三重県情報公開審査会 答申第260号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分開示決定を取り消し、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年3月15日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「H17年度に行なわれた三重県庁の行政視察旅行に関するすべての文書(旅費の発生したもの)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成18年3月27日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、平成17年度支出負担行為整理兼支出命令書(4件)に添付された旅費請求内訳書である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○ 条例第7条第2号(個人情報)に該当
旅費請求書に記載されている旅行者の住所及び実家の最寄りの鉄道の駅は、三重県情報公開条例第7条第2号、三重県個人情報保護条例第16条、及び旅費、食糧費等に関する開示基準規則第3条に規定する個人情報であり、開示することにより、特定の個人が識別され得るため、非開示とした。
5 異議申立て理由
最寄り駅の名称を非開示としたのは、条例の規定に違反する。県では平成8年に旅費等の不正請求による裏金作りが発覚したが、その再発防止策として「旅費、食糧費等に関する開示基準規則(平成8年三重県規則第57号。以下「開示基準規則」という。)」を制定し、旅費等に関する公文書は全面開示することとしたものである。平成18年2月28日の一部改正が抜き打ち的に行われたとの感が否めないことはさておき、同規則改正により住所の詳細部分を非開示としたのは首肯できるが、最寄り駅の名称まで非開示にすることは、旅費の不正請求を再発させることが考えられ、同規則の趣旨、背景からみて不当である。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
なお、公務員等にあっては、例えば、給与額、休暇に関する情報や家族状況などの公務員等の個人の私的な情報については、本号に該当すると解されるが、公務員等の職務に関する情報については、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある場合に限り本号に該当することとなる。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、本件対象公文書に記載された旅行者(職員)の住所及び実家の最寄りの鉄道の駅の名称(以下「本件非開示情報」という。)である。(このほか、本件対象公文書に記載された旅行者の自家用車の登録番号も非開示とされているが、異議申立ての対象とされていないため、判断しない。)
ところで、平成18年2月28日の一部改正後の開示基準規則第3条第1号は、次のように規定している。
一 旅費支出に関する公文書(復命書を除く。)については、全面開示とする。ただし、次に掲げる個人に関する情報については、開示しないことができる。
イ 旅行者の住所(都道府県名及び市町村名を除く。)、住所の最寄りの鉄道の駅又は路線バスの停留所の名称、自家用車の登録番号、旅費の振込先の金融機関の名称及び口座番号その他の個人に関する情報
ロ (略)
実施機関は、条例第7条第2号及び開示基準規則第3条第1号に基づき、本件非開示情報を非開示としたものである。
他方、異議申立人は、開示基準規則第3条第1号の規定は、旅費の不正請求の再発を防止するという開示基準規則制定の趣旨や背景から目的論的に解釈すべきであり、住所の詳細が推測されないような駅名は、開示すべきであると主張している。
確かに、開示基準規則第3条第1号に基づき旅行者の住所のうち都道府県名及び市町村名までは開示されることから、さらに当該住所の最寄りの鉄道の駅又は路線バスの停留所の名称を開示することにより、当該旅行者の住所が一定の範囲内に絞り込まれることは否めない。
しかし、職員が自宅(実家を含む。以下同じ。)からの出発又は自宅への帰着による出張を命じられた場合、当該自宅の住所の最寄りの鉄道の駅又は路線バスの停留所の名称は、出張の経路の1つであって条例第7条第2号の公務員等の職務に関する情報に該当するが、これを開示することにより具体的な住所(町・村、大字)が特定されなければ、必ずしも当該職員の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとはいえない。また、開示基準規則第3条第1号は、住所の最寄りの鉄道の駅又は路線バスの停留所の名称を「開示しないことができる」と規定しているのであって、必ずしもこれらの名称を一律に「非開示とする」とは規定していない。
したがって、条例第7条第2号及び開示基準規則第3条第1号の規定並びに旅費支出の適正に関する県の説明責任を総合的に勘案すれば、旅費支出に関する公文書(復命書を除く。)に記載された職員の自宅の住所の最寄りの鉄道の駅又は路線バスの停留所の名称は、市町村名よりも詳細な部分(町・村、大字)が推測される場合を除き、開示すべきである。市町村名よりも詳細な部分(町・村、大字)が推測される場合とは、鉄道の駅にあっては、例えば駅の1㎞程度周辺に集落(町・村、大字)が1つしか存在しないような場合が想定され、路線バスの停留所にあっては、一般的にはほとんどの停留所が該当すると考えられる。
このような観点から本件対象公文書をインカメラ審理により見分したところ、本件非開示情報はいずれもその1㎞程度周辺に集落(町・村、大字)が複数存在する鉄道の駅の名称であって、開示しても当該職員の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとはいえない。
したがって、本件非開示情報は、開示すべきである。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、次のとおりである。
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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18. 4. 5 | ・諮問書の受理 |
18. 4. 7 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18. 4.19 | ・非開示理由説明書の受理 |
18. 4.26 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18.12.15 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第259回審査会)
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19. 1.17 | ・審議
(第261回審査会)
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19. 2.14 | ・審議 ・答申 (第263回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。