三重県情報公開審査会 答申第256号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分開示決定を取り消し、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年11月15日付で三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成16年度「行政評価とAHPに関する研修会」、その他行政評価等に関する勉強会、研修会等に関する全ての文書」の開示請求に対して、三重県監査委員(以下「実施機関」という。)が平成17年12月1日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
「前渡資金精算書」「支出負担行為整理兼支出命令書」 等35件(以下「本件対象公文書」という。)
4 実施機関の非開示理由説明要旨
支払い相手方個人の自宅住所、金融機関口座に関する情報、印影は個人識別情報であり、条例第7条第2号ただし書きに該当せず、開示することにより私生活上の権利利益を害するおそれがあると判断した。また、一般的に条例の委任に基づき制定された規則と条例の効力については、条例が優先的効力を有するものであることから、条例の趣旨に反した解釈・運用はできないものであり、条例第7条所定の非開示情報に該当するか否かを問わず一律に実施機関に開示を義務付けているものではない。
5 異議申立ての理由
三重県情報公開条例及び関係する規則に違反した決定である。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。 そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が、本決定において非開示とした情報は、支出負担行為整理兼支出命令書・旅費請求書に記載された支払相手方の自宅住所、支出負担行為整理兼支出命令書に記載された支払い相手方の振込先口座情報、前渡資金精算書・前渡資金交付伺・支出負担行為兼支出命令書に記載された支払相手方の印影である。実施機関は、非開示とした当該情報は、本条本号に該当する個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得る情報であるため、非開示と判断したと主張している。
たしかに、本決定において非開示とされた支払相手方の自宅住所・印影・口座番号は、本条本号に該当する個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得る情報であるため非開示とされる情報に該当するので、非開示とした実施機関の主張は理解できなくはない。
(4)条例と規則の関係について
当該非開示情報が記載されている公文書は、実施機関が定める「監査委員関係旅費、食糧費等に関する開示基準規程(平成8年三重県監査委員告示第1号、以下「規程」という。)」が、その規定の例によるとした「旅費、食糧費に関する開示基準規則(平成8年三重県規則第57号、以下「開示基準規則」という。)」が適用するとした旅費に関する公文書である。
実施機関は、一般的に条例の委任に基づき制定された規則と条例の効力については、条例が優先的効力を有するものであり、規則の解釈・運用にあたっては、条例の内容に適合するよう合理的に行う必要があることから、開示基準規則も条例の規定に基づき定められたもので、条例の趣旨に反した解釈・運用はできないものであり、条例第7条各号の非開示情報に該当するか否かを問わず一律に開示を義務付けるものではないと主張している。
条例第49条は、「この条例に定めるもののほか、この条例の実施に関し必要な事項は、実施機関が別に定める。」と規定されている。開示基準規則第1条は「この規則は、条例第49条の規定に基づき、知事が管理する旅費、食糧費、消耗品費及び交際費に支出に関する公文書の開示基準に関し、必要な事項を定めるものとする。」と規定されていることから、開示基準規則が、条例第49条の規定により、条例の委任により制定されたことは明らかである。
開示基準規則制定の背景には、当時の本県においては、旅費を含む公費の不適正執行の実態が明らかにされ、不適正執行の大部分が旅費に関する支出であったことから、その是正のための施策として制定された経緯がある。開示基準規則第3条第1号に規定される「旅費支出に関する公文書については、全面開示とする。」は、条例第7条第2号に規定する非開示情報の開示をも義務付けることになり、条例による委任の範囲を超えているとも考えられる。
一般的に、条例の委任を受けて制定された規則と条例の効力については、条例が優先的効力を有するものであり、規則の解釈にあたっては条例の内容に適合するよう合理的に行う必要がある。しかしながら、前述のように、開示基準規則制定の背景には、知事の政治的判断があることから、当審査会は、その規定が条例による委任の範囲を超えていると考えられる部分については、開示基準規則制定の趣旨を十分に尊重し、条例を厳正に解釈して、その開示・非開示の判断を行う。
条例第10条は、「実施機関は、開示請求に係る公文書に非開示情報が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、開示請求者に対して、当該公文書を開示することができる。」とし、条例第7条の判断自体においては非開示とすることの必要性が認められる場合であっても、個々の事例における特殊な事情によっては、開示する利益が非開示にする利益に優越すると認められる場合において、行政機関の高度な行政的判断による裁量的開示を行う余地を残している。前述のように、開示基準規則の制定は、不適正執行の是正と公費支出の透明性の確保を目指した高度な政治的判断によってなされたと考えられる。
公益上の裁量的開示にあたっては、個人のプライバシーに関する情報がみだりに公になることのないよう最大限の配慮をしなければならないことは当然ではある。しかし、以上の理由により、旅費支出に関する公文書については、行政の透明性を確保するため、公益上特にその開示が必要と認めたものであることから、実施機関がその規程によりその例によるとした開示基準規則の規定により、開示・非開示の判断がされるべきであり、実施機関の行った本決定は妥当ではないと判断する。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。
(6)附言
公益上の理由による裁量的開示とはいえ、開示規準規則制定当時には想定されていなかったと考えられる個人の自宅住所、金融機関の口座情報等が開示されることが、個人情報保護に関する社会の要請が、開示基準規則の制定時より高まってきたことから、受忍限度内にとどまるとは考えられない。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、下記、審査会の処理経過のとおりである。
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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17.12. 7 | ・諮問書の受理 |
17.12. 9 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18. 1.25 | ・非開示理由説明書の受理 |
18. 1.26 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18. 9.28 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第254回審査会)
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18.10.30 | ・実施機関の補足説明 ・審議 (第256回審査会)
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18.11.27 | ・審議
(第258回審査会)
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18.12.18 | ・審議 ・答申 (第260回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。