三重県情報公開審査会 答申第249号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
また、異議申立人の請求のうち、平成14年8月21日に開催された「教育委員会職員分限処分に関しての審査会」の議事録の開示を求めて本決定の取消しを求める部分は、異議申立ての利益が消滅したことから、却下すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年12月21日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成14年度に三重県教育委員会が分限免職処分を行った「教育委員会職員分限に関しての審査会」「教育委員会職員懲戒審査委員会」の議事録・審査資料」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成17年2月3日付けで行った公文書非開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
なお、上記の開示請求に対し、実施機関は平成17年2月3日付けで、別途、公文書部分開示決定(以下「別途決定」という。)を行っているが、本件異議申立ての対象とはされていない。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、次のとおりである。
(1) 元小学校事務職員について三重県教育委員会が平成14年8月27日に行った分限免職処分の審査資料のうち
ア 校長からの本人の勤務の状況
イ 校長からの本人の行動に関する記録
ウ 校長からの本人に係る報告書
エ 市町村教育長からの本人との話し合いの記録
なお、実施機関が本決定で非開示とした公文書には、(1)のアからエまで以外にも「本人の略歴書」等があるが、この部分については異議申立てを取り下げる旨の意見書が異議申立人から提出されているので、本件対象公文書には含めない。また、実施機関が本決定で非開示とした公文書には、「(2) 元県立学校教員について三重県教育委員会が平成15年2月4日に行った「教育委員会職員懲戒審査委員会の添付資料」」として6件の公文書があるが、異議申立人はこの部分についての異議を何ら主張していないので、本件対象公文書には含めない。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○条例第7条第2号(個人情報)に該当
個人に関する情報であって、開示することにより、特定の個人が識別されたり、特定個人の権利利益を害するおそれがあるため、非開示とした。
5 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次の理由により、本決定は条例の解釈運用を誤っているというものである。
非開示とされた本件対象公文書は、元小学校事務職員の勤務の状況に関するものであるから、開示すべきである。また、実施機関の説明によれば、本件対象公文書には当該職員の母親の対応についても記載があるようだが、当該職員の氏名を非開示としており、その母親は特定できないのだから、当該母親の対応は開示してもよいと思われる。
平成14年8月に開催されたとされる「教育委員会職員分限処分に関しての審査会」の議事録が、本決定及び別途決定のいずれにおいても対象公文書として特定されていないが、議事録は作成されたはずであり、対象公文書の特定に誤りがある。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。 そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
なお、公務員等の職務に関する情報は、「個人に関する情報」に当たらないが、公務員等の職務に関する情報であっても、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある場合は、本号に該当するとしている。
また、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)第5条第1号本文に規定する「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある」情報については、条例では明文の規定はないが、そもそもこのような情報は全体が個人情報に該当し、原則として非開示となるべきものと解されている。例えば、カルテ、反省文のように、個人の人格と密接に関係する情報などがこれに該当し、このような情報は、個人識別性がない場合であっても、開示されることにはならない場合がある。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関は、本件対象公文書について、個人のプライバシーに関する記述であり、内容も非常にデリケートでセンシティブな情報であるとして、すべて非開示としている。しかし、当審査会がインカメラ審理により見分したところ、本件対象公文書には、別途決定により実施機関が既に開示した内容と同様の記述が多数見受けられた。
そこで、当審査会は、本件対象公文書に記載された内容を、次のように大別して検討した結果、以下のとおり部分開示決定をすべきものと判断した。
ア 分限処分を受けた元小学校事務職員の事務処理の誤り、当該事務職員に対してなされた職務命令その他職務の遂行に関する情報(イに掲げるものを除く。)
イ 当該事務職員の特異な行動及び発言、警察署で受けた事情聴取の内容及び被害者の氏名等その他職務の遂行に直接関係のない情報
まず、アに掲げる情報は、公務員等の職務に関する情報であり、次に掲げる情報を含むものである。
① 分限処分を受けた元小学校事務職員の氏名又は姓、職名、勤務先の学校の名称(校長の公印の印影を含む。)
② 勤務先の学校の校長(前校長を含む。)及び教諭等の姓又は氏名
③ 勤務先の学校を所管する市町村教育委員会及び県の教育事務所又は近隣の学校等の担当者(教育長を含む。)の姓
④ 勤務先の学校が所在する市町村の名称
⑤ ④が容易に類推される施設又は団体の名称
公務員等の職務に関する情報は、基本的には開示すべきものである。しかし、本件対象公文書に係る元小学校事務職員は、既に分限免職処分を受けた者であるから、アに掲げる情報をすべて開示することにより、当該事務職員の私生活上の権利利益を害するおそれがある。
したがって、上記①から⑤までに掲げる情報については、他の情報と組み合わせること等により元小学校事務職員を識別することが可能であり、また、本号ただし書のいずれの情報にも該当するとは認められないため、非開示とすることが妥当であるが、その余のアに掲げる情報は、開示すべきである。
次に、イに掲げる情報は、元小学校事務職員の疾患をうかがわせる行動や態様など個人の人格と密接に関係する情報であると言える。このような情報は、全体として本号に該当し、個人識別性がない場合であっても、開示すべきではないと考えられる。
したがって、イに掲げる情報は、本号本文に該当し、同号ただし書のいずれの情報にも該当するとは認められないことから、非開示が妥当である。
(4) 異議申立ての利益について
実施機関は、本決定及び別途決定の時点において、平成14年8月21日に開催された「教育委員会職員分限処分に関しての審査会」の議事録を、対象公文書として特定していなかった。しかし、本件異議申立てに係る当審査会の第1回目の審理(平成18年8月9日)後、当該議事録を発見したとして、平成18年9月13日に部分開示の決定を追加的に行っている。
このような対象公文書の特定は極めて不適切なものであるが、上記議事録の特定に関して本決定の取消しを求める異議申立ての利益は、平成18年9月13日の部分開示の決定により消滅したと言わざるを得ない。
よって、異議申立人の請求のうち、上記議事録の開示を求めて本決定の取消しを求める部分は、異議申立ての利益が消滅したことから、却下すべきである。
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会からの意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
実施機関は、平成14年8月21日に開催された「教育委員会職員分限処分に関しての審査会」の議事録について、本決定及び別途決定において公文書として特定せず、当審査会の審理においても、当該議事録は存在しない旨説明したものである。同日の審理後、再度当該議事録を探し、発見した後は速やかに部分開示の決定を行っているが、本来は本決定及び別途決定の時点で十分に公文書を検索すべきであった。実施機関は、情報公開制度への信頼を確保するためにも、条例の適切な運用に努めるべきである。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
17. 7.20 | ・諮問書の受理 |
17. 7.22 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
17. 8.17 | ・非開示理由説明書の受理 |
17. 8.29 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 9.16 | ・異議申立人からの意見書の受理 |
17. 9.27 | ・実施機関に対して意見書の送付 |
18. 8. 9 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第251回審査会)
|
18. 8.18 | ・実施機関に対して補足説明書の提出依頼 |
18. 9. 1 | ・補足説明書の受理 |
18. 9.13 | ・審議
(第253回審査会)
|
18.10.20 | ・審議 ・答申 (第255回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。