三重県情報公開審査会 答申第264号
答申
1 審査会の結論
財団法人伊勢湾海洋スポーツセンターの行った決定は妥当である。
2 異議申出の趣旨
異議申出の趣旨は、異議申出人が平成18年4月27日付けで財団法人伊勢湾海洋スポーツセンター情報公開規程(以下「規程」という。)に基づき行った「平成16,17,18年度直近までの保管料未払い艇(ディンギー・クルーザー・モーターボート)に対する処置の全ての文書」の開示請求に対し、財団法人伊勢湾海洋スポーツセンター(以下「センター」という。)が平成18年5月9日付けで行った文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
「平成18年度ヨット・モーターボート置場手続き未完了者(3ヶ月未満)」
「平成18年度ヨット・モーターボート置場手続き長期未完了者(3ヶ月以上)」
等50件(以下「本件対象文書」という。)
4 センターの非開示理由説明要旨
センターの主張は、以下のとおりである。
対象文書に記載されている個人の氏名、法人名、電話番号、住所及び船の型式は、規程第7条第2号、第3号により非開示とされる個人情報及び法人情報に該当するため非開示とした。
また、異議申出人が指摘する「写真」は非開示とした「船の型式」に含まれており、他にも対象文書があると主張するが、全ての文書を開示している。
5 異議申出理由
非開示とされた「船の型式」は規程第7条第2号に規定する個人識別情報に該当しない。非開示部分として写真は列挙されていないにもかかわらず、写真が非開示とされたことは、規程に違反している。開示された対象文書の内容、記述表現及び規程第2条のセンター文書の定義からして、相当な確実性をもって存在が推認できる他の対象文書が存在するにもかかわらずこれを開示しなかったのは、規程第1条、第7条(開示義務)及び第11条(開示請求に対する措置)に違反する。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
規程の目的は、三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号)第47条第1項及び第47条の2第1項の規定に基づき、センターの文書等の開示に関し必要な事項を定めること等により、センターの保有する情報の一層の公開を図り、もってセンターの諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、公正なセンター運営の推進に資することを目的としている。規程は、原則公開を理念としているが、文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、センターの公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、規程を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 規程第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、規程第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、規程は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3) 規程第7条第2号(個人情報)の該当性について
センターは本決定において、「船の型式」と他の情報とあわせることにより、船を特定でき、ひいてはその所有者である個人を特定できるとして、本条本号に規定する個人に関する情報に該当するため非開示としたと主張している。これに対して異議申出人は、一般の人にとって「船の型式」から船を特定することは困難であり、たとえ船が特定されたとしても、特定されるのは「船」であって「個人」ではない。したがって「船の型式」は個人情報には該当せず、開示されるべきであると主張している。
小型船舶の登録等に関する法律(平成13年法律第102号)により、小型船舶の所有者には船舶番号の表示が義務付けられており、また、何人も、小型船舶の「登録事項証明書等」の交付を請求することができるとされていることから、船を特定することは、その所有者である個人を特定し得ることになる。したがって、当該ヨットハーバーに保管されている船の中で1艇しか該当しない特定の型式の船が相当数あること、また、船の型式については船の製造メーカーが積極的に公表していることからすると、「船の型式」から「船」を特定し、その「船舶番号」から、その所有者である「個人」を特定することは、異議申出人の主張するほど困難であるとは言いがたい。
また、同時に、小型船舶の登録等に関する法律により、何人も、その所有者等の情報が記載された小型船舶の「登録事項証明書等」の交付を請求することができることから、船の所有者情報は本条本号ただし書イに規定する法令の規定により公にされている情報に該当することから、「船」に関する情報を個人情報に該当するとしたセンターの説明は誤りである。
しかしながら、本開示請求が「保管料未払い艇に対する処置の全ての文書」であったことからすると、個人が、船の所有者としてではなく、保管料未払い者として特定されることになる。未払いに関する情報は、本条本号に規定する個人に関する情報であり、ただし書イに該当せず、公にするほどの公益性を見出すこともできないことからただし書ロにも該当しないと考える。
以上のことから、保管料の未払いという個人情報に結びつくおそれのある「船の型式」等の情報を非開示としたことは妥当である。
(4) 決定等通知書について
異議申出人は、非開示情報として決定等通知書に記載されなかった写真を非開示とした処分は取り消されなければならないと主張している。これに対して、センターは、写真は船の型式が明らかになるため、非開示とした「船の型式」という非開示情報に含まれると解したと主張している。
しかし、規程第7条に、「理事長は、開示請求があったときは、開示請求に係るセンター文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該センター文書を開示しなければならない。」と規定され、センター文書の原則開示を義務付けていることから、センターがいかなる理由で、どのような情報を非開示としたかは、開示請求者に確実に伝えられることが望ましく、非開示とした情報に写真を記載しなかったことは不適切である。
しかしながら、写真を開示することにより船を特定することが可能となり、上記(3)の観点から、写真を非開示としたことは妥当であると判断する。
(5) 対象文書の特定について
異議申出人は、開示された文書から存在が推認される文書が開示されていないと主張している。これに対しセンターは、異議申出人の主張する文書のうち保有しているものは既に開示した文書の一部として含まれており、そのほかの文書は保有していないため不存在であると主張している。
当審査会がセンターより、文書事務に関して聴取したところ、マニュアルに則り文書事務が行われ、発送した督促状等の文書の複写等は保存されていないことが確認できた。センターが、開示した文書の他に保有文書は存在しないとする主張は不自然ではなく、センター文書の特定は妥当であると判断する。
しかしながら、公有財産の管理に当たる指定管理者としては、事務の流れが明確になるような文書管理のあり方が望ましいと考える。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
18. 6.30 | ・諮問書の受理 |
18. 7.10 | ・センターに対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18. 7.28 | ・非開示理由説明書の受理 |
18. 8. 3 | ・異議申出人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書等の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18. 8.24 | ・異議申出人からの意見書の受理 |
18. 9. 1 | ・センターに対して意見書(写)の送付、反論書等の提出依頼 |
18. 9.19 | ・センターからの意見書の受理 |
18. 9.28 | ・異議申出人に対して意見書(写)の送付、反論書等の提出依頼 |
18.12.18 | ・書面審理 ・異議申出人の口頭意見陳述 ・センターの補足説明 ・審議 (第260回審査会)
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19. 1.22 | ・センターからの聴取 ・審議 (第262回審査会)
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19. 2.26 | ・審議 ・答申 (第264回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。