三重県情報公開審査会 答申第267号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年12月23日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の法人が特定の土地上に搬入した古畳について三重県が取った措置等に関する一切の情報」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成18年2月3日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、別表の左欄(本件対象公文書)に記載したとおりである。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書に記載された情報のうち、別表の右欄(実施機関が非開示とした情報)に掲げた(1)、(2)、(5)、(7)から(11)まで、(13)から(15)まで、(17)から(19)まで及び(21)の情報は、個人に関する情報であり、開示することにより特定の個人が識別されるため、非開示とした。
なお、名義変更中の土地所有者の氏名は、土地登記簿謄本に記載の現所有者でないため非開示とし、特定の法人から委任を受けた者の氏名は、正式な委任を受けた者でなかったことが後日判明したため非開示とした。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
本件対象公文書に記載された情報のうち、別表の右欄(実施機関が非開示とした情報)に掲げた(3)、(6)、(12)、(16)及び(20)の情報は、廃畳の処理単価及び契約金額に関する特約条件に関する情報であり、同業他社との競合により、当該処理業者が不利益を被る危険性があり、法人の営業情報に当たるため、非開示とした。
また、別表の右欄(実施機関が非開示とした情報)に掲げた(4)の情報は、特定の法人が行った廃畳の不適正保管とは無関係な事業者の名称、住所など当該事業者が特定できる情報であり、これらの情報が公にされることにより、当該事業者が廃畳の不適正保管に関与していたかのごとく捉えられ、その結果、風評被害などにより当該事業者の社会的評価が損なわれると認められるため、非開示とした。
5 異議申立て理由
本件部分開示決定は、「公開しない理由」がないにもかかわらずなしたもので、違法である。
廃棄物処理法違反のような違法情報については、法人の競争上の利益はないから、開示すべきである。法人の正当な利益を害するとか、特定の個人が識別されるなどといって、情報を秘匿するのは、情報公開制度を使って行政を監視しようとする者に対して、説明責任に反する。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、別表の右欄(実施機関が非開示とした情報)に掲げた(1)、(2)、(5)、(7)から(11)まで、(13)から(15)まで、(17)から(19)まで及び(21)の情報であり、以下のとおり分類することができる。
(a)名義変更中の土地所有者の氏名(姓を含む。)、住所、職業、年齢、財産状況、家庭状況及び収入状況
別表の右欄の(1)及び(14)の情報
(b)マニフェストの交付担当者欄及び運搬担当者欄に記載された担当者の氏名(姓を含む。)
別表の右欄の(2)、(8)及び(10)の情報
(c)領収証に押印された担当者の印影
別表の右欄の(5)の情報
(d)特定の法人から委任を受けた者の氏名(姓を含む。)、住所、年齢及び肖像
別表の右欄の(7)、(9)、(11)、(13)及び(17)の情報
(e)特定の法人の代表取締役の年齢
別表の右欄の(15)及び(18)の情報
(f)特定の産業廃棄物収集運搬業者の従業員の姓、役職、肖像及び印影
別表の右欄の(19)の情報
(g)特定の産業廃棄物処分業者の従業員の印影
別表の右欄の(21)の情報
(a)に掲げる情報は、特定の法人が廃畳を不適正に保管した土地の所有者の氏名、住所等に関する情報であり、条例第7条第2号本文の「個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るもの」に該当することは明らかである。そして、一般に特定の土地の所有者の氏名は土地登記簿により公にされている情報であるが、(a)に掲げる名義変更中の土地所有者の氏名については、名義変更の事実が確認されておらず、本号ただし書イの「法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当しない。また、本件の廃畳の不適正保管により、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境に被害が発生し、又はそのおそれが生じたとは認められず、その他人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため(a)に掲げる情報を公にすることが必要であるとも認められないから、本号ただし書ロの「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」にも該当しない。したがって、(a)に掲げる情報を本号に該当するとして非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(b)、(c)、(f)及び(g)に掲げる情報は、いずれも本号本文に該当することは明らかであり、また、(a)に掲げる情報と同様に、同号ただし書イ又はロのいずれにも該当するとは認められないから、これらの情報を本号に該当するとして非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(d)に掲げる情報は、特定の法人から委任を受けた者の氏名(姓を含む。)、住所、年齢及び肖像である。
ところで、法人等の代表者が職務として行う行為など当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報については、本号に該当せず、条例第7条第3号(法人情報)の該当性を検討すべきであり、このことは法人等の代理人の行為に関する情報についても同様であると考えられる。この点に関し、実施機関は、正式な委任を受けた者でなかったことが後日判明したため、(d)に掲げる情報を非開示としたと主張するが、当人が代理人であると称し、県も長期間それを信用して代理人として扱っていた以上、結果的に委任があったかどうかにかかわらず、代理人あるいは代表者に準じる者として開示非開示の判断を行うべきものと考える。したがって、当審査会は、(d)に掲げる情報のうち、特定の法人から委任を受けた者の氏名(姓を含む。)については、条例第7条第3号(法人情報)の該当性の項で検討することとし、本項においては、特定の法人から委任を受けた者の住所、年齢及び肖像の条例第7条第2号(個人情報)の該当性を判断することとする。
特定の法人から委任を受けた者の住所、年齢及び肖像は、当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報ではなく、条例第7条第2号本文の「個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るもの」に該当することは明らかである。また、これらの情報は、(a)に掲げる情報と同様に、同号ただし書イ又はロのいずれにも該当するとは認められない。したがって、(d)に掲げる情報のうち、特定の法人から委任を受けた者の住所、年齢及び肖像を本号に該当するとして非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(e)に掲げる情報は、特定の法人の代表取締役の個人に関する情報であって、本号本文に該当することは明らかであり、また、(a)に掲げる情報と同様に、同号ただし書イ又はロのいずれにも該当するとは認められないから、(e)に掲げる情報を本号に該当するとして非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
まず、実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報のうち、別表の右欄(実施機関が非開示とした情報)に掲げた(3)、(6)、(12)、(16)及び(20)の情報の本号該当性について検討する。
異議申立人は、本件の廃畳の処理は、訴訟の提起や捜査の開始などの特殊な状況において決まったもので、処理費の額も通常の取引の中で設定されたものではないから、開示しても、当該処理を請け負った産業廃棄物処理業者の競争上の地位を害することはないと主張している。
確かに、上記(3)、(6)、(12)、(16)及び(20)に記載された額及び特約条件は、実施機関も認めるように、通常の廃畳の処理費よりも相当廉価な金額及び条件のようであるものの、いかなる金額及び特約条件で請け負うかどうかも法人の営業に関する情報であり、これを開示することにより、当該産業廃棄物処理業者の請負金額及び条件の前例となって今後の事業活動に支障を来たすなど、当該産業廃棄物処理業者の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。また、本件廃畳は既に撤去が完了しているから、人の生命、身体、健康又は財産の保護その他公益上公にすることが必要である情報とも認められない。
したがって、上記(3)、(6)、(12)、(16)及び(20)の情報は、本号本文に該当し、同号ただし書のいずれにも該当しないから、これらの情報を本号に該当するとして非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
次に、実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報のうち、別表の右欄(実施機関が非開示とした情報)に掲げた(4)の情報の本号該当性について検討する。
実施機関は、上記(4)の情報は、特定の法人が行った廃畳の不適正保管とは無関係な産業廃棄物処理業者の名称、住所など当該業者が特定できる情報であり、これらの情報が公にされることにより、当該業者が廃畳の不適正保管に関与していたかのごとく捉えられ、その結果、風評被害などにより当該業者の社会的評価が損なわれると認められると主張する。
確かに、廃畳の不適正保管に無関係な産業廃棄物処理業者に関する情報を開示することにより、これを閲覧する者によっては、その内容を誤解し、当該業者も不適正保管に関与していたと考え、ひいては当該業者の利益が害されるおそれがないとはいえない。しかるに、本号(法人情報)は、公にすること「により」、法人等の利益を害すると「認められる」ものを非開示とすると規定しているのであって、公にすることに加え他の不確定な要因が重なり、法人等の利益を害する「おそれがある」ものまで非開示とすると規定しているわけではない。すなわち、本号により非開示とされる情報は、「公にすることにより」、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものであって、「公にすることにより」直ちに法人等の利益を害するのではなく、公にされた情報を閲覧した者が誤解した場合に、はじめて法人等の利益を害する「おそれ」があるにすぎないものまで含むものではない。したがって、単に廃畳の処理委託契約書に最終処分先として記載されているにすぎず、廃畳の不適正保管に関与していたかのような記述が見当たらない産業廃棄物処理業者の名称等は、これを開示しても、直ちに当該業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとまでは認められない。
したがって、上記(4)の情報は本号に該当しないから、開示すべきである。
最後に、上記(3)の(d)に掲げる情報のうち、特定の法人から委任を受けた者の氏名(姓を含む。)について、本号該当性を検討する。
上記(3)で述べたように、上記(3)の(d)に掲げる情報のうち、特定の法人から委任を受けた者の氏名(姓を含む。)について、実施機関は個人に関する情報に該当するとして非開示としたため、本号の該当性を主張していないが、法人の代理人であると称し、かつ、県も長期間それを信用して代理人として扱っていた者の行為に関する情報は、本号により開示非開示の判断を行うべきものである。
当該委任を受けた者は、代理人として氏名を名乗っていたものであることを考えれば、当該特定の法人から委任を受けた者の氏名(姓を含む。)を開示することにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
したがって、上記(3)の(d)に掲げる情報のうち、特定の法人から委任を受けた者の氏名(姓を含む。)は本号に該当しないから、開示すべきである。
(8) 結論
よって、主文のとおり答申する。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別表
本件対象公文書 | 実施機関が非開示とした情報 |
---|---|
業務報告(平成17年4月14日付け) | (1)名義変更中の土地所有者の氏名(姓を含む。) (2)マニフェストの交付担当者欄及び運搬担当者欄に記載された担当者の氏名 (3)建設廃棄物処理委託契約書に記載された契約処分単価 (4)建設廃棄物処理委託契約書に記載された最終処分場所の処分先No.(許可番号等)、再生施設名称及び再生施設所在地並びに廃棄物の種類の一部及び処分方法の一部 (5)領収証に押印された担当者の印影 (6)領収証に記載された領収金額 |
監視日報(平成17年7月19日付け) | (7)特定の法人から委任を受けた者の姓 (8)マニフェストの交付担当者欄及び運搬担当者欄に記載された担当者の氏名 |
監視日報(平成17年10月4日付け) | (9)特定の法人から委任を受けた者の姓 (10)マニフェストの交付担当者欄及び運搬担当者欄に記載された担当者の姓 |
業務報告(平成17年9月2日付け) | (11)特定の法人から委任を受けた者の氏名(姓を含む。)、住所及び年齢 (12)廃畳の処理費の単価 |
業務報告(平成17年9月16日付け) | (13)特定の法人から委任を受けた者の氏名(姓を含む。)、住所及び年齢 (14)名義変更中の土地所有者の氏名(姓を含む。)、住所、職業、年齢、財産状況、家庭状況及び収入状況 (15)特定の法人の代表取締役の年齢 (16)廃畳の処理費の単価 |
業務報告(平成17年9月21日付け) | (17)特定の法人から委任を受けた者の氏名(姓を含む。)、住所、年齢及び肖像 (18)特定の法人の代表取締役の年齢 (19)特定の産業廃棄物収集運搬業者の従業員の姓、役職、肖像及び印影 (20)廃畳の処理費(単価を含む。)及び契約金額に関する特約条件 (21)特定の産業廃棄物処分業者の従業員の印影 |
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
18. 2.28 | ・諮問書の受理 |
18. 3. 6 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18. 3.22 | ・非開示理由説明書の受理 |
18. 3.23 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
19. 2.14 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第263回審査会)
|
19. 3.14 | ・審議 ・答申 (第267回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。