三重県情報公開審査会 答申第268号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当とした部分を除き、開示すべきであったと判断する。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年8月29日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の法人の工場への工水給水に関する協議経過と内容について分る全ての文書等」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成18年9月11日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、次のとおりである。
- 打ち合わせ概要(7件)
- 確認書(1件)
- 協定書(1件)
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○ 条例第7条第5号(審議検討情報)に該当
本件対象公文書の(1)のうち、平成18年8月8日打ち合わせ概要における知事の発言には、特定の法人の工場への所在の市による暫定給水後の県の対応について言及する部分があり、この部分が公にされると、今後、当該課題に関する県と関係市町との協議の際の率直な意見の交換が不当に損なわれ、公正な意思形成が妨げられたり、また、不当に県民等との間に混乱を生じるおそれがある。
なお、本決定において非開示としていた情報については、その後、県と関係市町との協議が進展し、条例第7条第5号(審議検討情報)に該当しなくなったため、平成19年1月15日付けで本決定を変更して開示したが、異議申立人から異議申立てを取り下げる申出はなかった。
5 異議申立て理由
県と市との協定の内容に盛り込まれるべき内容が法令を順守しているとすれば、その協定、確認書の基礎となる協議内容を秘匿することは、「説明責任」を果たす上で許されない。
県と市との協定は、地方自治体間の契約であり、その内容は既に当該自治体での意思形成がなされた後のものであるから、審議検討情報に該当しない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第5号(審議検討情報)の意義について
本号は、行政における内部的な審議、検討又は協議の際の自由な意見交換や公正な意思形成が妨げられ、歪められたり、特定の者に利益や不利益をもたらすことなく、適正な意思形成が確保される必要から定められたものである。
(3) 条例第7条第5号(審議検討情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報(以下「本件非開示情報」という。)は、本件対象公文書の(1)のうち、平成18年8月8日の打ち合わせ概要に記載された知事の発言の一部である。本件非開示情報は、上記4のとおり、本件異議申立て後に開示されているが、異議申立人はあくまでも本決定の妥当性について争っていることから、当審査会もこの点について判断する。
本件非開示情報は、平成18年8月8日に開催された知事と市長の打ち合わせにおいて、市長が同市による暫定給水後の県の対応として候補事業を示すように求めたことに対する知事の回答を記載したものである。当審査会が本件対象公文書をインカメラ審理により見分したところ、本件非開示情報の前半部分には、県が候補事業と考えていた事業の名称が複数列挙されており、本件非開示情報の後半部分には、当該候補事業に関する県の認識や対応方針が記載されている。
確かに、実施機関が主張するように、特定の法人の工場への水の供給に当たっては関係市町との協議を慎重に進める必要があったことは理解でき、当該協議がまだ進んでいなかった本決定の時点において、本件非開示情報の後半部分に記載された上記候補事業に関する県の認識や対応方針を公にすると、県がその判断を推進しようとしていると受け取られるなどにより、県や関係市町の協議における率直な意見交換や意思決定の中立性が不当に害されるおそれがあると認められる。
これに対し、本件非開示情報の前半部分については、単に候補となる事業の名称が複数列挙されているにすぎない。実施機関は、列挙された事業には本決定の時点において一般に知られていなかった事業も含まれているから、県がこれを候補として考えているという事実そのものが、公にされることにより県や関係市町の協議の支障となる旨主張するが、そのような一般に知られていなかった事業であっても、後半部分のような県の認識や対応方針とともに公にされない限り、単に候補事業の一つであって、これを公にしても、県や関係市町の協議における率直な意見交換や意思決定の中立性が不当に害されるおそれがあるとは認められない。
したがって、本件非開示情報のうち、その前半部分は本号に該当しないから開示すべきであったが、その後半部分を本号に該当するとして非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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18. 9.22 | ・諮問書の受理 |
18. 9.28 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18.10.18 | ・非開示理由説明書の受理 |
18.10.26 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
19. 3. 1 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第266回審査会)
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19. 3.14 | ・審議 ・答申 (第267回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。