三重県情報公開審査会 答申第242号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年6月13日付で三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「県が争訟に関わる事件での裁判書(ママ)提出文書の決済(ママ)の過程が分かる全ての文書、弁護士との打合せ記録」の開示請求に対して、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成17年6月23日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「犬による咬傷死亡事故損害賠償請求事件」「損害賠償請求訴訟鈴鹿メモリアルパーク」(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第2号(個人情報)に該当する個人の氏名及び住所等であり、開示することにより、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報のため、非開示が妥当というものである。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、「原告氏名など、本件訴訟が公開で行われ、行政庁が被告として争われた事件であり、もう一方の不法行為者被告名も非開示とされるなど、非常識もはなはだしい。事件の全容解明と行政庁の責任、不法行為責任が何故問われ、どう解消され、改善されたかを知る上で必要不可欠であり、非開示は許されない。」と主張している。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
なお、本件事案について、異議申立人は原告の氏名及び住所を除き、実施機関が行った本決定の取り消しを求めるとともに、公文書部分開示決定通知書において、開示しない理由として条文を示しているのみである点についても異議があると認められる。
よって、当審査会は、この点について情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書は、いずれも県を被告とした2件の損害賠償請求訴訟事件に関わる訴訟記録を含む県が保有する一切の公文書である。
実施機関は本決定において本条本号(個人情報)に該当するとして原告、被告及び訴外の個人の氏名、印影、住所等情報を非開示としている。実施機関は、非開示とした当該情報は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得るものであり、開示することにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあると主張している。
他方、異議申立人は、裁判は公開で行われ、訴訟記録については何人もそれを閲覧できるとし、非開示にはあたらないと主張している。
まず、本訴訟の被告となった地方公共団体の元公務員の氏名等については、個人情報から除外する公務員情報に該当するため、開示妥当と判断する。
次に、原告および訴外の個人等(以下「原告等」という。)の氏名、印影、住所等の情報は本号本文に該当するのは明らかである。しかしながら、民事訴訟法第91条に「何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。」と規定していることから、条例第7条第2号ただし書きイ「法令若しくは他の条例の規定によりまたは慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当し、個人に関する情報ではあるが、非開示にする理由はなく、原告等に関する情報については知り得る情報になり非開示とする根拠は弱い。確かに、民事訴訟法第91条第2項の規定により公開を禁止される場合もあり、特別の場合は閲覧を禁止できるとしていることから、訴訟の内容によっては、非開示とする場合も当然にあり、原告被告を非開示とすべき正当な理由のある場合もありえる。ただし、本件事案については、訴訟記録を非開示とする場合にはあたらない。
一方、民事訴訟法に規定される訴訟記録の閲覧は、その記録が保管されている期間に限られる。本条本号ただし書きイは、法令若しくは他の条例の規定が前提となっており、本事案では民事訴訟法の規定で閲覧が可能であることから本条本号ただし書きイが適用されるものである。
以上のことにより訴訟記録の閲覧が可能である場合には、訴訟記録および実施機関が保有する訴訟記録の写しあるいは原本(以下「訴訟記録等」という。)は、原告等に関する情報も含めて開示妥当と判断する。したがって、県が保有する訴訟記録等以外の公文書についても、訴訟記録等に記載される原告等の情報に限って同様に開示妥当と判断する。
また、訴訟記録の閲覧が不可能な場合には、訴訟記録等を含め、その他の県が保有する公文書の開示にあたっては、条例の規定に則って開示あるいは非開示の判断をすることになる。なお、この場合には、保護されるべき個人情報に関しては本号本文により非開示妥当と考える。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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17. 7.21 | ・諮問書の受理 |
17. 7.26 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
17. 8.15 | ・非開示理由説明書の受理 |
17. 8.19 | ・意義申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18. 6.21 | ・書面審理 ・審査請求人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第248回審査会)
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18. 7.31 | ・審議 ・答申 (第250回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学講師 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。