三重県情報公開審査会 答申第241号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、審査請求人が平成16年12月15日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の事案における調査記録」の開示請求に対し、三重県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成16年12月27日付け監発第361号で行った公文書の存否を明らかにしない決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第11条(公文書の存否に関する情報)に該当し、非開示(存否を明らかにしない決定)が妥当というものである。
(1)条例第8条(公文書の本人開示)非該当性について
条例第6条による公文書の開示請求は、窓口での直接請求のほか、郵送、FAX、インターネット利用による請求を認めている。また、条例第8条では、個人情報であっても、当該情報に係る本人から開示請求があった場合には、本人に係る部分を開示しなければならないこと(以下「本人開示」という。)を定めており、本人開示を行おうとする者には、同条第2項の規定により「本人であることを明らかにしなければならない。」と本人証明の義務を課している。この規定に基づき、実施機関は、三重県情報公開条例の施行に関する訓令(平成13年三重県警察本部訓令第8条)により、個人のプライバシー保護の観点から厳格に本人であることの証明を義務付けている。
本件開示請求については、同請求書の「審査請求の経緯」において、「審査請求人自身が目撃し三重県警察に通報した自動車窃盗事件につき、情報公開制度により110番通報受理簿などの開示請求により得た情報と、自ら知り得た情報とが著しく相違した内容であり、再三三重県公安委員会と三重県警察に説明を求めたが、「所用の捜査を行った」との回答だけで、同回答に至る合理的・客観的な根拠が明示されていない。」旨記載され、条例第8条に基づく本人開示であることを推知させる内容となっている。
しかし、本件審査請求に係る開示請求がインターネット利用によるものであり、実施機関としては、インターネット利用による請求は本人確認に至らないため本人開示ができない旨を三重県警察ホームページ上に明示し、厳格に条例第6条による第三者請求と区分している。
また、条例は、開示請求者の責務として「適正な請求に努めること」を定めているが、当該開示請求者については、本人証明の義務を果たしておらず、条例第8条(本人開示)に規定された正規の手続きは履行されていない。
以上のことから、実施機関として、厳格な条例の解釈・運用に努めなければならず、条例第8条(本人開示)の手続きを履行していない当該開示請求については、条例第6条に基づく請求として開示・非開示の判断を行ったものである。
(2)条例第7条第2号(個人情報)該当性について
当該開示請求は、「県民から指摘された件で」という表現で、県民から警察へなされた特定の犯罪捜査への申出に対して三重県警察本部監察課が行った調査に関する記録の開示を求めたものである。一般的に、犯罪情報の通報や苦情など警察に対する県民の申出は、警察における「秘密の厳守」を前提としてなされ、申出者個人のプライバシー保護には最大限の配慮をしなければならない。当該開示請求の対象公文書である「三重県警察本部監察課の調査記録」が仮に存在したとすれば、その性質上、当該記録には犯罪情報の通報事実や捜査事実のほか、監察課に対する通報事実に至るまで様々な関係者の個人情報が存在することは明らかで、条例第7条第2号に該当するものである。また、当該開示請求の対象は、特定の事実に関する調査記録であり、同開示請求者は、その事実を特定し得る何らかの情報を有することは明らかで、同情報と実施機関が提供する情報とを比較・検討することにより、各個人が識別されるおそれが高いと判断される。情報公開制度における開示請求は、「目的を問わない」こととしており、実施機関としては、開示請求という申請の背景に内在する諸事情を図り知る術はなく、この厳然たる事実の中で、実施機関は最大限個人のプライバシーの保護に努めなければならない。この状況下において、当該開示請求のように「特定の犯罪情報の通報事実」、「特定の県民からの申し立て事実」に関するものについては、その存否を公にすることにより、通報事実や捜査事実における関係者が特定されるなど非開示情報を開示することとなる危険性が認められる。
また、審査請求人が当該開示請求において請求した内容は、監察課の行う懲戒処分等に係る調査であると判断され、調査記録は懲戒処分等に係る調査記録と判断される。懲戒処分歴は、当該職員にとって他人には知られたくない非常にセンシティブな情報であり、懲戒処分等により制裁を受けた警察職員が過去の非行を明らかにされることは、既に処分等を受けて自戒して公務に励んでいる職員にとって、大きな影響を与えるものであることも否定できない。
条例は、公務員の職務に関する情報即ち公務員情報は開示としているが、警察職員の勤務歴や他人に知られたくない処分歴等当該職員の身分取扱いに係る情報は、公務員情報には該当せず、「個人に関する情報」であり、そもそも非開示情報として条例第7条第2号に該当するものである。
過去の判例(東京地裁判決(平成10年11月12日))においても公務員の処分歴は、個人の資質、名誉に関わる情報であって、本人としては知られたくないと望み、それが正当であると認められるものは、個人情報としてみだりに公開されるべきではないと判示していることからも情報を万人に明らかにすることとなる情報公開制度の下では、警察職員といえども個人の権利利益を侵害することのないように慎重な判断が要求されるものである。
さらに、懲戒処分等の公表については、警察庁が示している「懲戒処分の発表の指針」に基づき、県警察において個別的に検討の上、公表・不公表を決定しているが、当該職員の氏名については、同人のプライバシー等を考慮して、逮捕したような場合を除き公表していないところである。
監察課は、懲戒処分等を行うために、対象となる警察職員について調査を行い調査記録を作成するが、この調査記録は懲戒処分等を前提として、懲戒処分等と表裏一体をなしているものであり、仮に調査結果に基づいて懲戒処分等が最終的になされなかった場合をも含めて、監察課において調査が行われたかどうかの事実とその記録は対象職員にとって、極めてセンシティブで他人に知られたくない情報である。情報公開制度によって特定警察職員を名指しして請求すれば、その存否を答えるだけで、当該職員が処分されたか否かが判明することとなる。また、特定警察職員を名指ししなくても、開示請求者が対象職員を既に認知していた場合や未知でも知り得た情報と照合したり、探索請求等を繰り返すことによって、当該職員が識別され得るものである。一方で、懲戒処分等に係る調査記録は、前述のとおり条例第7条第2号(個人情報)に該当し、その保護が求められるところである。
それ故、本件請求においては、事件を特定して開示請求を行い、請求人が、対象となっている警察職員の情報を入手していることが容易に認められることから、「監察課の調査記録」の存否を答えるだけで、当該警察職員の処分の有無並びにこれに係る個人情報を明らかにすることになるため、条例第11条に基づき、公文書の存否を明らかにしなかったものである。
(3)条例第7条第4号(公共安全情報)該当性について
本件開示請求の対象公文書については、直接的には「監察の調査結果」であるが、当該調査の対象は「特定年月日の情報による事件捜査」である旨明記され、結果的に特定の事件に関する通報の有無やその内容の開示を求めるものとなる。事件情報の開示については、犯人など関係者が、警察の事件把握状況、捜査状況・手法を知り得れば、証拠隠滅や逃走等捜査に対する対抗措置をとる蓋然性が極めて高く、さらには同種犯行を企図する者の犯行を容易にし、将来の同種事案の捜査に支障を及ぼすおそれが十分に認められ、公共の安全と秩序の維持に支障が生じることとなる。さらに、犯罪情報の提供などの申立てに関し、情報提供者は警察における「秘密の厳守」を絶対条件としたものが殆どであり、警察と当該情報提供者との信頼関係を失った場合には、犯罪捜査に伴う情報の提供が躊躇されるなど、結果として、犯罪の予防、検挙などの公共の安全と秩序の維持に顕著な影響を及ぼすことは必然であり、仮に当該公文書が存すれば条例第7条第4号に該当するものである。また、本件開示請求のごとく「特定の犯罪捜査に対する監査課の調査記録」を対象とした第三者からの請求については、当該調査記録の存在の有無を明らかにすることにより、特定の犯罪情報の通報事実、警察における捜査の実態を公にすることとなるため、条例第11条(存否応答拒否)の適用が必要と判断されたものである。
(4)条例第7条第6号(事務事業情報)該当性について
一般的に「監察課の調査記録」については、関係職員による非違行為、事故または犯罪の発生に伴い、三重県警察本部監察課が何らかの端緒に基づき調査・事実確認を行った経過又は結果を検証した記録であり、対象職員やその関係者などの多数の個人情報を有する性格のものである。審査請求人が求める「特定の犯罪捜査に対する監察課の調査記録」の存在は格別、その存在が公となれば、今後、秘密の厳守を絶対条件としていた関係者からの信頼を失い協力が得られなくなるほか、調査を察知した対象職員による事実の歪曲や隠蔽などの行為が十分に予想され、監察課の調査・事実確認の事務に著しく支障をきたし、条例第7条第6号に該当する。また、当該開示請求に係る「特定の犯罪捜査に対する監察課の調査記録」については、その存否を公にすることにより、調査事実の有無を公にすることとなるため、調査対象職員が様々な対抗措置をとる危険性が高く、条例第11条(存否応答拒否)の適用が必要と判断した。
以上のことから、一般的に「特定の犯罪捜査に対する監察課の調査記録」については、条例第7条第2号、同条第4号及び同条第6号に該当する非開示情報であり、当該開示請求に係る対象公文書については、その存否を答えるだけで条例第7条2号、同条第4号及び同条第6号に該当する非開示情報を開示することとなる性質のものであることから、条例第11条に基づき公文書の存否を明らかにしなかったものである。
なお、審査請求人は、平成16年12月15日にインターネット利用による開示請求と同一の請求を、平成17年5月16日警察署受付窓口において行い、運転免許証提示に基づく本人確認ができたことから、条例第8条の規定に基づく本人開示請求と認め、平成17年5月19日付けの公文書不存在決定通知書により「請求に係る調査は行っていないので、調査記録は存在しない。」旨を既に回答済みである。
4 審査請求の理由
審査請求人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を 誤っているというものである。
(1)条例第8条(公文書の本人開示)非該当性への反論
審査請求人は三重県警察本部監察課が所有する当該文書の作成から管理に至るまで一切関わっていない。審査請求人はその当該文書に本人開示の部分が含まれて入るか否かを事前に知り得る立場にない。それを知ることができるのは文書を作成した実施機関のみである。審査請求人の手続きに不備があり、インターネットから請求できない情報を含んでいると言うならば、条例第6条第3号に基づき補正請求を行い実施機関が正当と認める手続きによるやり直しを求めるべきである。しかし、当該請求は実施機関により受理され存否応答拒否という回答が出されている。手続きの不備などは実施機関の後付けの理論であり言わば屁理屈である。理由説明にこのような屁理屈を並べること自体、条例第11条(存否応答拒否)適用の正当性に対する実施機関の根拠の薄弱さを証明するものに他ならない。
(2)条例第7条第2号(個人情報)該当性への反論
条例第7条第2号にも「公務員の職務に関する情報を除く」と明記されている。審査請求人の情報開示請求は個人情報の取得を目的としたものではなく、ましてや公務員個人の私生活上の権利利益を害するためのものではない。個人情報を守る目的ならば、個人情報に関わる部分を黒塗りにするなどの方策があり、個人情報の保護は条例第11条(存否応答拒否)適用を正当化するものではない。
今回の書類に関しては、警察官の職務執行上の問題であって、個人のプライバシーと呼べるようなものではない。今回の請求の目的は、警察官個人の非違行為をあげつらうことではなく、三重県警察本部監察課が警察官の不適切な職務執行に対して適切な職務を全うしているのかどうかを確認するために、情報公開で請求したものである。実施機関の存否応答拒否の本当の理由が、警察官の非違行為を隠すこと、そしてそれらのことに対して適切な対処、調査、処罰を行わなかったことを隠すことである以上、実施機関に何度理由の説明を求めたところで、情報公開条例に基づいた筋の通った論理や明確な根拠は出てこない。
(3)条例第7条第4号(公共安全情報)該当性への反論
本件請求に係る当該情報においては的を射た議論ではない。なぜなら審査請求人の求める情報は捜査情報ではなく、現場に臨場した警察官への調査記録だからである。審査請求人に捜査を阻害する意思はない。むしろ、捜査の進展と決着を望むものであり、実施機関の目論見通りに、この問題を公にしないことこそが、「犯罪の予防、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と考える。また、捜査手法や進捗状況の漏洩防止には、該当部分を黒塗りにするなどの方策があり、公共安全情報は条例第11条(存否応答拒否)適用を正当化するものではない。
(4)条例第7条第6号(事務事業情報)該当性への反論
「監察課の調査記録」については実施機関が述べるとおり、対象職員やその関係者などの多数の個人情報が含めれていることは理解する。理解した上で反論するならば、実施機関の主張内容(個人情報の保護・情報提供者との信頼関係)は当該箇所を黒塗りにする等の部分開示でこと足りることである。なぜ条例第11条(存否応答拒否)の適用処置でなければならなかったかの理由説明になっていない。監察課の調査を察知した調査対象職員が対抗処置を取り監察課の事務に支障をきたす危険性に関しては承服できない。調査対象職員とも面識があり審査請求人に疑惑を持たれていること、審査請求人が監察課に調査を求めていることは調査対象職員達も認識している。開示請求の結果の如何に関わらず、対象職員にとって調査は既知の事実である。
審査請求人が請求した情報が、条例第7条第2号(個人情報)・条例第7条第4号(公共安全情報)・条例第7条第6号(事務事業情報)に真に該当する情報であるならば、いつ・どこで・誰が請求手続きを行っても実施機関は条例第11条(存否応答拒否)の適用で対応すべきである。存否を明らかにしたのは存否応答拒否決定の正当性を実施機関自ら否定した行為である。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第8条の意義について
公文書開示制度は、原則公開であるが、個人情報は非開示としている。しかし、本人についてまで、自己の情報を非開示にすることは妥当でない。
本件請求時点での本条は、公安委員会及び警察本部長のみに適用される規定であり、当該実施機関が保有する個人情報で、公文書開示制度において、開示できない情報を、本人に限り、開示請求できることとしたものであった。
(3)条例第8条該当性について
実施機関は、条例第8条による本人に係る部分の開示には、同条第2項の規定により「本人であることを明らかにしなければならない。」と本人証明の義務を課していることから、条例第8条に基づく本人開示であることを推知させる内容となっていたが、当該開示請求者については、本人証明の義務を果たしておらず、条例第8条(本人開示)に規定された正規の手続きは履行されていないとし、条例第6条に基づく請求として開示・非開示の判断を行ったと主張している。
審査請求人は、審査請求人はその当該文書に本人開示の部分が含まれているか否かを事前に知り得ず、それを知ることができるのは文書を作成した実施機関のみであるとし、審査請求人の手続きに不備があるならば、条例第6条第3号に基づき補正請求を行い実施機関が正当と認める手続きによるやり直しを求めるべきであると主張する。
本条は、公安委員会及び警察本部長が三重県個人情報保護条例に規定する実施機関となる以前の事案であり、当該請求時点、本件審査請求時点及び本件諮問時点では本条が適用される。本条第2項で「開示請求者は本人であることを明らかにしなければならない。」としており、インターネット利用による請求は本人確認はできないことから本人開示は該当せず、条例第6条に基づく請求であるとする実施機関の説明は妥当であったと判断するしかない。
(4)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の意義について
開示請求に対する決定は、本来、請求文書を特定した上で、①不存在を理由とする非開示、②非開示情報該当性の判断に基づく開示・部分開示・非開示、③非開示情報について公益上の理由による裁量的開示、であることが原則であるが、この決定の枠組みの例外を定めたものである。すなわち、例外的に開示請求に係る公文書の存否自体を明らかにすることによって、非開示情報の規定により保護しようとしている利益が損なわれる場合がある。
(5)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性について
実施機関は、本件対象公文書が仮に存在するとするならば、三重県警察職員の懲戒の取扱いに関する訓令(三重県警察本部訓令第10号)第3条「所属長は、所属の職員に規律違反があるとき、又は所属の職員の規律違反について申告があったときは、直ちに事実を調査しなければならない。この場合において、懲戒手続に付する必要があると認めるときは、懲戒申立書に次に掲げる書類を添えて、その旨を警務部監察課長を経て本部長に申し立てなければならない。」に規定する以下4件の添付書類であるとしている。
- 懲戒手続に付する必要があると認める職員(「被申立者」)の聴取書又は始末書。ただし、被申立者から聴取書又は始末書の提出を得ることができないときは、所属長の作成に係る事実調書とする。
- 関係者の聴取書または陳述書
- 身上調書
- 前各号に掲げるもののほか、必要な証拠書類
その上で、当該文書に含まれる可能性のある情報は、条例第7条第2号、同条第4号、同条第6号に該当する非開示情報であり、その存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなる性質のものであると主張している。
これに対し、審査請求人は、本条の規定は情報公開制度そのものを覆してしまう規定であり、個人情報、捜査手法や進捗状況の漏洩防止には、該当部分を黒塗りにするなどの方策があり、本条の適用を正当化するものではないと主張している。
審査請求人は、本件対象公文書中に条例第7条第2号、同条第4号、同条第6号に該当する非開示情報が含まれる可能性については理解しており、非開示該当部分までの開示を求めていないことから、当審査会は本条の該当性のみについて判断する。
ア 当該請求が特定の犯罪捜査への申出に対して三重県警察本部監察課が行った調査に関する記録の開示を求めたものであり、当該記録に関係者の個人情報が含まれているとすれば条例第7条第2号に該当する可能性は否定できない。しかし、犯歴等その存否を答えるだけでその人の犯歴の有無が判明してしまうような場合には存否応答拒否の妥当性は認められるが、本事案ではその文書の存否を答えるだけで、誰かの個人情報を害するとは考えられない。従って、その存否を公にすることにより通報事実や捜査事実における関係者が特定されるなど非開示情報を開示することとなる危険性が認められるとする実施機関の主張は採用できない。
イ 条例第7条第4号は、犯罪の予防・鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行、その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めるに足りる相当の理由がある情報を非開示としたものである。
実施機関によると、監察課の保有する情報には、当該職員の信用失墜行為等の場合には、捜査が入らないため、捜査情報は含まれず、捜査情報が含まれる可能性がある場合としては、当該職員自身が犯罪を行ったため捜査の対象になっている場合、その捜査に係る情報と、当該職員の捜査に非違行為があった場合、その捜査に係る情報である。
対象公文書に非開示とすべき捜査情報や公共安全情報が含まれるならば、不存在、あるいは非開示とすればよい。例えば、犯罪の内偵捜査に関する情報とか非常に機密性の高い捜査をしているとかの特別な事情が主張されれば条例第11条該当の可能性もあるが、具体的な支障が立証し尽くされておらず、類型的に捜査情報だからというだけで存否応答拒否を認めるのは乱用にあたる可能性があり、実施機関の判断は採用できない。
ウ 県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関る情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすものがある。これらについては非公開とせざるを得ないので、この旨を条例第7条第6号に規定しているが、支障については実質的なものが必要であり、おそれについては法的保護に値する程度の蓋然性が要求されると考える。イと同様に、条例第11条の該当性は認められない。
エ 実施機関が条例第7条第2号に該当するとして非開示とした情報は、警察に特定の犯罪捜査を申し出た個人、犯罪情報の通報の事実、捜査事実、監察課に対する通報事実に至るまでの関係者、及び監察課の調査対象となった警察官の個人に係る情報である。
警察に犯罪捜査を申し出た個人、犯罪情報の通報や捜査情報に含まれる可能性のある様々な関係者等の個人に関わる情報については、既にアで判断したところである。ここでは、警察官の個人に関わる情報に関して検討する。
公務員等の職務に関する情報は、そもそも公務員等の職務の性格上公益性が強いことから条例第7条第2号に規定する「個人に関する情報」には含まれず、当該情報の開示・非開示の判断は同条第4号、第5号及び第6号で判断されることとになるが、給与額等公務員等の個人の私的な情報は「個人に関する情報」に該当すると考えられる。一方監察課は、所属署からの申請に基づいて始めて調査することになり、監察課の業務は、警察職員の服務及び警察運営の監察に関すること、表彰及び警察職員の懲戒に関すること、訟務事務の処理に関することとなっているが、実態からすると服務一般というより懲戒処分であると考えられる。
本請求が事件のみならず日時を特定して請求していることからすると、本請求は、実質的にある特定の日時に捜査にあたった特定の警察官が監察課において懲戒の対象になったか否かの事実を請求したことになる。
日時を特定した請求は、当該対象の警察官を特定できるということを前提に請求がなされることになるので、実質上個人を指名してその個人の懲戒の有無について請求することと同じになるため、確かに懲戒という処分は公務員の職務に伴って生ずる問題ではあるが、懲戒の対象になったかどうかということに関しては当該職員の私生活上の権利利益を害するおそれのあるプライバシー性のある情報である。
一定の期間内の懲戒処分に関する開示請求に対しては、既に氏名は非開示としつつも、所属、職階、年齢を公表しているが、特定の公務員の懲戒に関する情報は条例第7条第2号ただし書きイに規定する「法令若しくは他の条例の規定によりまたは慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」とはいえない。
非違行為について監察課が行うのは所属からの申し出を受けての懲戒に関する調査ということであり、審査請求人の請求が懲戒の有無を聴いていることと等しくなることから、日時が特定されていて、特定個人に懲戒処分があったかどうかと実質上等しい請求である。このことから、今回の事案に関しては実施機関がその存否を答えるだけで条例第7条第2号に該当する非開示情報を開示することとなるとして、当該公文書の存否を示さないで非開示としたことは、不当とはいえない。
なお、公文書の存否に関する情報と開示請求に含まれる情報とが結合することにより、非開示又は不存在と回答するだけで、非開示情報の保護利益が害されることがあり、このような情報に対する開示請求があった場合に、開示請求に係る公文書に記録された情報を保護するため、当該公文書の存否を明らかにしないで、開示請求を拒否できる規定を設ける必要性から本条は設けられている。したがって、本条が不当に拡大されて適用されることのないよう配慮が求められるところであり、審査会としては、複数回にわたり請求人と実施機関双方から意見聴取し、審尋した上で慎重に判断したものである。
また附言すれば、存否応答拒否が必要な類型の文書については、請求者が例え窓口を変えて請求したとしても、実際に文書が存在するか否かを問わず、常に存否応答拒否をすべきであることから、実施機関の対応は遺憾である。
(13)結論
よって主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙「審査会の処理経過」のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
17. 3. 4 | ・諮問書の受理 |
17. 3. 8 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
17. 4.22 | ・非開示理由説明書の受理 |
17. 5.10 | ・審査請求人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 6. 3 | ・審査請求人からの意見書の受理 |
17. 6. 8 | ・実施機関に対して意見書(写)の送付及び反論書等の提出依頼 |
17. 7. 8 | ・実施機関からの意見書の受理 |
17. 7.20 | ・審査請求人に対して意見書(写)の送付及び反論書等の提出依頼 |
17. 8.15 | ・審査請求人からの意見書の受理 |
17. 8.30 | ・実施機関に対して意見書(写)の送付及び反論書等の提出依頼 |
18. 3. 9 | ・書面審理 ・審査請求人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第241回審査会)
|
18. 4.17 | ・審議
(第243回審査会)
|
18. 5.15 | ・審議
(第245回審査会)
|
18. 5.17 | ・実施機関に対して再度非開示理由説明書の提出依頼 |
18. 6. 2 | ・非開示理由説明書の受理 |
18. 6. 5 | ・審査請求人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 6.16 | ・審査請求人からの意見書の受理 |
18. 6.19 | ・書面審理 ・審査請求人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第248回審査会)
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18. 7.31 | ・審議 ・答申 (第250回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 (平成18年4月1日任命) |
※委員 | 豊島 明子 | 元三重大学人文学部助教授 (平成18年3月31日辞職) |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 (平成18年5月31日退職) |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学講師 (平成18年6月1日任命) |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。