三重県情報公開審査会 答申第254号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった部分開示決定を取り消し、開示すべきである。ただし、実施機関の公文書の特定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年6月22日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の工場の立地に関して、県費90億円の補助金支出に至った経過の全部資料」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成18年7月6日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、次のとおりである。
- 報告事項(特定法人と三重県との協議にかかる交渉記録)(平成13~14年度 20件)
- 特定法人の亀山・関テクノヒルズ進出に関する関係チームマネージャー等会議の手持ち資料
- 企業立地課長記者会見内容
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○ 条例第7条第3号(法人情報)に該当
本件対象公文書の(1)に記載された土地取得に係わる価格、ユーティリティに係わる交渉先名称、競争他社の企業名は、法人の事業戦略に関する事項であり、これを開示すると当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため、非開示とした。なお、本決定においては、ガス事業者の名称も非開示としていたが、本件異議申立て後、非開示部分を精査した結果、本号に該当しないと判断し、平成18年8月4日付けで本決定を一部変更して、当該ガス事業者の名称を開示している。
○ 対象公文書について
企業誘致においては、情報管理の徹底と迅速な対応が求められ、本件においてもこのような状況で誘致交渉を進めてきたものである。交渉内容は報告事項として整備し、本決定により開示している。なお、本件異議申立て後、平成18年8月4日付けで本決定を一部変更し、本件対象公文書に加え、「特定法人の亀山工場建設への支援について」(平成14年度予算調整チームへの概要説明資料)を開示している。これらの他に公文書は存在しない。
5 異議申立て理由
非開示部分のすべてを開示すべきである。なぜ県からの補助金が90億円なのか、その根拠を明らかにするためにも、非開示は全く不当である。他企業との競争上不利益になるはずも全くない。
また、開示された公文書は、企業立地課の報告事項のみで、請求内容と異なる。これでは、90億円の支出に至った経過も、理由も、根拠も明確ではない。特定法人から様々な要求が出された時、どこでどう検討され、どんな議論をしたのか、その経過も全く分らない。全庁的にこれら関連文書を調査して開示し、県民への説明責任を果たすべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、対象公文書の(1)に記載された「土地取得に係わる価格」、「ユーティリティに係わる交渉先名称」及び「競争他社の企業名」である。以下、これらの本号該当性について判断する。なお、本決定において非開示とされたガス事業者の名称は、上記4のとおり本件異議申立て後に開示され、異議申立人もこの点に関し特段の主張を行っていないことから、本号該当性については判断しない。
「土地取得に係わる価格」について、実施機関は、特定法人が工場立地する際の目安とも考えられる特定法人の事業戦略に関する事項であり、また、当該土地を売却した法人の内部情報でもあることから、開示することによりこれらの法人の競争上の地位その他正当な利益を害する。しかも、当該土地の売買に当たっては、県は工場立地の実現のために敢えて窓口となったものであって、売買当事者でない県が開示すべきではないと主張している。しかしながら、土地の価格は経済情勢によって変動するものであり、当該土地の売買契約の成立前であればともかく、本決定の約5年前の交渉経過における価格を開示することにより、特定法人や当該土地を売却した法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
「ユーティリティに係わる交渉先名称」について、実施機関は、特定法人が検討していた自家発電の運用委託先の名称であって、民間企業同士の問題であることから県が関知するものではなく、開示することにより同業他社から営業攻勢をかけられるなど特定法人の正当な利益を害すると主張している。しかしながら、当該非開示部分をインカメラ審理により見分したところ、特定法人が検討していた委託先の名称が複数例示されているに過ぎないことが認められ、当該非開示部分を開示することにより、特定法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
「競争他社の企業名」について、実施機関は、特定法人がどのような法人を競合企業と考えているかは特定法人の事業戦略に関する事項であり、開示することにより特定法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると主張している。しかしながら、当該企業名をインカメラ審理により見分したところ、当該企業と特定法人が競合関係にあることは公知の事実であると考えられる。また、仮に本件工場立地の際には特定法人の事業戦略に関する事項であったとしても、本決定の時点において、これを開示することにより、特定法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
したがって、実施機関が本決定において非開示とした情報は、いずれも開示すべきである。
(4) 本件対象公文書について
異議申立人は、本件対象公文書として特定法人と企業立地課との協議内容を記録した報告事項などが部分開示されているが、例えば知事にどのような報告をし、どのような指示があったかといった、90億円の支出に至った県内部での検討や議論の経過を記録した資料もあるはずであり、全庁的にこれらの資料を調査して開示すべきであると主張している。
これに対し、実施機関は、企業との協議内容については必ず報告書を作成しているが、知事や部長など上司との協議・相談内容については必ずしも文書を作成することにはなっておらず、今回の特定法人の立地に関して上司との協議・相談内容について作成された文書はない。また、企業誘致においては、情報管理の徹底が求められることから、企業立地室以外の所属においてそのような文書を保有していることもないと主張している。
確かに、異議申立人の主張するように、多額の補助金支出に至った県内部での検討や議論の経過を記録した資料を作成・保有していないことは、県民への説明責任の観点から望ましいことであるとは言えない。
しかしながら、知事や部長など上司との協議・相談を文書によって行うことやその内容について文書を作成することは実施機関において義務付けられていないことから、今回の特定法人の立地に関して上司との協議・相談内容について作成された文書はないという実施機関の説明に不自然な点があるとは認められない。
したがって、異議申立人の開示請求に該当する公文書として実施機関が本件対象公文書を特定した点については、本決定は妥当であると言わざるを得ない
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
18. 9.12 | ・諮問書の受理 |
18. 9.20 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18.10. 6 | ・非開示理由説明書の受理 |
18.10.12 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18.11. 8 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第257回審査会)
|
18.12.15 | ・審議 ・答申 (第259回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。