三重県情報公開審査会 答申第280号
答申
1 審査会の結論
実施機関の行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人と異なる開示請求者が平成19年2月1日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定法人に対する、監視指導、監視日報、行政指導、行政命令に係る一切の情報及び変更届」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成19年3月8日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書
始末書の提出について
4 本件異議申立について
実施機関は本請求に対し、本件対象公文書中に異議申立人の情報が含まれていることから、条例第17条第2項の規定に基づき、異議申立人に対して意見照会を行い、本件対象公文書を部分開示する旨の決定を行った。
当該法人の取引銀行の口座情報、入出金額、残高、認印影、取引単価、取引金額及び住民の氏名については、条例第7条第2号に規定する個人情報及び条例第7条第3号に規定する法人情報に該当するため非開示としたが、廃棄物の購入先や製造した燃料の売却先に関する情報については、住民等の不安感、不信感を払拭することが要請されていることなどを勘案すると、公益上、公にすることが必要であると認められるとして、条例第7条第3号ただし書ハに該当するため開示と判断し、異議申立人に対して条例第17条第3項の規定に基づき本決定をした旨の通知をしたところ、本件異議申立が提起されたものである。
また、本請求を行った開示請求者には、平成19年3月22日付けで、本件異議申立人係る決定に至るまで開示を停止する旨の通知がなされている。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
本件対象公文書は、廃棄物から製造した燃料を売却したことに関する顛末を記した文書である。産業廃棄物の処理に関連した事業は、事業者の運営によっては、地域住民の生活や自然環境等に大きな影響を与える可能性を否定できず、また当該事業について地域住民が関心を集めている等の社会情勢を考慮し、可能な限り関連する情報を開示し、住民等の不安感・不信感を払拭すること等が要請されていることを勘案すると、非開示により保護する利益よりも人の生命、身体、健康や県民等の生活環境を保護するため公にするという公益が優先されると判断する。以上のことから、実施機関は上記情報については、条例第7条第3号(法人情報)ただし書ハに該当し、開示することが妥当であると判断した。
6 異議申立て理由
異議申立人は、以下のように主張し、本決定の取り消しを求めるというものである。
事業者間の競争が激しくなっており、開示されることにより、事業上多大な支障をきたした経緯がある。開示に関わって意見書を提出したが、意見書の内容を開示請求者にも調査した経緯はあるか。あれば、その回答を異議申立人にも行い、双方の意見を十分に聞いたうえで決定を行うべきである。異議申立人の主張に耳を貸さないのは納得できない。
7 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
本決定において、実施機関は、当該法人の取引銀行の口座情報、入出金額、残高、認め印影、取引単価、取引金額及び住民の氏名については、条例第7条第2号に規定する個人情報及び条例第7条第3号に規定する法人情報に該当するため非開示としたが、この点について争いはない。
また、異議申立人は、開示決定に当たり、開示請求者と異議申立人双方の意見を聴取し判断すべきであると主張するが、条例上にそのような扱いは規定されていないため、当審査会は、この点についての判断を行わない。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、条例第7条第2号については争いがないことから、条例第7条第3号の該当性について、以下のとおり判断する。
(2)本件対象公文書について
異議申立人が非開示を求める情報が含まれている本件対象公文書は、標記起案文書及び添付されている当該法人が農林商工環境事務所長に提出した始末書、紙購入・破砕・混合のフローチャート、当該法人がその取引先にあてた要望書、当該法人がその取引先にあてた請求書、入出金明細照会結果、振込後入金先口座登録結果、当該法人とその取引先が交わした覚書及び当該法人の取引先から当該法人にあてた請求書及び産業廃棄物監視指導業務日報からなっている。
(3)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が開示としたが、異議申立人が非開示を主張している情報は、当該法人の取引先法人の名称、所在地、社章、社印、代表取締役氏名及び印影(以下「事業者等を特定し得る情報」という。)であり、異議申立人が燃料を製造するために受け入れた廃プラスチック等の廃棄物を排出した事業者等を特定し得る情報(以下「排出事業者情報」という。)、古紙を異議申立人に売却した事業者等を特定し得る情報(以下「古紙の売主情報」という。)及び異議申立人が製造した固形燃料を納入した事業者等を特定し得る情報(以下「納入先事業者情報」という。)である。
実施機関は、排出事業者情報、古紙の売主情報並びに納入先事業者情報は、法人の一般的な商取引に関する情報であり、開示することにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害することが認められるとしたが、産業廃棄物の処理に関連した事業は、可能な限り関連する情報を開示し、住民等の不安感・不信感を払拭すること等が要請されていることから、非開示により保護する利益よりも人の生命、身体、健康や県民等の生活環境を保護するため公にするという公益が優先されるとし、条例第7条第3号(法人情報)ただし書ハに該当し、開示することが妥当であると主張している。
これに対して異議申立人は、異議申立人の取引先情報を含む文書が開示されたことにより、取引先に事実無根の情報が入れられ、取引先から取引を断られるなど、異議申立人の事業活動に重大な支障を来たした事例があることから、開示されることにより、事業上多大な支障をきたすとして、本決定の取り消しを求めている。
本件異議申立の対象となった情報は、廃棄物の処理に関する情報、古紙の売買に関する情報及び固形燃料の売買に関する情報に峻別されると認められる。
廃棄物の処理に関しては、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第12条の3は「環境省令で定めるところにより、当該委託に係る産業廃棄物の引渡しと同時に当該産業廃棄物の運搬を受託した者(当該委託が産業廃棄物の処分のみに係るものである場合にあつては、その処分を受託した者)に対し、当該委託に係る産業廃棄物の種類及び数量、運搬又は処分を受託した者の氏名又は名称その他環境省令で定める事項を記載した産業廃棄物管理票を交付しなければならない。」と規定している。制度上は、産業廃棄物管理票は廃棄物の排出事業者から受託事業者に交付され、通常は事業者において保管されるものであるが、実施機関が当該管理票の写しを保有している場合には、排出事業者及び受託事業者に関する情報は開示されていることから、本件排出事業者情報を開示することによって、当該法人の競争上の不利益その他正当な利益を害するとは認められない。よって、排出事業者情報を本条本号ただし書ハに該当するとした実施機関の判断は採用できないが、本条本号に該当せず、開示とした決定は妥当である。
古紙の売買及び固形燃料の売買に関しては、本件対象公文書中に有価物の売買を示す記録が認められることから、実施機関が本条本号に規定する法人情報に該当するとした判断は妥当である。しかしながら、実施機関は、本条本号ただし書ハに該当するとして、開示を決定しているので、同ただし書の該当性について検討する。
固形燃料自体は製品であり、その販売に関しては一般の事業活動となんら変わらないと認められるが、実施機関の説明によると、産業廃棄物由来の製品である固形燃料についてはさまざまな評価があり、未だ評価が定まっていないため、産業廃棄物の処理に係る事案では、可能な限り関連する情報を開示し、住民等の不安感・不信感を払拭することが必要であると主張している。環境行政に力を注がなければならない社会情勢の中で、固形燃料に関する評価が定まっていないことから、住民の不安も高いので、実施機関が開示とした判断は理解できる。
また、本条本号ただし書イの「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護する」情報及びただし書ロの「違法又は不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある影響から県民等の生活又は環境を保護する」情報に該当するとまでは言えず、明確な被害が出ているわけではないが、固形燃料に関する評価が定まっていないことから、住民の不安も高いので、本条本号ただし書イ又はロに準じる情報であって、公益上公にすることが必要であると認められるものであるとして、本条本号ただし書ハに該当するとして、実施機関が開示とした判断は理解できる。
したがって、固形燃料製造のための原料としての古紙の売主情報並びに納入先事業者情報を、本条本号ただし書ハに該当するとして開示とした実施機関の決定は妥当であると判断する。
(7)結論
よって、主文のとおり答申する。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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19. 5. 9 | ・諮問書の受理 |
19. 5.10 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
19. 5.24 | ・非開示理由説明書の受理 |
19. 5.25 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
19. 6.18 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第272回審査会)
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19. 7.20 | ・審議
(第274回審査会)
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19. 8.22 | ・審議
(第277回審査会)
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19. 8.29 | ・審議 ・答申 (第278回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学准教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。