三重県情報公開審査会 答申第261号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年3月8日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「通勤届け(17年度分)(税務政策室分)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成18年3月22日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、平成17年度分の税務政策室職員の通勤届(31件)である。なお、当審査会は、これらの対象公文書のうち代表的な例として実施機関から提出された交通機関利用者、自家用車利用者及び交通機関と自家用車の併用者の通勤届の各1件について、インカメラ審理を行った。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○ 条例第7条第2号(個人情報)に該当
通勤届に記載された職員の住所は「特定の個人が識別され得るもの」に該当する。職員の通勤方法、区間、距離、所要時間、通勤経路の略図、乗車券等の種類、乗車券等の金額は、「私生活上の権利利益を害するおそれ」のある情報に該当する。主たる届出の理由、確認及び決定事項は、「個人に関する情報」に該当する。
5 異議申立て理由
通勤は公務であり、通勤手当を支給されているのだから、著しく実態と異なっていないかどうかを判断するのに必要な限りにおいて、地番などの詳細な住所を除き、開示すべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
なお、公務員等にあっては、例えば、給与額、休暇に関する情報や家族状況などの公務員等の個人の私的な情報については、本号に該当すると解されるが、公務員等の職務に関する情報については、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある場合に限り本号に該当することとなる。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
異議申立人は、通勤は公務であると主張し、通勤手当が適正に支払われているかどうかを確認するために本件対象公文書の開示を求めている。これに対し、実施機関は、通勤は公務ではないとし、本件対象公文書の大半を非開示としている。
確かに、例えば地方公務員災害補償法(昭和42年法律第121号)第2条第2項において「この法律で「通勤」とは、職員が、勤務のため、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、公務・・・の性質を有するものを除く」と規定しているように、一般に通勤と公務は明確に区別されていると考えられ、実施機関の主張も理解できないわけではない。
しかし、通勤手当は、旅費と同様、基本的に実費弁償の性質を有するものであること、及びその支出の適正に関する県の説明責任を勘案すれば、通勤届に記載された情報は、広義における公務員等の職務に関する情報に含まれるものであり、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある場合に限り条例第7条第2号に該当すると解するべきである。このような考え方に立って、以下、実施機関が非開示とした情報の本号該当性について検討する。
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、次のとおりである。
○ 通勤届の表面
(ア)「住居」欄に記載された職員の住所
(イ)「主たる届出の理由」欄
(ウ)「通勤方法の別」欄に記載された徒歩、自動車、近鉄(○○線)などの通勤方法(記載のない部分を含む。)
(エ)「区間」欄に記載された(ウ)の通勤方法ごとの起点及び終点(記載のない部分を含む。)
(オ)「距離(概算)」欄に記載された(ウ)の通勤方法ごとの距離数(記載のない部分を含む。)
(カ)「所要時間(概算)」欄に記載された(ウ)の通勤方法ごとの時間数(記載のない部分を含む。)
(キ)「乗車券等の種類」欄に記載された交通機関に係る定期券、回数券などの乗車券等の種類(記載のない部分を含む。)
(ク)「左欄の乗車券等の額」欄に記載された(キ)の乗車券等の額(記載のない部分を含む。)
(ケ)「備考」欄に記載された内容(記載のない部分を含む。)
(コ)「総通勤距離」欄に記載された(オ)の距離数の合計
(サ)「総所要時間」欄に記載された(カ)の時間数の合計
(シ)「通勤経路の略図」欄に記載された職員の自宅から勤務公署までの通勤経路の略図
○ 通勤届の裏面
(ス)「※確認及び決定事項」欄に記載された通勤手当の額の決定等に係る情報(記載のない部分を含む。)
(セ)(ス)の欄外に記載された通勤手当の額等に関する情報
(ア)に掲げる情報について、一般に職員の住所は公務員等の職務に関する情報ではなく、個人に関する情報であって特定の個人が識別されるものであるが、本件対象公文書に記載された職員の住所のうち市町村名までの情報については、これを開示することにより当該職員個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとはいえないから、開示すべきである。ただし、市町村名よりも詳細な部分(町・村、大字及び地番など)については、これを開示することにより当該職員個人の自宅への嫌がらせ行為など当該職員個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるため、非開示妥当である。
なお、当審査会は、答申第199号から第205号において、審議会等の委員の住所の非開示情報該当性に関し「現行の条例においては、住所を分割して判断することは条例の解釈上無理があり、たとえ実質的には支障がなかったとしても、住所を全体として個人情報に該当するとした実施機関の決定は妥当であると言わざるを得ない」旨答申したが、本件においては、通勤手当の支出の適正に関する県の説明責任、及び実施機関が定めた旅費、食糧費等に関する開示基準規則(平成8年三重県規則第57号)第3条第1号において、旅費支出に関する公文書に記載された旅行者の住所のうち都道府県名及び市町村名までは開示することとしていることを勘案し、今回の結論に達したものである。
(ウ)及び(エ)に掲げる情報を開示すると、特定の職員が通勤する際の具体的な通勤方法とその区間が明らかとなるが、このことをもって直ちに当該職員個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとはいえないから、これらの情報は原則として開示すべきである。ただし、職員が自宅から徒歩等により最初に到達する鉄道の駅又は路線バスの停留所の名称については、これを開示することによって職員の住所のうちの市町村名よりも詳細な部分(町・村、大字)が推測される場合には、(エ)に掲げる情報のうち当該駅又は路線バスの停留所の名称は非開示とすることが妥当である。市町村名よりも詳細な部分(町・村、大字)が推測される場合とは、鉄道の駅にあっては、例えば駅の1㎞程度周辺に集落(町・村、大字)が1つしか存在しないような場合が想定され、路線バスの停留所にあっては、一般的にはほとんどの停留所が該当すると考えられる。
(シ)に掲げる情報は、職員の自宅から勤務公署までの通勤経路の概略を図示したものであるが、幹線道路の交差点や公共建築物などの目印が記載されていることから、これを開示すると職員の自宅の場所を容易に知り得ることとなり、当該職員個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるため、非開示妥当である。
(ス)に掲げる情報は、職員の通勤の事実を確認し、通勤手当の額を決定し、及びを支給額等を記載したものである。通勤手当の支出の適正に関する県の説明責任の観点から、これらは開示すべきである。なお、職員の通勤手当に関する規則(昭和35年三重県人事委員会規則7-8)第5条に基づき、職員の住居が離島にあり又は身体障害のため歩行が著しく困難な職員には片道の通勤距離が2㎞未満であっても通勤手当が支給されるが、同条に係るチェック欄(「□離島 □身体障害」とある部分)については、これにレ点等が記載されている場合にのみ非開示とすることは適当でないと考えられるため、当該チェック欄は非開示妥当である。
(イ)、(オ)、(カ)、(キ)、(ク)、(ケ)、(コ)及び(サ)に掲げる情報は、いずれも開示することにより当該職員個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとはいえないから、開示すべきである。
(セ)に掲げる情報は、本件対象公文書のうち実施機関から提出された通勤届3件について、当審査会がインカメラ審理を行ったところ、2件において記載されていたが、いずれも交通機関の1箇月定期券の額及び3箇月定期券の額であると認められ、開示することにより当該職員個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとはいえないから、開示すべきである。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、次のとおりである。
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
18. 5.30 | ・諮問書の受理 |
18. 6.12 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18. 7. 7 | ・非開示理由説明書の受理 |
18. 7.18 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18.12.15 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第259回審査会)
|
19. 1.17 | ・審議
(第261回審査会)
|
19. 2.14 | ・審議 ・答申 (第263回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。