三重県情報公開審査会 答申第245号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年6月24日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「最近の「談合情報」とその対処について分かる全ての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成17年7月8日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、次のとおりである。
- 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成16年8月20日開催分)
- 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成16年8月31日開催分)
- 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成16年9月8日開催分)
- 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成16年9月29日開催分)
- 三重県公正入札調査委員会資料(平成17年1月27日開催分)
- 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成17年3月10日開催分)
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書のうち、次に掲げる情報は、特定の個人が直接間接に識別される情報であり、条例第7条第2号(個人情報)に該当する。入札業者の従業員については、開示することにより、法人の従業員として入札業務に関わったために法人に代わって事情聴取に応じたにすぎないにもかかわらず、開示することにより世間から担当者として談合に関わったのではないかと疑惑をいだかれ、私生活の平穏が乱されるおそれがある。また、同号ただし書のいずれにも該当しないことから、非開示とした。
○ 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成16年8月20日開催分)
(ア)「資料1(寄せられた情報)」におけるファックスで指示を出したとされる法人の役員の役職名及び氏名
○ 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成16年9月8日開催分)
(イ)「談合情報にかかる事情聴取結果一覧表」の「回答者」の項目に係る各指名業者の欄に記載された役職名及び氏名
(ウ)「談合情報にかかる事情聴取結果一覧表」の質問2の項目に係る各指名業者の回答欄に記載された当該工事の見積りをした者及び入札に参加した者の役職名及び氏名(又は姓)
(エ)「談合情報にかかる事情聴取結果一覧表」の質問6の項目に係る回答欄に記載された入札額を決めた者の氏名(又は姓)
○ 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成16年9月29日開催分)
(オ)「談合情報にかかる事情聴取結果一覧表」の「回答者」の項目に係る各指名業者の回答欄に記載された役職名及び氏名
(カ)「談合情報にかかる事情聴取結果一覧表」の質問5の項目に係る各指名業者の回答欄に記載された当該工事の見積りをした者の役職名及び氏名(又は姓)
○ 三重県公正入札調査委員会資料(平成17年1月27日開催分)
(キ)「談合情報報告書」における情報提供者の氏名、職業及び電話番号
(ク)「事情聴取一覧表」の質問2の項目に係る各入札業者の回答欄に記載された当該工事の見積りをした者及び入札に関する責任者の氏名
○ 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成17年3月10日開催分)
(ケ)「談合情報報告書」における情報通報者の氏名及び電話番号
(コ)「談合情報にかかる報告書」における情報通報者の氏名
(サ)「事情聴取一覧表」の質問番号2の項目に係る各入札業者の回答欄に記載された当該工事の見積りをした者及び入札参加予定者の氏名
(2) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
本件対象公文書のうち、次に掲げる情報は、条例第7条第3号(法人情報)に該当する。
(シ)から(ヘ)まで、(マ)から(ヤ)まで、(ヨ)から(ロ)まで及び(ヲ)に掲げる情報は、開示することにより、当該法人があたかも談合に関与しているとの疑惑を抱かれるおそれがあり、社会的評価、名誉、社会活動の自由が損なわれ、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
(ホ)、(ユ)、(ワ)及び(ン)に掲げる情報のうち、直接工事費以外の費目に係る数値については、当該法人の生産、技術、営業等の情報であり、開示することにより、既に開示した「直接工事費」と比較すれば当該法人の積算内訳(積算率)情報を公にすることになり、また、その他の数値については、開示することにより、後日公表される「入札結果調書」と比較すれば当該法人を識別することが可能となり、いずれも当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
また、同号ただし書のいずれにも該当しないことから、非開示とした。
○ 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成16年8月20日開催分)
(シ)「談合情報報告書」におけるファックスで指示を出したとされる法人の名称及び属性
(ス)「資料1(寄せられた情報)」におけるファックスで指示を出したとされる法人の名称、属性及びファックス番号
(セ)「資料1(寄せられた情報)」における談合に関わったとされる法人の名称
(ソ)「資料2(小規模 落札状況)」における平成8年度又は平成12年度から平成16年度上半期までの小規模修繕業務の落札業者又は指名業者等の名称
(タ)「資料3(除草 落札状況)」における平成10年度から平成15年度までの除草業務の入札参加業者、落札業者及び下請け業者の名称
○ 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成16年8月31日開催分)
(チ)「事情聴取書」における聴取項目8-2の聴取対象とされた入札業者の名称
(ツ)「事情聴取書」における聴取項目8-2以外の特定の項目の聴取対象とされ、又は聴取対象から除かれた入札業者の名称
(テ)「対象工事の入札参加状況」における指名業者の名称
○ 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成16年9月8日開催分)
(ト)「談合情報にかかる事情聴取結果について」におけるファックスで指示を出したとされる法人の名称
(ナ)「談合情報にかかる事情聴取結果一覧表」の「指名業者名」の項目に係る各指名業者の欄に記載された法人の名称
(ニ)「談合情報にかかる事情聴取結果一覧表」の質問8の項目に係る回答欄に記載された法人の名称
(ヌ)「談合情報にかかる事情聴取結果一覧表」の質問8-2の項目に記載された質問対象となる特定の指名業者の名称
(ネ)「資料1 対象工事の入札状況」における指名業者の名称
○ 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成16年9月29日開催分)
(ノ)「談合情報にかかる報告書」における入札辞退届を提出した法人の名称
(ハ)「談合情報にかかる事情聴取結果一覧表」の「指名業者名」の項目に係る各指名業者の欄に記載された法人の名称
(ヒ)「談合情報にかかる事情聴取結果一覧表」の質問4の項目に係る回答欄に記載された他の指名業者の名称
(フ)「談合情報にかかる事情聴取結果一覧表」の質問6から質問8までの項目に係る回答欄に記載された本件工事の指名業者以外の法人の名称
(ヘ)「工事費内訳書」の表の見出しに記載された各指名業者の名称
(ホ)「工事費内訳書」の直接工事費以外の費目並びに「工事価格」、「消費税及び地方消費税相当額」及び「本工事費計」の項目に係る各指名業者の欄に記載された数値
○ 三重県公正入札調査委員会資料(平成17年1月27日開催分)
(マ)「談合情報報告書」における落札予定とされた共同企業体の名称
(ミ)「入札談合情報に係る事情聴取日程及び班編成(案)」における事情聴取予定の法人の名称
(ム)「事情聴取一覧表」の「業者名」の項目に係る各入札業者の欄に記載された共同企業体及びこれを構成する法人の名称
(メ)「事情聴取一覧表」の質問2及び質問6の項目に係る回答欄に記載された共同企業体を構成する他の法人の名称
(モ)「事情聴取一覧表」の質問4’の項目に記載された質問対象となる特定の共同企業体の名称
(ヤ)「工事費内訳書」の表の見出しに記載された各共同企業体の名称
(ユ)「工事費内訳書」の直接工事費以外の費目及び「工事価格計」の項目に係る各共同企業体の欄に記載された数値
○ 県土整備部公正入札調査委員会資料(平成17年3月10日開催分)
(ヨ)「談合情報報告書」における落札予定とされた共同企業体の名称
(ラ)「談合情報」における落札予定とされた共同企業体の名称
(リ)「談合情報にかかる報告書」における落札予定とされた共同企業体の名称
(ル)「事情聴取一覧表」の表の見出しに記載された当該工事の各入札業者の名称
(レ)「事情聴取一覧表」の質問6及び質問7-1の項目に係る回答欄に記載された共同企業体を構成する法人の名称
(ロ)「事情聴取一覧表」の質問7-1の項目に係る回答欄に記載された当該工事の入札業者(共同企業体を構成する他の法人を含む。)以外の法人の名称
(ワ)「事情聴取一覧表(別紙)」上部の表の「入札額順位」、「見積もり額」、「入札額」及び「見積もり額と入札額の相違」の各項目に係る当該工事の各入札業者の欄に記載された数値
(ヲ)「入札額内訳表」の表の見出しに記載された当該工事の各入札業者の名称
(ン)「入札額内訳表」の直接工事費以外の費目並びに「工事価格」、「消費税及び地方消費税相当額」及び「本工事費計」の項目に係る当該工事の各入札業者の欄に記載された数値
5 異議申立て理由
「談合」防止のための対策がいかに無策であり、黙認しているかを示すもので、談合情報の内容である業者名の特定部分や見積者氏名、見積額の数値を非開示とすることは容認できない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、上記4(1)の(ア)から(サ)までに掲げる情報であり、以下のとおり分類することができる。
(a)ファックスで指示を出したとされる法人の役員の役職名及び氏名
(ア)
(b)実施機関による事情聴取に出席した指名業者の役員の役職名及び氏名又は従業者の職名及び氏名
(イ)、(オ)
(c)入札業者の役員又は従業者で、工事の見積りをした者及び入札に参加した者等の役職名(又は職名)及び氏名(又は姓)
(ウ)、(エ)、(カ)、(ク)、(サ)
(d)談合情報の提供者等の氏名、職業及び電話番号
(キ)、(ケ)、(コ)
ところで、一般に法人の役員の役職名及び氏名並びに従業者の職名及び氏名は、条例第7条第2号本文に規定する「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得る情報」であり、同号ただし書に該当しない限り、これらの情報を非開示とすることができると解すべきである。そして、建設業者の役員の役職名及び氏名並びに従業者の職名及び氏名について、同号ただし書に該当するか否かを検討すると、これらの情報のうち建設業者の役員の役職名及び氏名は、建設業法に基づき公衆の閲覧に供されている文書に記載されている情報であると認められるため、法人の役員名簿のように法人の役員が誰であるかということを記載したに過ぎない文書に建設業者の役員の役職名及び氏名が記載されている場合には、建設業者の役員の役職名及び氏名は法令により公にされ又は公にされることを予定している情報であると認められ、同号ただし書イにより、これらの情報を非開示とすることはできない。しかし、公文書の綴り方や公文書の記載の内容により、建設業者の役員の役職名及び氏名にそれ以外の何らかの情報が結び付けられて意味が付加され、その付加された意味を含んだ情報が法令等や慣行により公にされ又は公にされることを予定している情報であるとは認められない場合には、その建設業者の役員の役職名及び氏名を開示すれば、付加された意味を含む特定の個人を識別し得る情報であって、公にされ又は公にされることを予定していない情報を開示する結果となり、妥当でない。このような場合には、建設業者の役員の役職名及び氏名を、条例第7条第2号ただし書イを理由に開示すべきであると解すべきではない。
なお、建設業者の従業者の職名及び氏名は、建設業法等の法令等又は慣行により公にされ又は公にされることを予定している情報であるとは認められないから、同号ただし書を理由に開示すべきであるとは解されない。
(a)に掲げる情報は、法人の役員の役職名及び氏名に、ファックスで指示を出したとされる者という意味が付加された情報であって、このような情報が法令や慣行により公にされ又は公にされることを予定しているとは認められない。また、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、談合を指示したとされる(しかも、談合の事実は確認できなかった。)法人の役員の役職名及び氏名を公にすることが必要であるとも認められない。したがって、(a)に掲げる情報は、条例第7条第2号ただし書イ及びロのいずれにも該当せず、これらの情報を同号に掲げる非開示情報として非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(b)に掲げる情報は、指名業者の役員の役職名及び氏名又は従業者の職名及び氏名に、実施機関による事情聴取に出席した者という意味が付加された情報であって、このような情報が法令や慣行により公にされ又は公にされることを予定しているとは認められない。また、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、実施機関による事情聴取に出席した者の役職名又は職名及び氏名を公にすることが必要であるとも認められない。したがって、(b)に掲げる情報は、条例第7条第2号ただし書イ及びロのいずれにも該当せず、これらの情報を同号に掲げる非開示情報として非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(c)に掲げる情報は、入札業者の役員又は従業者の役職名(又は職名)及び氏名(又は姓)に、工事の見積りをした者又は入札への参加等をした者という意味が付加された情報であって、このような情報が法令や慣行により公にされ又は公にされることを予定しているとは認められない。また、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、本件工事の見積りをした者又は入札への参加等をした者の役職名(又は職名)及び氏名(又は姓)を公にすることが必要であるとも認められない。したがって、(c)に掲げる情報は、条例第7条第2号ただし書イ及びロのいずれにも該当せず、これらの情報を同号に掲げる非開示情報に該当するとして非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(d)に掲げる情報は、談合情報の提供等を行った個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得る情報であるところ、このような情報が法令や慣行により公にされ又は公にされることを予定しているとは認められない。また、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、談合情報の提供者等の氏名、職業及び電話番号を公にすることが必要であるとも認められない。したがって、(d)に掲げる情報は、条例第7条第2号ただし書イ及びロのいずれにも該当せず、これらの情報を同号に掲げる非開示情報に該当するとして非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、上記4(2)の(シ)から(ン)までに掲げる情報であり、以下のとおり分類することができる。
(e)実施機関が作成した事情聴取結果の一覧表に記載された事情聴取の対象とされた入札業者(共同企業体を構成する法人を含む。)の名称、その他(f)から(h)までに分類されない入札業者(共同企業体を構成する法人を含む。)の名称
(セ)、(ソ)、(タ)、(ツ)、(テ)、(ナ)、(ニ)、(ネ)、(ノ)、(ハ)、(ヒ)、(ヘ)、(ミ)、(ム)、(メ)、(ヤ)、(ル)、(レ)、(ヲ)
(f)ファックスで談合の指示を出したとされる法人の名称、属性及びファックス番号
(シ)、(ス)、(チ)、(ト)、(ヌ)
(g)実施機関に寄せられた談合情報において落札予定とされた共同企業体の名称
(マ)、(モ)、(ヨ)、(ラ)、(リ)
(h)実施機関が談合行為の有無を判断するために入札業者(共同企業体を構成する法人を含む。)に行った質問に対して当該入札業者が行った回答の内容として、実施機関が事情聴取結果の一覧表に記載した、入札業者(共同企業体を構成する法人を含む。)以外の法人の名称
(フ)、(ロ)
(i)「工事費内訳書」又は「入札額内訳表」の直接工事費以外の費目並びに「工事価格」、「消費税及び地方消費税相当額」及び「本工事費計」の項目に係る各入札業者(共同企業体を含む。)の欄に記載された数値、並びに「事情聴取一覧表(別紙)」上部の表の「入札額順位」、「見積もり額」、「入札額」及び「見積もり額と入札額の相違」の各項目に係る当該工事の各入札業者(共同企業体を含む。)の欄に記載された数値
(ホ)、(ユ)、(ワ)、(ン)
実施機関は、(e)から(h)までに掲げる情報は、開示することにより、当該法人等が談合に関与しているとの疑惑を抱かれるおそれがあり、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると主張している。しかし、一般に公共工事の入札において談合等の不正行為が疑われることが多いことは、平成12年に「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」が定められたことからも明らかである。そして、談合情報により、入札に参加した業者が談合に関与したとの疑惑が生じたとしても、既に一般的な疑惑がある以上、これに関する情報を開示しても特段の不利益を受ける結果となるとまではいえないと考えられる。
(e)に掲げる情報は、事情聴取の対象とされた入札業者(共同企業体を構成する法人を含む。)の名称等であり、上記の考え方から、開示すべきである。ただし、(ソ)に掲げる情報の一部には指名業者以外の者の名称が含まれており、これを開示すると、上記の一般的な疑惑以上の特別な疑惑を抱かれることも想定されることから、当該部分は非開示とすることが妥当である。また、(ナ)に掲げる情報は、当該情報に係る実施機関が行った事情聴取における聴取項目8-2及びその回答内容が既に開示されていることから、これを開示すると、後述の(f)に掲げる情報を開示することと同じ結果となってしまうため、非開示とすることが妥当である。
(f)に掲げる情報は、ファックスで談合の指示を出したとされる特定の法人の名称等である。本件対象公文書に係る入札については、本決定を行った時点で、権限のある機関の調査により談合が行われたと認定されていた等の事情は認められない。(f)に掲げる情報を開示すれば、当該法人が上記の一般的な疑惑以上の特別な疑惑を抱かれるおそれがあり、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。したがって、(f)に掲げる情報は本号本文に該当する。また、(f)に掲げる情報は、「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」(本号ただし書イ)、「違法又は不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある影響から県民等の生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」(同号ただし書ロ)又は「イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって公益上公にすることが必要であると認められるもの」(同号ただし書ハ)のいずれにも該当するとは認められないから、非開示が妥当である。
(g)に掲げる情報は、実施機関に寄せられた談合情報において落札予定とされた共同企業体の名称である。これらの情報は、(f)に掲げる情報のように談合の主張的役割を果たしたという情報と異なり、これを開示しても、一般的な疑惑以上の特別な疑惑を抱かれることは想定されないことから、(e)に掲げる情報と同様に、開示すべきである。
(h)に掲げる情報は、事情聴取結果の一覧表に記載された入札業者(共同企業体を構成する法人を含む。)以外の法人の名称である。これらの法人は入札に関わっておらず、その名称を開示しても、実施機関が主張するような談合に関与しているとの疑惑を抱かれるおそれがあるとは認められないから、開示すべきである。
(i)に掲げる情報のうち、直接工事費以外の費目に係る数値について、実施機関は、当該法人の生産、技術、営業等の情報であり、開示することにより、既に開示した「直接工事費」と比較すれば当該法人の積算内訳(積算率)情報を公にすることになり、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると主張する。しかし、実施機関が当審査会の審議において説明したように、入札業者が入札の際に提出する工事内訳書に記載した直接工事費やそれ以外の費目に係る数値については、落札後の工事執行において拘束されるものではない上に、既に直接工事費を開示しているにもかかわらず、これよりも少額な直接工事費以外の費目の方が当該法人の生産、技術、営業等の情報として非開示にすべきという実施機関の説明は、具体的根拠が乏しく、合理性を欠くと言わざるを得ない。また、(i)に掲げる情報のうち、「工事価格」、「消費税及び地方消費税相当額」及び「本工事費計」の項目に係る数値、並びに「入札額順位」、「見積もり額」、「入札額」及び「見積もり額と入札額の相違」の各項目に係る数値について、実施機関は、開示することにより、後日公表される「入札結果調書」と比較すれば当該法人を識別することが可能となり、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると主張する。しかし、前述のとおり、(i)に掲げる情報のうち直接工事費以外の費目に係る数値を非開示とする合理的な理由が認められない以上、入札結果調書により公にされている「工事価格」や「入札額」、これらから容易に知り得る「消費税及び地方消費税相当額」及び「本工事費計」や「入札額順位」、さらに各入札業者(共同企業体を含む。)に対し何ら拘束力のない「見積もり額」及び「見積もり額と入札額の相違」の各項目に係る数値を開示しても、当該入札業者が競争上不利となるとは認められない。したがって、(i)に掲げる情報は本号本文に該当しないから、開示すべきである。
なお、当審査会は、実施機関が当審査会の審議で言及していた答申第215号において、上記(e)から(i)までに掲げる情報と同種の情報の一部について、条例第7条第3号(法人情報)又は条例第7条第6号(事務事業情報)該当を認めたが、同種の異議申立てが繰り返し提起されていること、談合は犯罪行為でありながら全国的に見て後を絶たないこと、適正な公共工事を監視するためにこれに関する公文書の開示を求めることは、条例の趣旨目的に沿うものであること等を総合的に勘案し、さらに慎重な審議をしたうえで今回の結論に達したものである。
(6) 結論
以上のとおり、個人の氏名等、特定の個人が識別可能な個人情報については、原則非開示とされている(条例第7条第2号)ため、開示すべき例外的な場合(同号ただし書)に該当するか否かを検討した結果、これに該当するとは認められなかったので、非開示を妥当と判断した。
一方、業者名等特定の法人が識別可能な情報であっても、法人情報については、識別の可否によって開示非開示が決められるのではなく、競争上の地位、利益を害すると認められない限り、開示すべきとされている(条例第7条第3号)ので、「入札参加業者全社に向けられた一般的な疑惑」等の情報は、競争上の地位、利益を害するとまでは認められないと考え、「特定の業者に対する特別な疑惑」を除き、開示するのが相当と判断した。
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
17. 8. 1 | ・諮問書の受理 |
17. 8. 3 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
17. 8.30 | ・非開示理由説明書の受理 |
17. 9. 5 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18. 5.19 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第246回審査会)
|
18. 6.16 | ・審議
(第247回審査会)
|
18. 7.21 | ・審議
(第249回審査会)
|
18. 8. 9 | ・審議
(第251回審査会)
|
18. 9.13 | ・審議 ・答申 (第253回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 (平成18年5月31日退職) |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学講師 (平成18年6月1日任命) |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。