三重県情報公開審査会 答申第270号
答申
1 審査会の結論
実施機関の行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年3月24日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「227回、228回三重県情報公開審査会の議事録」の開示請求に対して、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成18年4月7日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)について、開示しない理由の記載が不備であるため、本決定の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
第227回三重県情報公開審査会会議録
第228回三重県情報公開審査会会議録
4 実施機関の非開示理由説明要旨
非開示とした三重県情報公開審査会委員の発言の一部(以下「本件非開示部分」という。)は、三重県情報公開審査会答申第221号に掲げる情報に相当する公文書の有無に関するものであるが、その情報に関しては、個人を特定した上で、当該個人に関して記録された公文書の開示を求めていることから、実施機関が行った存否応答拒否の決定が妥当であるとの答申が出されている。ところが、本件非開示部分を開示すると、結果的に当該個人に関することが記録された公文書の存否が明らかになる。
すなわち、本件非開示部分は、特定の個人を識別し得るものであり、また、法令等又は慣行により公にされ又は公にすることが予定されている情報や、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するために公にすることが必要な情報であるとは認められない。
また、非開示とした理由は、本件部分開示決定通知書に記載しており、条例第15条第1項に規定する理由付記として不備はないと考える。
5 異議申立ての理由
非開示処分に係る理由の正当性の立証責任は、文書を保有する実施機関にあるとするのが妥当である。もし、異議申立人に立証責任があるとするならば、異議申立人に開示請求対象文書に含まれる情報が例外事由に該当しないことの立証が求められることになるが、開示請求対象文書に含まれる非開示情報を知り得ない異議申立人にとっては、不可能を強いられることになる。
条例第15条が実施機関に理由付記を義務付けているのは、非開示理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保して、その恣意を抑制するとともに、非開示の理由を開示請求者に知らせることによって、その不服申立に便宜を与える趣旨で出たものであり、平成4年の最高裁判決は、不開示決定の通知において、住民・原告に対して、不開示の根拠規定を示しただけの不開示処分を違法として、東京都の不開示処分を取り消している。その判旨は、非開示理由の有無についての実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、非開示の理由を開示請求者に知らせることによって、その不服申立に便宜を与える趣旨に出たものというべきである。今回の決定でなされたように、事実上不開示条項を挙げるだけのものでは、条例の求める説明責任を果たしたとはいえないことは明らかである。
本件において、非開示部分は委員の発言要約の一部をなしており、文脈上一つのセンテンスになっていると思われるが、個人の名前が出ているとは推定されず、文脈からして、その全てを非開示とする理由はないと推定される。実施機関が、個人を識別し得る情報とするのは、その一部でしかないと推定される。その全部が該当するものではなく、該当しない部分は、当然に開示されるべきだと考える。非開示部分が、仮に推定するようにセンテンスであるとするならば、その全てを非開示とすることが妥当か否かの判断を求めたい。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、本決定における開示しない理由の記載の妥当性について以下のとおり判断する。
(2)条例第15条(理由付記等)の意義について
本条は、公文書の全部又は一部を開示しない場合の理由付記の必要性について定めたものである。条例第12条は、「当該決定の内容が、請求に係る公文書の全部を開示する旨であって、請求書の提出があった日に公文書の開示をするとき」を除き、書面によって決定を行うことを要求しており、また、本条は、決定の書面主義に加えて、書面に理由の付記を要求している。
これは、決定理由の付記は決定行為の発動を慎重ならしめ、決定の適正化をもたらす効果を持つこと、さらに、決定理由の明示は当事者が争訟を提起するのに便宜なこと、などが意図されているのであるから、実施機関は決定の根拠条文を示すだけでなく、具体的事実に基づき推論過程を明らかにするなど判断の根拠を明示しなければならないとしている。また、全然理由を付さなかったり、理由らしき理由を付さなかったときは、決定に形式上の瑕疵があるとされる。
(3)理由付記の妥当性について
本件非開示部分について、当審査会がインカメラ審理により見分したところ、本審査会が答申第221号により、実施機関の存否を応答しない決定が妥当であると答申した情報に相当する公文書の有無に関する発言内容であり、開示することにより当該公文書の存否を推察し得ることになる。当該事案は、個人を特定した上で、当該個人に関する情報を含む公文書の開示を求めているのであり、当該公文書の存否が明らかになってしまうと、非開示情報が開示されることとなることが認められる。したがって、条例第7条第2号本文に規定する個人情報に該当するとした実施機関の説明は妥当である。
本決定通知書には、開示しない部分として「「三重県立学校の事件等に関する文書」の公文書の存否を明らかにしない決定に対する異議申立事案の「委員による審理」の発言内容のうち、実施機関が公文書の存否を明らかにしない決定を行った公文書の有無に関して発言している部分」と記載され、上記部分を開示しない理由として「非開示とした情報は、個人に関する情報であって特定の個人を識別し得る情報であり、また、法令等又は慣行により公にされ又は公にすることが予定されている情報や、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するために公にすることが必要な情報であるとは認められず、三重県情報公開条例第7条第2号により非開示情報に該当するため」と記載されている。
当該非開示理由が、個人情報であり、しかも存否に関わるものであることをあわせて考慮すると、詳細に過ぎる説明は非開示とすべき情報を開示してしまうことにもなる。上記部分を開示しない理由の記述は、確かに条文の引き写しになっているが、開示しない部分の記述に非開示とされた情報については記載されており、開示しない部分の記載事項と、上記部分を開示しない理由の記載事項とをあわせて読めば、実施機関の決定の理由は、十分に読み取れると認められる。
異議申立人の主張には傾聴すべきところがあるが、本件に関しては、決定を取り消して新たな決定を求めるほどの不備は認められない。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1、審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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18. 5.25 | ・諮問書の受理 |
18. 5.31 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18. 6.23 | ・非開示理由説明書の受理 |
18. 7. 7 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
19. 2.26 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第264回審査会)
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19. 3.23 | ・審議 ・答申 (第268回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
会長務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。