三重県情報公開審査会 答申第250号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年10月20日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「過去5年間に特定の法人に対して支払った支出に関するすべての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成17年11月1日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、次のとおりである。
- 平成13年度三重県産業廃棄物抑制等研究開発事業実施計画
- 平成13年度三重県産業廃棄物抑制等研究開発事業費補助金及び平成13年度三重県産業廃棄物抑制等設備機器整備費補助金の交付及び支出負担行為について(伺い)
- 平成13年度三重県産業廃棄物抑制等研究開発事業計画の変更承認について(伺い)
- 平成13年度三重県産業廃棄物抑制等研究開発事業計画の変更の承認及び補助金の交付決定の変更並びに支出負担行為の変更について(伺い)
- 平成13年度三重県産業廃棄物抑制等研究開発事業費補助金の額の確定について(伺い)
- 平成14年度三重県産業廃棄物抑制等研究開発事業費補助金の交付及び支出負担行為について(伺い)
- 平成14年度三重県産業廃棄物抑制等研究開発事業計画の変更承認及び補助金の変更交付並びに支出負担行為の変更について(伺い)
- 平成14年度三重県産業廃棄物抑制等研究開発事業費補助金の額の確定について〔特定の法人の名称〕(伺い)
- 平成14年度三重県産業廃棄物抑制等研究開発事業経過報告書
- 平成15年度三重県産業廃棄物抑制等研究開発事業経過報告書 2件
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○ 条例第7条第2号(個人情報)に該当
本決定において非開示とした特定の法人の主任研究員の役職及び略歴は、開示することにより特定の個人が識別され得る情報であり、また、条例第7条第2号ただし書イ及びロのいずれにも該当しないため、非開示とした。
5 異議申立て理由
主任研究者は、会社を代表して補助金対象事業を実施するものであるから、説明責任を全うするためにも、その役職及び略歴の部分は、開示すべきである。
また、本件対象公文書に係る補助金の対象となった研究は、違法な廃棄物処理と不可分の関係にあるものだから、当該研究に係る情報は、条例第7条第2号ただし書ロの適用によっても、開示すべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件異議申立てに関して、実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、本件対象公文書に記載された主任研究員の「役職」及び「略歴」の部分である。本件対象公文書は、民間の事業者が行う研究開発事業に対する県の補助金交付(公金支出)に関するものであることを勘案すると、当該公金支出についての県の説明責任は大きいと考えられる。
実施機関の主張を総合すると、「役職」及び「略歴」を開示することにより、例えば当該法人に勤務したことがあるとか、法人内部の人事に詳しいなどの特別の事情を有する者が見れば、当該個人が識別され得ると判断し、本号により「役職」及び「略歴」を非開示としたものである。
確かに、本件対象公文書に記載された「略歴」のうち、当該主任研究員の最終学歴の部分については、大学卒業者名簿その他の情報と組み合わせることにより、当該主任研究員が識別される可能性は否定できない。したがって、「略歴」のうち当該主任研究員が卒業した大学、学部及び学科の名称については、本号本文に該当すると認められる。
しかし、法人の従業員の役職や内部での配属の経歴は一般に公にされていないため、これを開示しても、一般人が通常の方法によって入手し得る情報と組み合わせることにより特定の個人が識別され得るとは認められない。したがって、実施機関が本決定において非開示とした主任研究員の「役職」及び「略歴(大学、学部及び学科の名称を除く。)」については、開示することにより当該主任研究員が識別され得るとはいえないため、本号に該当しない。
なお、異議申立人は、本件対象公文書に係る補助金の対象となった研究は違法な廃棄物処理と不可分の関係にあるものだから、当該研究に係る情報は本号ただし書ロにより開示すべきである旨主張している。しかし、実施機関の説明によれば、当該研究はフェロシルト問題とは関係がなく、また、結果的に実用化に至らなかったとのことであるから、本号ただし書ロに規定する「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとは認められない。また、当該研究に係る主任研究員が卒業した大学、学部及び学科の名称について、本号ただし書イに規定する「法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当するとも認められない。
したがって、実施機関が本決定において非開示とした主任研究員の「役職」及び「略歴」のうち、大学、学部及び学科の名称については非開示が妥当であるが、その余の情報については、開示すべきである。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
17.11.21 | ・諮問書の受理 |
17.11.29 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
17.12.16 | ・非開示理由説明書の受理 |
18. 1. 5 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18. 9.13 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第253回審査会)
|
18.10.20 | ・審議 ・答申 (第255回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。