三重県情報公開審査会 答申第282号
答申
1 審査会の結論
実施機関の行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人と異なる開示請求者らが平成19年4月2日付け、同月3日付け、同月4日付け、同月11日付け及び同月18日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「設計単価表(平成19年4月1日制定)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成19年5月16日付けで行った公文書開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、平成19年4月1日に三重県が制定した「設計単価表」である。
本件対象公文書は、三重県が発注する公共工事の予定価格の算出に必要な製品等の単価をまとめたものである。実施機関の説明によると、本件対象公文書に掲載されている単価は、①三重県が物価調査機関に調査依頼して制定した単価、②国土交通省や農林水産省など国の機関が調査して制定した単価、③異議申立人その他の物価調査機関が調査し、これらが発行する有償の刊行物(データベースとして構築したものを含む。以下同じ。)に掲載されている単価、に大別することができる。
4 本件異議申立てについて
実施機関は、本件対象公文書中に異議申立人が発行する有償の刊行物に掲載されている単価が含まれていることから、条例第17条第1項の規定に基づき、異議申立人に対して意見照会を行った。異議申立人は開示に支障がある旨の意見書を提出したが、実施機関は本決定を行い、条例第17条第3項の規定に基づいて異議申立人に対して本決定をした旨の通知をした。そこで、本件対象公文書に掲載された上記3の③の単価のうち、異議申立人が発行する有償の刊行物に掲載されている単価の情報(以下「本件単価情報」という。)の非開示を求めて、本件異議申立てが提起されたものである。
なお、実施機関は、本件開示請求を行った開示請求者らに対して、平成19年5月29日付けで、本件異議申立てに係る決定がなされるまで開示を停止する旨の通知を行っている。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○三重県情報公開条例第2条第2項(公文書)に該当する
本件単価情報は、一般に販売されている異議申立人の刊行物に掲載された情報であるが、当該刊行物そのものを開示するわけではないから、条例の対象となる公文書から除外されるものではない。
○三重県情報公開条例第7条第3号(法人情報)に該当しない
本件単価情報は、一般に販売されている異議申立人の刊行物に掲載された情報であり、開示しても異議申立人の正当な利益を害するとは認められない。
○三重県情報公開条例第7条第6号(事務事業情報)に該当しない
本件単価情報を開示しても、県の事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められない。
○三重県情報公開条例第1条(目的)を逸脱していない
公文書の開示を受けた者の不適正使用が明らかになれば、事後の開示はしないが、単に不適正使用の憶測をもって開示請求を拒むことはできない。
6 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次の理由により、本決定の取消しを求めるというものである。
○三重県情報公開条例第2条第2項(公文書)に該当しない
雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるものは、条例の対象となる「公文書」から除外されているから、本件単価情報も、条例に基づく開示の対象とはならない。
○三重県情報公開条例第7条第3号(法人情報)に該当する
異議申立人の有償の刊行物に掲載された情報が条例に基づき無償で入手し得ると、購読者の減少により異議申立人の正当な利益が害される。さらに、入手した情報がインターネット上で公開されるようなことになると、異議申立人の事業の根幹を揺るがすこととなる。
○三重県情報公開条例第7条第6号(事務事業情報)に該当する
異議申立人の有償の刊行物は県でも使用されているが、購読者の減少等に伴うこれらの大幅な値上げ等により、県の事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
○三重県情報公開条例第1条(目的)を逸脱している
情報公開は民主的な県政に資する場合に認めるべきであるところ、本件開示請求者には私利又は商業目的がある蓋然性が高く、このような開示請求は、条例本来の目的を明らかに逸脱した権利の濫用であり、認めるべきでない。
7 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 本件対象公文書の公文書性について
条例第2条第2項は、条例の対象となる「公文書」の範囲を定めたものであり、異議申立人の指摘するとおり、同項ただし書第1号は「官報、公報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの」を公文書から除いている。これら新聞、雑誌、書籍等は、書店で購入し又は公共図書館等の施設を利用することにより、一般にその内容を容易に知り得ることから、情報公開制度の対象とする必要がないためである。
ところで、同号により公文書から除かれるのは、新聞、雑誌、書籍等そのものである。このことは、条文の文理解釈上当然であり、また、そのように解しないと、同項本文に該当する文書(実施機関の職員が職務上作成し、組織的に用いるものとして、実施機関が保有している文書)に含まれる新聞の切り抜き、雑誌のコピー、あるいは書籍からの引用などの部分も公文書から除かれることとなり、情報公開制度の趣旨にかんがみて、実質的にも極めて不合理である。
したがって、本件単価情報は公文書に該当せず条例に基づく開示の対象とならないとする異議申立人の主張は、失当である。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関は、本件単価情報は、一般に販売されている異議申立人の刊行物に掲載された情報であるから、これを開示しても異議申立人の正当な利益を害するとは認められないと主張する。これに対し、異議申立人は、異議申立人の有償の刊行物に掲載された情報が条例に基づき無償で入手し得ると、購読者の減少により異議申立人の正当な利益が害されると主張している。
上記(3)で述べた本号の意義にかんがみれば、本号により非開示とすべき情報とは、例えば、①生産、技術、販売、営業等の情報や、②経営方針、経理、人事等内部管理に関する情報など、一般に公にされていない情報であって、情報公開制度に基づいて開示することにより、法人等に競争上不利益を与えたり、事業活動が損なわれると認められる情報を指すものであり、出版、報道等により既に公にされている情報は含まないものと考えられる。本件単価情報は、一般に販売されている異議申立人の刊行物に掲載された情報であり、図書館その他の施設において誰でも閲覧や複写が可能な情報であるから、これを開示しても異議申立人の正当な利益を害するとは認められない。
この点について、異議申立人は、本件単価情報が既に公になっていることと、開示されることにより異議申立人の正当な利益が害される(損害が発生する)ことは次元を異にすると主張し、本件単価情報が異議申立人の有償の刊行物に掲載されていても、これらの売上げの減少により異議申立人の正当な利益が害されるから、本件単価情報は非開示とすべきであると主張している。
実施機関の説明によると、本県においては平成12年度ないし13年度以降現在に至るまで、本件単価情報に相当する部分を除いた設計単価表は、行政資料として県民の閲覧に供したりホームページに掲載したりし、条例に基づく開示請求があれば、本件単価情報に相当する部分も含めて全面的に開示しているとのことである。また、同様の取扱いをしている県は、本県以外にもあるようである。ところが、平成12年度ないし13年度以降の本県や同様の取扱いをしている県においては、他県と比べて異議申立人の刊行物の売上げが明らかに少ないといった事実は、異議申立人から示されていない。したがって、異議申立人の主張は、抽象的な可能性をいうものであって、本号の「公にすることにより・・・正当な利益を害すると認められるもの」とまではいえない。
さらに、異議申立人は、開示請求者が入手した本件単価情報をインターネット上で公開したり、異議申立人が販売するデータベースと類似のものを作成・販売するようなことになると、異議申立人の事業の根幹を揺るがすこととなるとも主張している。
しかし、開示請求者のこのような行為は著作権法(昭和45年法律第48号)に抵触する違法行為であって、当該違法行為者と著作権者たる異議申立人との間で処理されるべきものと考えられるが、本号はこのような違法行為まで想定して非開示とすることを認めるものではない。
したがって、異議申立人の主張にはいずれも理由がなく、本件単価情報は本号に該当しないとした実施機関の判断は妥当である。
(5) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(6) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
異議申立人は、異議申立人の有償の刊行物は県でも使用されているが、本件単価情報の開示によって他の購読者が減少し、これにより刊行物等の大幅な値上げをしたり、さらに、これまで県から受託していた調査業務を受託できなくなって、県自ら調査を行うこととなったりして、県の事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると主張している。これに対し、実施機関は、仮に県自ら当該調査業務を行うこととなった場合に相当な事務量の増加につながることは認めるものの、本件単価情報の本号該当性は認めていない。
このように当事者たる実施機関が認めていない以上、本件単価情報について、異議申立人が本号該当性を主張し、あるいは当審査会が本号該当性を認めることはできず、実施機関の判断は妥当であると言わざるを得ない。
(7) 条例第1条(目的)の逸脱について
異議申立人は、情報公開は民主的な県政に資する場合に認めるべきであるところ、本件開示請求者には私利又は商業目的がある蓋然性が高く、このような開示請求は、条例本来の目的を明らかに逸脱した権利の濫用であり、認めるべきでないと主張している。これに対し、実施機関は、公文書の開示を受けた者の不適正使用が明らかになれば、事後の開示はしないが、単に不適正使用の憶測をもって開示請求を拒むことはできないと主張している。
確かに、異議申立人が指摘するとおり、条例の目的は「公正で民主的な県政の推進に資すること」である。しかしながら、条例第5条は何人にも開示請求権を認めるとともに、条例第6条は開示請求者に対してその目的を明らかにすることを求めておらず、条例第7条は非開示とすべき情報を列挙するにとどまっている。すなわち、条例は、特定の開示請求者の属性や請求目的の場合の非開示を明文で規定していない。当審査会としても、権利の濫用を理由として非開示にすべき場合があり得ることを否定はしないが、本件の事案において、開示請求者らの不適正使用の事実その他権利濫用を認めるべき事実は示されておらず、異議申立人の主張を採用することはできない。
(8) 結論
よって、主文のとおり答申する。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、次のとおりである。
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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19. 6.12 | ・諮問書の受理 |
19. 6.14 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
19. 6.28 | ・開示理由説明書の受理 |
19. 7. 4 | ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
19. 7.17 | ・意見書の受理 |
19. 7.31 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第275回審査会)
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19. 8.31 | ・審議 ・答申 (第279回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学准教授 |
※委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。