三重県情報公開審査会 答申第253号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年1月13日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の建築物に係る建築基準法違反事件の指導、改善に関する文書の全て」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成18年1月16日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、次のとおりである。
- 違反建築物調査報告書
- 建築基準法第12条第5項の規定による報告書
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○ 条例第7条第2号(個人情報)に該当
本決定において非開示とした庫裏の間取りは、個人の居住に供される部分であり、同じく建築主の印影は、個人の情報であり、いずれも条例第7条第2号に該当し、開示することにより、個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある。
5 異議申立て理由
本件請求対象は、元々違反建築物の改善指導に係る文書であり、適法な是正措置がなされたかどうかを確認するためのものであるから、部分開示とすることにより建築行政の適正な執行がなされたとする担保となり得ない。また、対象建築物は、宗教法人の庫裏の増築であるが、宗教法人法に違反して建築されたものであり、容認できない。個人の印影、個人の住居とする認識は誤りであり、誤った理由の適用による処分は、取り消されるべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件異議申立てに関して、実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、本件対象公文書のうち「建築基準法第12条第5項の規定による報告書」に押印された建築主の印影、及び同報告書に添付された建築物の間取り図中の個人の居住に供される部分である。なお、同報告書は、本件異議申立てに係る建築物が建築基準法第6条に規定する確認申請の手続を行わずに着工されたものであったため、北勢県民局四日市建設部(当時)が建築主に対して提出を求めたものである。
まず、建築主の印影については、本号本文の個人識別情報に該当することは言うまでもない。また、当該印影が押印された「建築基準法第12条第5項の規定による報告書」は一般の閲覧に供されておらず、仮に本件異議申立てに係る建築物が建築基準法第6条に規定する確認申請の手続を行っていたとすれば一般の閲覧に供されていた「建築計画概要書」にも、建築主の押印は要しない。したがって、建築主の印影は、本号ただし書イに規定する「法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当せず、また、本号ただし書ロに規定する「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとも認められないから、実施機関が建築主の印影を非開示としたことは妥当である。
次に、建築物の間取り図(個人の居住に供される部分に限る。以下同じ。)については、それ自体としては、本号本文の個人識別情報に該当するとは言い難い。また、一般に建築物の間取りは外観などから類推できるところ、本件建築物は通常不特定多数の者が立ち入ることのできる宗教法人の敷地内に建築されていることから、本件建築物の間取り図を開示することにより「個人のプライバシーに関する情報がみだりに公にされる(条例第3条後段)」とは認められない。したがって、本件における建築物の間取り図は、本号本文に該当せず、開示すべきである。
なお、異議申立人は、本決定に係る建築物は、本来は宗教法人が建築したものであるのに偽って個人を建築主としたものであり、仮に当該個人が建築主であるとすれば宗教法人と賃貸借契約等を締結することなく建築したものであり、いずれにしても当該宗教法人の規則や宗教法人法で定める手続に違反する旨主張している。しかしながら、これらの主張は第一義的には当該宗教法人の内部の問題であり、また、仮にこれらの事実があったとしても、本号該当性に係る上記の判断を左右するものではない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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18. 3.15 | ・諮問書の受理 |
18. 3.17 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
18. 4.17 | ・非開示理由説明書の受理 |
18. 4.24 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18.11. 8 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第257回審査会)
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18.12.15 | ・審議 ・答申 (第259回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。