三重県情報公開審査会 答申第246号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書を部分開示する旨の実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立人の趣旨は、開示請求者が平成18年4月12日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「県の特定の学校法人に対する改善指導などの措置内容と、当該学校法人から県に提出された改善内容など、暴力問題をめぐる県と当該学校法人とのやりとりの一切について」の開示請求(以下「本請求」と言う。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、平成18年4月26日付けで開示請求者に対して行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 対象公文書について
本件対象公文書は、児童等事件報告(平成16年12月20日付け)他8件(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 本件異議申立てについて
実施機関は本請求に対し、本件対象公文書中に異議申立人の情報が含まれていることから、条例第17条第2項の規定に基づき、異議申立人に対して意見照会を行い、本件対象公文書を部分開示する旨の本決定を行った。
個人情報及び法人その他の団体に関する情報であって公にすることで法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる部分については非開示とするが、事件があったことを受けての学校法人の対応や改善取組等に関する情報は、条例第7条第3号の法人情報ではあるが、公にすることで競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないため開示と判断し、異議申立人に対して条例第17条第3項の規定に基づき、個人情報及び法人情報に該当する情報を除き開示する旨の通知をしたところ、本件異議申立てが提起されたものである。
なお、本請求を行った開示請求者には、平成18年5月11日付けで、本件異議申立てに係る決定がなされるまで開示を停止する旨の通知を行っている。
5 実施機関の開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定が妥当というものである。
開示請求の対象となった公文書は、特定の私立学校で発生した事件に関する県と当該学校法人とのやりとりに関するものである。これらの公文書に記載された情報のうち、個人情報及び法人その他の団体に関する情報であって公にすることで当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる部分については非開示とした。
異議申立人は、対象公文書の全てを非開示とするべきと主張するが、事件があったことを受けての学校法人の対応や改善取組等に関する情報は、条例第7条第3号の法人情報ではあるが、公にすることで競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないことから開示することとした。
6 異議申立て理由
異議申立人は、開示請求の対象とされた文書については、すべて、その開示には支障があるとし、以下のように主張している。
- 本件対象公文書中8件は、すべて私立学校法第6条の規定により、当該学校法人より所轄庁に対し提出したものである。
- 当該学校法人と所轄庁との信頼関係に基づき、事実関係を詳細かつ正確に報告しているものであり、もともと第三者への公開を予定していない。これらの文書につき、仮に、第三者への公開を予定するとすれば、詳細かつ正確な報告自体が得られなくなるおそれがあり、行政上大きな支障が発生する。なお、私立学校法上も、公開を前提とした規定はない。
- 公務員は、その法令上の守秘義務からして、これらの文書を第三者に漏らしてはならない義務があり、これら文書は、条例第7条第1号の非開示情報に該当する。
- 本件対象公文書は、児童及びその父親並びに教師の「個人に関する情報」が大半であり、仮に、その部分を某君とか某氏と置き換えたり、あるいは黒塗りしたとしても、新聞記事等と照らし合わせれば、特定個人が識別可能であり、個人の重大なプライバシー侵害になりかねず、条例第7条第2号の非開示情報に該当する。
- 対象公文書は、個人識別情報が文書の大部分をなしており容易に区別して除くことができず、仮に個人識別情報を除くことができたとしても他の部分からして個人の権利利益が害されるおそれがないとは言えないため、条例第9条に該当しない。
- 本件対象公文書には、事件が詳細かつ正確に記載されているとともに、関係者の処分等、関係当事者のプライバシーに係る問題であるというだけでなく、その再発防止対策の内容及び実施状況も記載されている。これらの情報は、当該学校法人に関する情報であって、公にすることにより、当該学校法人並びにそこに在学する児童生徒・卒業生及び保護者に対し、その学校運営上、多大な不利益を与えかねないものであり、条例第7条第3号の非開示情報に該当する。
7 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記載されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
(2)本事案に対する当審査会の判断について
異議申立人は、対象公文書の全ての非開示を主張していたが、口頭の意見陳述の際に、その主張を取下げ、一部特定部分(以下「本件特定部分」という。)についてのみ、条例第7条第3号に該当するとして、非開示を主張した。
したがって、本件特定部分を除く部分については、争いはないと判断し、当審査会は、本件特定部分について、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(3)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務付けられることになる。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
異議申立人は、本件特定部分は、学校法人の事業内容等に関わる情報であり、その表現は他の団体への不当な評価の謗りを受けかねないため不適当と判断し、本号に規定する法人その他の団体の情報にあたるとして非開示を主張している。
確かに、本件特定部分には、当該私立学校の学力の捉え方に関することが記述されているので、公開されれば社会的な反響はあることが予想される。しかし、この部分の開示で法人の競争上の地位や利益が害されるとは考えにくく、条例上の非開示情報に該当するとまでは認められない。
したがって、実施機関の決定は妥当である。
なお、当該学校法人が真摯に改善努力をし、報告書には改善努力に関することが記述されており、情報を開示しても評価を害するものではないと考える。
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
8 審査会の処理経過
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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18. 5.12 | ・諮問書の受理 |
18. 5.16 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
18. 5.29 | ・開示理由説明書の受理 |
18. 5.30 | ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18. 7.31 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第250回審査会)
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18. 8.21 | ・審議
(第252回審査会)
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18. 9.28 | ・審議 ・答申 (第254回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学講師 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。
また、丸山康人委員は、条例第30条第1項の規定により、会長の許可を得て本件事案の審議を回避している。