三重県情報公開審査会 答申第252号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年7月28日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「四日市南警察署新築工事をはじめとする最近の談合情報とその対処について分かる全ての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成17年8月10日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、次のとおりである。
(1) 談合情報報告書伺い(平成17年6月13日)
- 談合情報報告書(平成17年6月13日)
- 投書文(平成17年6月13日受け)
- 封書
(2) 談合情報局長報告伺い(平成17年6月13日)
- 局長報告文書(平成17年6月13日)
- 投書文(平成17年6月13日受け)
- 封書
(3) 談合情報局長報告伺い(平成17年6月15日)
- 局長報告文書(平成17年6月15日)
(4) 談合情報報告書伺い(平成17年6月21日)
- 談合情報報告書(平成17年6月21日)
- 投書文(平成17年5月24日受け)
- 封書
- 談合情報報告書(平成17年6月21日)
- 投書文(平成17年6月13日受け)
- 封書
(5) 談合情報局長報告伺い(平成17年6月23日)
- 局長報告文書(平成17年6月23日)
(6) 談合情報三役報告伺い(平成17年7月25日)
- 三役報告文書(平成17年7月25日)
(7) 関連書類
- FAX送付状(入札時対応)(平成17年7月25日)
- 四日市南警察署建築工事にかかる特定建設工事共同企業体(名、構成員)
- 四日市南警察署建築工事企業体連絡先
- FAX送付状(事情聴取案内)(平成17年7月25日)
- 事情聴取日程表
- 事情聴取書
- 事情聴取結果一覧表
(8) 事情聴取結果三役報告伺い(平成17年7月27日)
- 三役報告文書(平成17年7月26日)
4 実施機関の非開示理由説明要旨
本決定に係る通知書及び実施機関が提出した非開示理由説明書においては、実施機関が非開示とした部分及びその理由は必ずしも明確に特定されていないが、実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書のうち、情報提供者の住所・氏名(姓)、情報内容及び封書は、特定の個人が識別される情報であって本号本文に該当し、同号ただし書のいずれにも該当しない。
本件対象公文書のうち、情報提供者からの投書文に記載された公務員の職名及び氏名は、本号本文の「公務員の職務に関する情報のうち公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある」情報に該当する。
本件対象公文書のうち、企業の従業員である担当者の氏名(姓)は、特定の個人が識別される情報であって本号本文に該当し、同号ただし書のいずれにも該当しない。
本件対象公文書のうち、事情聴取結果一覧表に記載された出席者、見積者及び入札に関する責任者の氏名については、これらの者は法人の従業員として事情聴取等に出席し、又は見積もりを行うなどしたに過ぎないにもかかわらず、開示することにより、談合に関わったかのような疑惑を抱かれ、私生活に支障を及ぼすおそれがある。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
本件対象公文書のうち、情報提供の内容及び情報提供者からの投書文に記載された法人の名称は、開示することにより、当該法人が談合に関わったかのような疑惑を抱かれるおそれがあり、当該法人の競争上の利益を害すると認められ、また、本号ただし書のいずれにも該当しない。
本件対象公文書のうち、事情聴取書及び事情聴取結果一覧表の質問項目、業者名並びに回答欄の法人名は、開示することにより、法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。
(3) 条例第7条第6号(事務事業情報)に該当
本件対象公文書に記載された情報が公にされると、今後県へ談合情報を提供する者が減ったり、談合に関する同種の情報が県に任意に提供されなくなるなど、県が談合に関して様々な形で正確な情報を入手することが困難になるおそれがある。
本件対象公文書のうち、事情聴取結果一覧表に記載された法人の回答内容については、これらの法人は事業聴取にあたって回答した内容が公にされることを予想しておらず、さらに談合に関わったとの疑惑をもたれるなど、開示することにより、今後の調査が困難になる。
5 異議申立て理由
談合情報については、全面公開をして建設業界に警告を発し、公共事業に伴う公金の支出に関し、いやしくも法令違反がないよう最大限の対応をしなければならないにも関わらず、一部非開示としたことは、「談合」を根絶し、支出の削減と、業界の競争に耐える体質強化改善を求めない「官製談合」を容認自認したもので、到底許せない。
犯罪捜査の端緒となりうる情報であるとしたら、更に情報の拡大を図ることが可能であるから、広く情報公開することによって、談合防止ネットワークの確立も可能となる。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、以下のとおり分類することができる。
(a)次に掲げる公文書に記載された談合情報の提供者の役職、住所及び姓又は通称
(ア)上記3の(1)の本件対象公文書のうち、①談合情報報告書、②投書文及び③封筒の写し
(イ)上記3の(2)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書、②投書文及び③封筒の写し
(ウ)上記3の(3)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書
(エ)上記3の(4)の本件対象公文書のうち、①談合情報報告書、②投書文及び③封筒の写し
(オ)上記3の(6)の本件対象公文書のうち、①三役報告文書
(カ)上記3の(8)の本件対象公文書のうち、①三役報告文書
(b)次に掲げる公文書に記載された公務員の職名及び姓
(キ)上記3の(4)の本件対象公文書のうち、②投書文及び⑤投書文
(c)次に掲げる公文書に記載された建設業者の役員の役職名及び氏名(姓)
(ク)上記3の(4)の本件対象公文書のうち、⑤投書文
(ケ)上記3の(5)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書
(コ)上記3の(7)の本件対象公文書のうち、⑥事情聴取書(質問項目5及び5-2に係るものに限る。)及び⑦事情聴取結果一覧表(質問項目5及び5-2に係るものに限る。)
(d)次に掲げる公文書に記載された建設業者の担当者、事情聴取への出席者、見積者、入札に関する責任者等の職名及び氏名(姓)
(サ)上記3の(7)の本件対象公文書のうち、①FAX送付状、③四日市南警察署建築工事企業体連絡先及び⑦事情聴取結果一覧表(質問項目5及び5-2に係るものを除く。)
(a)に掲げる情報(上記(ア)の③及び(イ)の③の封筒の写しにおける談合情報の提供者の役職、住所及び姓並びに上記(エ)の①の談合情報報告書に記載された談合情報の提供者の通称を除く。)は、談合情報の提供を行った個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得る情報である。このような情報が法令や慣行により公にされ又は公にされることを予定しているとは認められない。また、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、談合情報の提供者の役職、住所及び姓を公にすることが必要であるとも認められない。したがって、当該(a)に掲げる情報は、条例第7条第2号ただし書イ及びロのいずれにも該当せず、これらの情報を同号に掲げる非開示情報に該当するとして非開示とした実施機関の判断は妥当である。ただし、上記(ア)の③及び(イ)の③の封筒の写しは、談合情報の提供者の役職、住所及び姓を除けば、特定の個人が識別され得るとは認められないため、これらの情報を除いて、開示すべきである。また、上記(エ)の①の談合情報報告書に記載された談合情報の提供者の通称は、特定の個人が識別され得る情報であるとは認められないため、開示すべきである。
(b)に掲げる情報は、談合情報において、談合に関わったとされる公務員の職名及び姓である。本件対象公文書に係る談合の事実は確認できなかったことから、(b)に掲げる情報を公にすることにより、当該公務員が談合に関わったかのような疑惑を抱かれ、私生活上の権利利益を害するおそれがあると認められる。また、(b)に掲げる情報は、本号ただし書イ及びロのいずれにも該当せず、これらの情報を同号に掲げる非開示情報として非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(c)に掲げる情報は、談合情報において談合を主導したとされる建設業者の役員の役職名及び氏名(姓)であり、(d)に掲げる情報は、法人の従業者の職名及び氏名(姓)である。
一般に法人の役員の役職名及び氏名並びに従業者の職名及び氏名は、本号本文に規定する「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得る情報」であり、同号ただし書に該当しない限り、これらの情報を非開示とすることができると解すべきである。そして、建設業者の役員の役職名及び氏名並びに従業者の職名及び氏名について、同号ただし書に該当するか否かを検討すると、これらの情報のうち建設業者の役員の役職名及び氏名は、建設業法に基づき公衆の閲覧に供されている文書に記載されている情報であると認められるため、法人の役員名簿のように法人の役員が誰であるかということを記載したに過ぎない文書に建設業者の役員の役職名及び氏名が記載されている場合には、建設業者の役員の役職名及び氏名は法令により公にされ又は公にされることを予定している情報であると認められ、同号ただし書イにより、これらの情報を非開示とすることはできない。しかし、公文書の綴り方や公文書の記載の内容により、建設業者の役員の役職名及び氏名にそれ以外の何らかの情報が結び付けられて意味が付加され、その付加された意味を含んだ情報が法令等や慣行により公にされ又は公にされることを予定している情報であるとは認められない場合には、その建設業者の役員の役職名及び氏名を開示すれば、付加された意味を含む特定の個人を識別し得る情報であって、公にされ又は公にされることを予定していない情報を開示する結果となり、妥当でない。このような場合には、建設業者の役員の役職名及び氏名を、条例第7条第2号ただし書イを理由に開示すべきであると解すべきではない。
なお、建設業者の従業者の職名及び氏名は、建設業法等の法令等又は慣行により公にされ又は公にされることを予定している情報であるとは認められないから、同号ただし書を理由に開示すべきであるとは解されない。
そこで(c)に掲げる情報を見ると、当該情報は、建設業者の役員の役職名及び氏名に、談合を主導したとされる者という意味が付加された情報であって、このような情報が法令や慣行により公にされ又は公にされることを予定しているとは認められない。また、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、談合を主導したとされ、談合の事実は確認できなかった法人の役員の役職名及び氏名を公にすることが必要であるとも認められない。したがって、(c)に掲げる情報は、条例第7条第2号ただし書イ及びロのいずれにも該当せず、これらの情報を同号に掲げる非開示情報として非開示とした実施機関の判断は妥当である。
また、(d)に掲げる情報は、建設業者の従業者の職名及び氏名(姓)に、本件対象公文書に係る入札における担当者、実施機関による事情聴取に出席した者、工事の見積りをした者、入札に関する責任者という意味が付加された情報であって、このような情報が法令や慣行により公にされ又は公にされることを予定しているとは認められない。また、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、入札における担当者等の職名及び氏名を公にすることが必要であるとも認められない。したがって、(d)に掲げる情報は、条例第7条第2号ただし書イ及びロのいずれにも該当せず、これらの情報を同号に掲げる非開示情報として非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、以下のとおり分類することができる。
(e)次の(シ)から(タ)までに掲げる公文書において談合を主導したとされた建設業者及び設計事務所の名称並びに(チ)に掲げる公文書に記載された建設業者の名称
(シ)上記3の(1)の本件対象公文書のうち、①談合情報報告書及び②投書文
(ス)上記3の(2)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書及び②投書文
(セ)上記3の(3)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書
(ソ)上記3の(4)の本件対象公文書のうち、①談合情報報告書、②投書文、④談合情報報告書及び⑤投書文
(タ)上記3の(5)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書(談合を主導したとされる建設業者の名称に係る部分に限る。)
(チ)上記3の(7)の本件対象公文書のうち、⑦事情聴取結果一覧表(質問項目5及び5-2に係るものに限る。)
(f)次の(ツ)から(ニ)までに掲げる公文書において落札予定とされた共同企業体を構成する建設業者の名称、(ヌ)に掲げる公文書に記載された共同企業体の名称及び(ネ)に掲げる公文書に記載された事情聴取における質問項目4-2に対する各建設業者の回答内容
(ツ)上記3の(1)の本件対象公文書のうち、①談合情報報告書及び②投書文
(テ)上記3の(2)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書及び②投書文
(ト)上記3の(3)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書
(ナ)上記3の(4)の本件対象公文書のうち、④談合情報報告書及び⑤投書文
(ニ)上記3の(5)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書
(ヌ)上記3の(7)の本件対象公文書のうち、⑥事情聴取書及び⑦事情聴取結果一覧表(いずれも質問項目4-2に係るものに限る。)
(ネ)上記3の(7)の本件対象公文書のうち、⑦事情聴取結果一覧表(質問項目4-2に対する各建設業者の回答内容に係るものに限る。)
(g)上記3の(7)の本件対象公文書のうち、⑦事情聴取結果一覧表に記載された事情聴取の対象とされた建設業者及び共同企業体の名称(支店、営業所等の名称を含む。)並びに事情聴取における各建設業者の回答内容に含まれる建設業者の名称
(h)次の(ノ)から(フ)までに掲げる公文書に記載された組織ないし会合の名称
(ノ)上記3の(1)の本件対象公文書のうち、①談合情報報告書及び②投書文
(ハ)上記3の(2)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書及び②投書文
(ヒ)上記3の(3)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書
(フ)上記3の(7)の本件対象公文書のうち、⑥事情聴取書及び⑦事情聴取結果一覧表(いずれも質問項目6,6-2に係るものに限る。)
(e)に掲げる情報は、実施機関に寄せられた談合情報において談合を主導したとされる特定の建設業者等の名称である。本件対象公文書に係る入札については、本決定を行った時点で、権限のある機関の調査により談合が行われたと認定されていた等の事情は認められない。(e)に掲げる情報を開示すれば、当該建設業者等が上記の一般的な疑惑以上の特別な疑惑を抱かれるおそれがあり、当該建設業者等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。したがって、(e)に掲げる情報は本号本文に該当する。また、(e)に掲げる情報は、「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」(本号ただし書イ)、「違法又は不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある影響から県民等の生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」(同号ただし書ロ)又は「イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって公益上公にすることが必要であると認められるもの」(同号ただし書ハ)のいずれにも該当するとは認められないから、非開示が妥当である。
ところで、実施機関は、(f)から(h)までに掲げる情報についても、開示することにより、当該建設業者等が談合に関与しているとの疑惑を抱かれるおそれがあり、当該建設業者等の競争上の地位その他正当な利益を害すると主張している。しかし、一般に公共工事の入札において談合等の不正行為が疑われる場合が多いことは、平成12年に「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」が定められたことからも明らかである。そして、談合情報により、入札に参加した建設業者が談合に関与したとの疑惑が生じたとしても、既に一般的な疑惑がある以上、これに関する情報を開示しても特段の不利益を受ける結果となるとまではいえないと考えられる。
(f)に掲げる情報は、実施機関に寄せられた談合情報において落札予定とされた共同企業体を構成する法人の名称等である。これらの情報は、(e)に掲げる情報のように談合の主導的役割を果たしたという情報と異なり、これを開示しても、一般的な疑惑以上の特別な疑惑を抱かれることは想定されないことから、上記の考え方により、開示すべきである。
(g)に掲げる情報は、事情聴取の対象とされた建設業者(共同企業体を含む。)の名称等である。事情聴取は本件入札に参加した建設業者すべてを対象としたものであることから、(f)に掲げる情報と同様、その名称等を開示しても、一般的な疑惑以上の特別な疑惑を抱かれることは想定されないことから、上記の考え方により、開示すべきである。
(h)に掲げる情報は、実施機関に寄せられた談合情報において談合が決定されたとされる組織ないし会合の名称である。これらは、特定の法人に関する情報と認められないから、開示すべきである。
(6) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(7) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、以下のとおり分類することができる。
(i)次の(ヘ)から(ム)までに掲げる公文書に記載された談合情報又はその内容
(ヘ)上記3の(1)の本件対象公文書のうち、①談合情報報告書及び②投書文
(ホ)上記3の(2)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書及び②投書文
(マ)上記3の(3)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書
(ミ)上記3の(4)の本件対象公文書のうち、①談合情報報告書、②投書文、④談合情報報告書及び⑤投書文
(ム)上記3の(5)の本件対象公文書のうち、①局長報告文書
(j)上記3の(7)の本件対象公文書のうち、⑦事情聴取結果一覧表に記載された建設業者(共同企業体を含む。)の名称等及び事情聴取における各建設業者の回答内容(質問項目4-2,7-5,8に係るものに限る。)
(i)に掲げる情報は、実施機関に寄せられた談合情報又はその内容を実施機関がまとめたものである。実施機関は、これらの情報が公にされると、今後県へ談合情報を提供する者が減ったり、談合に関する同種の情報が県に任意に提供されなくなるなど、県が談合に関して様々な形で正確な情報を入手することが困難になるおそれがあると主張する。しかし、談合情報が実名で寄せられる場合もあること、本件対象公文書に記載された談合の事実は確認できなかったことを勘案すると、本件においては、これらの情報を公にすることにより、県が談合に関して正確な情報を入手することが困難になるとは認め難く、実施機関の主張は具体性に乏しいといわざるを得ない。したがって、(i)に掲げる情報は、条例第7条第2号(個人情報)又は条例第7条第3号(法人情報)に該当する情報を除き、開示すべきである。
(j)に掲げる情報は、実施機関が行った事情聴取に応じた建設業者(共同企業体を含む。)の名称等及び事情聴取における回答内容の一部である。実施機関は、各建設業者は事業聴取にあたって回答した内容が公にされることを予想しておらず、さらに談合に関わったとの疑惑をもたれるなど、これらの情報を開示することにより、今後の調査が困難になると主張する。確かに、建設業者が任意に応じる事情聴取において、その回答内容によっては、これを公にすることにより県と建設業者との信頼関係が崩れ、今後の調査が困難になるおそれがあることも否定できない。しかし、本件においては、事情聴取結果一覧表のうち、実施機関が既に開示した部分は、談合又はこれに類する行為の有無に関する質問に対する各建設業者の回答はいずれも否認ないし不知とするものであり、また、実施機関が非開示とした部分を当審査会がインカメラ審理により見分したところ、これを公にすることにより県と建設業者との信頼関係が崩れ、今後の調査が困難になるような情報であるとは認められない。したがって、(j)に掲げる情報は、開示すべきである。
(8) 結論
以上のとおり、個人の氏名等、特定の個人が識別可能な個人情報については、原則非開示とされている(条例第7条第2号)ため、開示すべき例外的な場合(同号ただし書)に該当するか否かを検討した結果、これに該当するとは認められなかったので、非開示を妥当と判断した。
一方、業者名等特定の法人が識別可能な情報であっても、法人情報については、識別の可否によって開示非開示が決められるのではなく、競争上の地位、利益を害すると認められない限り、開示すべきとされている(条例第7条第3号)ので、「入札参加業者全社に向けられた一般的な疑惑」等の情報は、競争上の地位、利益を害するとまでは認められないと考え、「特定の業者に対する特別な疑惑」を除き、開示するのが相当と判断した。
また、事務事業情報(条例第7条第6号)については、公にすることにより県の事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれが、抽象的な可能性にとどまらず、法的保護に値する程度の蓋然性を有するか否かを検討した結果、これに該当するとは認められなかったので、開示するのが相当と判断した。
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会からの意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
条例第33条第1項に基づき、当審査会がインカメラ審理のために本件対象公文書の写しを求めたところ、実施機関から提出された文書の写しが、実際に異議申立人へ開示されたものと一部異なっていた。審査会の委員が異議申立ての対象となった公文書を実際に見分するインカメラ審理は、非開示等の判断が妥当であったか否かなどについて当審査会が判断するために必要な調査権限の中でも重要なものであるから、実施機関は条例の適切な運用に努めるべきである。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
17. 8.17 | ・諮問書の受理 |
17. 8.22 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
17. 9.12 | ・非開示理由説明書の受理 |
17. 9.14 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18.10.20 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第255回審査会)
|
18.11. 8 | ・審議 ・答申 (第257回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。