三重県情報公開審査会 答申第275号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年9月29日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成15~18年度の指導力向上支援の指導者が使っていたガイドブック等」の開示請求のうち、「平成15年9月の基礎講座「食に関する指導」の講座の研修教員が書いたまとめ文書」の請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成18年10月12日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、平成15年9月3日に指導力向上支援研修の全研修教員が作成した次の公文書である。
ア 受講講座のまとめ(8件)
イ 今日の基礎講座を振り返って(8件)
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○条例第7条第2号(個人情報)に該当
指導力向上支援研修を受講している研修教員の氏名は、公務員の職務に関する情報であるが、開示することにより、不名誉な言葉を浴びせられるなど、私生活上の権利利益を害するおそれがある情報であり、また、同号ただし書に該当しない。
研修教員の氏名以外の職務に関する情報の開示・非開示の判断を行うに当っては、当該研修を受講した研修教員、研修教員の所属校の職員や児童生徒及びその保護者、当該研修について何らかの情報を有する公立学校職員など、当該特定の研修教員と一定の関係にある者(以下「研修関係者」という。)から開示請求があった場合を想定し、これらの研修関係者への情報開示による個人の権利利益を害するおそれの有無を基準にして開示・非開示の判断を行う必要がある。本件対象公文書に記載された情報のうち研修教員名、日付け及び講座名を除く記入部分(以下「本件記入部分」という。)は、その内容や相当量の筆跡から、研修関係者にとっては個人を識別し得る情報であり、これを開示することにより、研修教員の氏名の開示と同様に、個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある。
また、本件記入部分は、個人識別性がない場合でも、個人の人格と密接に関連する情報となり得るため、開示することは適切でない。○条例第7条第6号(事務事業情報)に該当
本件記入部分は、公にすることにより、研修教員が過度に意識し、否定的な自己評価についてありのままに記載することを控えて画一的な記載に終始するなどし、その結果、記載内容が形骸化するなどにより、指導力向上支援研修事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
5 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次の理由により、本決定は条例の解釈運用を誤っているというものである。なお、異議申立人は、異議申立書及び当審査会へ提出した意見書において研修教員の氏名の開示も求めていたが、当審査会の口頭意見陳述において、これを取り下げている。
本件記入部分は、研修関係者であれば個人を識別できるとしても、研修関係者は地方公務員であると想定され、守秘義務があるから、個人の私生活上の権利利益を害するおそれはない。開示・非開示の判断は、研修関係者を基準とするのではなく、一般県民を基準とすべきである。
実施機関は、個人の人格と密接に関連する情報というなら、どの情報が該当するか具体的に特定して説明しなければならない。
研修教員の氏名を開示しなければ、本件記入部分を開示しても、記載内容が形骸化・空洞化するおそれはない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。 そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
なお、公務員等の職務に関する情報は、「個人に関する情報」に当たらないが、公務員等の職務に関する情報であっても、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある場合は、本号に該当するとしている。
また、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)第5条第1号本文に規定する「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある」情報については、条例では明文の規定はないが、そもそもこのような情報は全体が個人情報に該当し、原則として非開示となるべきものと解されている。例えば、カルテ、反省文のように、個人の人格と密接に関係する情報などがこれに該当し、このような情報は、個人識別性がない場合であっても、開示されることにはならない場合がある。
(3) 指導力向上支援研修及び本件対象公文書について
実施機関の説明によると、指導力向上支援研修とは、県教育委員会から指導力不足等教員に認定されて研修命令を受けた教員が不足している指導力の回復や資質の向上を図り、円滑な職場復帰を図るために実施する研修である。指導力不足等であることを自ら認識し自発的に受講するものではなく、職務命令により受講するものである。
また、本件対象公文書のアの「受講講座のまとめ」は、平成15年9月3日の基礎講座「食に関する指導」の講義を聴いた研修教員が講義の内容を自分なりにまとめたものであり、本件対象公文書のイの「今日の基礎講座を振り返って」は、当該「受講講座のまとめ」を踏まえ、これまでの自らの指導等についてよかったと評価できる点や足りなかったと気づいた点などについて記述して作成するものである。いずれの文書も、パソコンなどを用いて作成するのではなく、研修教員自らが手書きで作成したものである。
(4) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
まず、本件記入部分は、その内容や相当量の筆跡から研修関係者にとっては個人を識別し得る情報であるという実施機関の主張について、検討する。
当審査会が本件対象公文書を見分したところ、本件対象公文書のイの「今日の基礎講座を振り返って」の一部に、研修教員の職歴や校務分掌に関する記述が見られたほかは、特定の研修教員を識別し得るような内容は見当たらなかった。この点、実施機関からも、具体的にどの内容が特定の研修教員を識別し得る内容であるかの説明はない。また、本件対象公文書における日付けや講座名の筆跡は既に開示されているところ、その量の多寡をもって本件記入部分のみ非開示にする合理性は乏しいと考えられる。したがって、本件記入部分のうち、研修教員の職歴や校務分掌に関する記述は個人を識別し得る情報であるが、その他の記述は個人を識別し得る情報とは認められない。
次に、本件記入部分は、個人識別性がない場合でも、個人の人格と密接に関連する情報となり得るため、開示することは適切でないという実施機関の主張について検討する。
本件対象公文書は、いずれも公務員が職務上作成した文書であり、基本的には開示すべきものである。しかし、(3)で述べた指導力向上支援研修及び本件対象公文書の性格にかんがみれば、本件対象公文書のイの「今日の基礎講座を振り返って」における記載は、各研修教員が自らを真摯に顧みて記載した内心に関する情報であって、個人の人格と密接に関係する情報であると認められる。このような情報は、(2)で述べたとおり、個人識別性がない場合であっても、開示されることにはならない。また、本件対象公文書のアの「受講講座のまとめ」は、「今日の基礎講座を振り返って」を作成するための基礎となるものであり、当審査会が見分したところでもその記載内容(言い換えれば、当該講義の理解のしかた)は様々であることから、その開示非開示の判断は、「今日の基礎講座を振り返って」における記載に準じて行うべきである。
したがって、本件記入部分は、その全体が本号本文に該当し、同号ただし書のいずれの情報にも該当するとは認められないことから、非開示が妥当である。
なお、実施機関は、本件記入部分は条例第7条第6号(事務事業情報)にも該当すると主張しているが、上記のとおり本件記入部分は非開示が妥当であることから、同号の該当性について判断するまでもない。
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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18.12. 1 | ・諮問書の受理 |
18.12. 7 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18.12.28 | ・非開示理由説明書の受理 |
19. 1. 9 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
19. 3.20 | ・異議申立人からの意見書の受理 |
19. 3.26 | ・実施機関に対して意見書の送付 |
19. 6.29 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第273回審査会)
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19. 7.31 | ・審議 ・答申 (第275回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学准教授 |
※委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。