関係にある同業他社との競争上の不利益をもたらすことになったりするなどのことが予想される。しかし、当該法人に関しては、延滞金の徴収に関して住民訴訟があったことから、当該法人に関する滞納整理カードがあるという事実を明らかにしても既に公知となっている事実を明らかにするだけであり、これを開示することによって当該法人の競争上の不利益やその他正当な利益を害するとは認められない。
よって、本件対象公文書を非開示とした実施機関の決定は、妥当ではないと判断する。
以上のことから、様式(1)に記載されている当該法人を特定し得る情報は開示すべきである。
次に様式(2)について検討する。同様式には処理経過に係る記載事項の記録と、その記載年月日、担当者の印影及び決裁者の印影がある。担当者及び決裁者の印影については、当該法人に係る情報ではなく、徴税事務に関わる公務員の職務に関する情報であると認められる。また、これを開示することによって、次に検討する当該法人の滞納状況や徴収状況までも明らかにするとは認められないことから、開示すべきである。しかし、各記載内容については、徴収状況や徴税に係る情報の収集方法等の徴税事務に係る手法が記載されている。徴収状況については公知とまでは言えず、非開示は妥当である。情報収集等の徴税事務にかかる手法に関する情報については、法人情報に該当するとともに、事務事業情報の該当性も考えられる。
様式(3)について検討する。同様式には徴収簿照合欄に照合年月日の記録と取扱者の印影が記録されている。取扱者の印影は公務員の職務に関する情報であり、これを開示しても当該法人の滞納状況が明らかになるものではないと認められるので開示しても支障はない。また、照合年月日についてもこれを開示しても当該法人の滞納状況が明らかになるものではないと認められるので開示して支障はない。
次に、様式(4)に記載された徴収年月日、徴収額及び未徴収残高について検討する。滞納に係る情報が開示されることによって当該法人の競争上の不利益その他正当な利益を害することは上記の通りである。上記理由により、滞納の事実は公知であると認められるが、徴収状況までが公知であるとは認められないことから、これを開示することによって当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められることから、非開示は妥当であると考える。
次に添付されている資料について検討する。実施機関はこれらの添付資料を全て非開示としているが、これらの中には、法人として積極的に公表している資料、一般に県民の目に触れる地方公共団体の広報誌等が含まれている。当該法人が積極的に公表している資料については非開示とする理由はなく、広報誌等については本来広報を目的に作成配布されるものであることから、非開示とする理由はない。
オ 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
カ 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
様式(2)に記載されている徴税に係る情報の収集方法等の記述については、徴税事務に係る手法と認められる。実施機関は、滞納整理に係る調査の手法は、当該法人にも明らかにしていないもので、公にすれば徴税業務に著しい支障をきたすことから、非開示を主張している。
確かに様式(2)の記録からは、徴税事務の進め方が推知できるとともに、添付されている資料からは、徴税にかかる情報収集の範囲を推知させ、今後の事務事業に支障をきたすと思われる。以上のことから、エで非開示は妥当でないと判断した部分を除く資料については、実施機関が非開示とした決定は妥当であると判断する。
なお、実施機関は上告した訴訟に係る情報であり、訴訟事務の遂行に著しい支障をきたすと主張するが、エにより既に公知となっている情報を開示することで、訴訟事務の遂行に支障が生じるとは考えにくい。
(4)決定C及びDについて
ア 条例第11条(公文書の存否に関する情報)の意義について
開示請求に対する決定は、本来、請求文書を特定した上で、①不存在を理由とする非開示、②非開示情報該当性の判断に基づく開示・部分開示・非開示、③非開示情報について公益上の理由による裁量的開示、であることが原則である。しかし、例外的に開示請求に係る公文書の存否自体を明らかにすることによって、非開示情報の規定により保護しようとしている利益が損なわれる場合がある。本条は、この決定の枠組みの例外を定めたものである。
イ 条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性について
実施機関は、仮に当該請求に係る記録があるとすれば、その情報は滞納整理カードに記録されているものであり、非開示とすれば、当該滞納整理カードの存在を明らかにすることになり、結果として当該法人に滞納があるという情報を明らかにしてしまうことになるから、地方税法の守秘に該当する法令秘情報に該当し、かつ、当該法人にとって不利益な情報を明らかにすることにより当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害する法人情報を開示してしまうことになり、不存在とすれば、当該請求に係る事実がなかったことを明らかにすることになり、このことによって徴税事務の遂行に著しい支障をきたすとして、存否を答えない決定C及びDをしたと主張する。
しかしながら、実施機関が主張するように、当該請求に係る情報が滞納整理カードに記載されているとしても、(3)により、滞納整理カードの存否を明らかにしない理由は乏しい。
また、当該法人からの上告の申し入れの有無によって、上告するか否かの実施機関の判断が変わるとは考えにくく、上告の申し入れの有無が明らかになることによって当該法人の競争上の利益その他正当な利益が害されるとは考えにくいことから、その存否を答えない決定は妥当ではないと判断する。
実施機関は、本決定を取り消し、対象公文書を特定し改めて決定すべきである。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
18. 2.16 | ・諮問書の受理 |
18. 2.20 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18. 3. 7 | ・非開示理由説明書の受理 |
18. 3.15 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
19. 2.27 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第265回審査会)
|
19. 3.23 | ・審議
(第268回審査会)
|
19. 4.23 | ・審議
(第269回審査会)
|
19. 5.21 | ・審議
(第271回審査会)
|
19. 6.18 | ・審議
(第272回審査会)
|
19. 7.20 | ・審議
(第274回審査会)
|
19. 8.22 | ・審議
(第277回審査会)
|
19. 8.29 | ・審議
(第278回審査会)
|
19. 9.14 | ・審議
(第280回審査会)
|
19.10.18 | ・審議 ・答申 (第283回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士(平成19年3月31日辞職) |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学准教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
委員 | 室木 徹亮 | 弁護士(平成19年4月17日就任) |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。