三重県情報公開審査会 答申第271号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当とした部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年10月22日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の法人がリサイクル製品の認定申請をしたことに係る一切の情報等」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成17年10月31日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、次のとおりである。
- 平成15年3月25日付けリサイクル認定製品認定申請書
- 工場立入調査に伴う指摘、訂正、追加事項等(平成15年6月10日)
- フェロシルトのリサイクル製品認定に関する件(FAX:平成15年7月1日、平成15年7月2日)
- 第一回三重県リサイクル製品利用推進条例建設資材WG議事概要
- 第一回三重県リサイクル製品利用推進条例建設資材部会議事概要
- 三重県リサイクル製品利用推進条例認定検討会「環境部会」について「平成15年7月7日」
- 三重県リサイクル製品利用推進条例認定検討会「環境部会」について「平成15年9月12日」
- 三重県リサイクル製品利用推進条例認定検討会(平成15年度第2回)の審査結果等について
- 三重県リサイクル製品利用推進条例認定検討会(平成15年度第3回)の審査結果等について
- リサイクル製品の認定に係る選任認定委員意見聴取結果について
- 三重県認定リサイクル製品に関する要望への回答について
- 「フェロシルト」に関する申入書について(回答)(平成17年6月24日起案)
- 「フェロシルト」に関する申入書について(回答)(平成17年7月8日起案)
- 三重県リサイクル認定製品認定手順について
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○ 三重県情報公開条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書のうち、特定の法人の社員の氏名や印影等は、特定の個人が識別されたり、他の情報と組み合わせることにより特定の個人が識別され得る情報である。
○三重県情報公開条例第7条第3号(法人情報)に該当
本件対象公文書のうち、フェロシルトの生産方法における配合割合は、生産、技術、販売等の情報であって、開示することにより法人等の事業活動に対し、競争上不利益を及ぼすおそれがある。
○三重県情報公開条例第7条第6号(事務事業情報)に該当
本件対象公文書のうち、認定リサイクル製品の県の使用基準の単価比較比は、開示することにより県の認定リサイクル製品の契約、交渉に係る事務に関し、当該事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
5 異議申立て理由
本件部分開示決定は、「公開しない理由」がないにもかかわらずなしたもので、違法である。
土質試験の検査に関わった者の氏名は、資格を持って、あるいは資格を持った検査機関の一員として行っているのだから、純然たる個人情報には当たらず、開示すべきである。
フェロシルトの生産方法における配合割合が非開示とされているが、当該配合割合どおりに他の企業が生産することはあり得ないから、開示しても特定の法人が競争上不利益になるとはいえない。
認定リサイクル製品の県の使用基準の単価比較比については、県の認定責任にも関わる問題であると考えられるから、開示することにより県民がチェックできるようにすべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報のうち、異議申立てに係る情報は、本件対象公文書のうちフェロシルトの土質試験の試験結果報告書に試験者又は整理担当者として記載された者の氏名である。実施機関は、本件対象公文書のうちフェロシルトの計量証明書に記載された環境計量士の氏名については、計量法に基づく国家資格を有することから開示する一方で、そのような資格を要しない土質試験の試験者又は整理担当者の氏名については、非開示としている。
そこで、当審査会において上記の試験結果報告書を見分したところ、当該試験結果報告書にはフェロシルトの土質試験を行った試験機関の名称等とあわせて、試験者又は整理担当者の氏名が記載されていた。これは、その試験に関する限り、当該試験者又は整理担当者は、試験機関内部で責任ある立場にあって、いわば試験機関を代表してその試験を行い、その試験結果の真正を示す者として氏名を記載しているものと考えられる。そして、このことは、環境計量士のような国家資格の有無によって左右されるものではない。
ところで、法人等の代表者が職務として行う行為など当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報については、本号に該当せず、条例第7条第3号(法人情報)の該当性を検討すべきであり、このことは上記のように試験機関内部で責任ある立場にある者が、その試験に関し試験機関を代表して当該試験機関の職務として行う行為に関する情報についても、同様であると考えられる。
したがって、当審査会は、本件対象公文書のうち試験結果報告書に試験者又は整理担当者として記載された者の氏名については、条例第7条第3号(法人情報)の該当性の項で検討することとする。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
まず、実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした、本件対象公文書に記載されたフェロシルトの生産方法における配合割合について、本号該当性を検討する。
実施機関の説明によると、本決定は、フェロシルト問題の原因究明のための調査を開始した時期に行われたものであり、リサイクル認定製品認定申請書に記載されたとおりに生産され、その性能を発揮していれば、当該申請書に記載された配合割合は、当該申請者の生産、技術、販売等に関する情報であって、開示することにより当該申請者の事業活動に対し競争上不利益を及ぼすおそれがあると判断したというものである。なお、本決定後の平成17年12月15日に三重県フェロシルト問題検討委員会から提出された「フェロシルト問題に関する検討調査最終報告書」では、上記の配合割合でフェロシルトを生産しても、これを埋め戻し材として使用する施工現場の状況によっては六価クロムが生成する可能性があるとの調査結果が示されていることから、実施機関としても、現時点であれば当該配合割合は本号に該当せず、開示すべきものと考えているようである。
確かに、当該配合割合どおりに生産しても施工現場の状況によっては六価クロムが生成する可能性があったという事実は、本決定の時点においては分らなかったとの実施機関の説明も理解できなくはない。しかしながら、本決定の時点において当該事実は客観的に存在していた以上、実施機関が分らなかったからといって当該配合割合を現在も非開示にできるものではない。そして、本決定の以前からフェロシルト問題は既に大きな社会問題となっていて、実施機関も認めるとおり、他の事業者がこれを模倣して類似の製品を生産するような動きもないことから、当該配合割合を開示してもフェロシルトのリサイクル認定製品の認定申請をした申請者の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
したがって、本件対象公文書に記載されたフェロシルトの生産方法における配合割合は本号に該当しないから、開示すべきである。
次に、本件対象公文書のうち試験結果報告書に試験者又は整理担当者として記載された者の氏名について、本号該当性を検討する。
上記(3)で述べたように、本件対象公文書のうち試験結果報告書に試験者又は整理担当者として記載された者の氏名について、実施機関は個人に関する情報に該当するとして非開示としたため、本号の該当性を主張していないが、試験機関内部で責任ある立場にある者が、その試験に関し試験機関を代表して当該試験機関の職務として行う行為に関する情報は、本号により開示非開示の判断を行うべきものである。
当該試験者又は整理担当者は、フェロシルトの土質試験に関し試験機関を代表して試験を行い、その試験結果の真正を示す者として氏名を記載していると考えられること、一般に試験結果の報告書や証明書は、その依頼者を通じて第三者に交付されることが当然予想されることを勘案すれば、当該試験者又は整理担当者の氏名を開示することにより、当該試験機関の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
したがって、上記試験結果報告書に試験者又は整理担当者として記載された者の氏名は本号に該当しないから、開示すべきである。
(6) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(7) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、本件対象公文書に記載された認定リサイクル製品の県の使用基準の単価比較比である。
実施機関の説明によると、三重県リサイクル製品利用推進条例(平成13年三重県条例第46号)第15条に基づき、県は、県の行う工事又は物品の調達において認定リサイクル製品を優先的に使用又は購入するように努めなければならないことから、一般製品より少し高い価格であっても、一定の使用基準(一般製品と比べて何倍かを示す単価比較比のこと。)までは、使用又は購入するように努めているものである。そして、当該使用基準は、認定リサイクル製品ごとに定めているのではなく、他の認定リサイクル製品にも適用されるから、これを開示すると、フェロシルト以外の認定リサイクル製品の生産者がその上限まで見積価格を引き上げる可能性があると実施機関は主張している。
当審査会としても、上記のように他の認定リサイクル製品にも適用される使用基準の単価比較比を公にすると、フェロシルト以外の認定リサイクル製品の見積価格が引き上げられ、その結果、県が認定リサイクル製品を使用又は購入する際の契約、交渉に係る事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認めざるを得ない。
したがって、本件対象公文書に記載された認定リサイクル製品の県の使用基準の単価比較比を本号に該当するとして非開示とした実施機関の判断は、妥当である
(8) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、次のとおりである。
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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17.12.12 | ・諮問書の受理 |
17.12.22 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18. 1.20 | ・非開示理由説明書の受理 |
18. 2. 1 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
19. 2.14 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 (第263回審査会)
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19. 3.14 | ・実施機関の補足説明 ・審議 (第267回審査会)
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19. 5.11 | ・審議 ・答申 (第270回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 (平成19年3月31日辞職) |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学准教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
※委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 (平成19年4月17日就任) |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部准教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。