三重県情報公開審査会 答申第239号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書を部分開示する旨の実施機関の決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立人の趣旨は、開示請求者が平成18年2月10日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「生活部私学振興室から特定の学校法人に対して出された指導内容書及びそれに対して当該学校法人が回答した文書(平成17年10月以降の発行分)」の開示請求(以下「本請求」と言う。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、平成18年3月10日付けで開示請求者に対して行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 対象公文書について
本件対象公文書は、次の2件(以下「本件対象公文書」という。)である。
- 学校法人及び学校の管理運営に関する改善について(平成17年11月28日付け生活第13‐347号)
- 学校法人及び学校の管理運営上改善すべき事項に関する当該学校法人等からの回答(平成17年12月29日付け)」
4 本件異議申立てについて
実施機関は本請求に対し、本件対象公文書中に異議申立人の情報が含まれていることから、条例第17条第2項の規定に基づき、当該学校法人に対して意見照会を行い、本件対象公文書を部分開示する旨の本決定を行った。
なお、実施機関は、本決定において、当該対象公文書(2)の「個人の氏名」については、条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして、また「回答部分」については、条例第7条第6号(事務事業情報)に該当するとして、非開示としている。
実施機関は本決定を行うと同時に、異議申立人に対して条例第17条第3項の規定に基づき、個人情報及び事務事業情報に該当する情報を除き開示する旨の通知をしたところ、当該学校法人から本件異議申立てが提起されたものである。
なお、本請求を行った開示請求者には、平成18年3月27日付けで、本件異議申立てに係る決定がなされるまで開示を停止する旨の通知を行っている。
5 実施機関の開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定が妥当というものである。
これらの公文書には条例第7条第3号に規定する法人情報が記載されているが、そのうち、異議申立人が開示されると支障があると主張する部分に記載された情報は、県が当該学校法人等に対しての立入調査等を通じて実態把握した学校法人等の改善すべき事項についての情報である。
こうした情報は、県民、特に高校への進学を考えている生徒、在校生及びその保護者等にも深く関わるものであることから、同号ただし書きハに規定する「県民等の生活を保護するため、公にすることが必要と認められる情報であって、公益上公にすることが必要であると認められるもの」に該当するため、開示することとした。
6 異議申立て理由
異議申立人の主張は、開示部分中の表現が不明確で、不正行為があったような誤解を招く恐れがある。また、開示部分には個人名が記載されており、それを非開示としても個人を高い確度で類推できる。法人を誹謗中傷することが目的であり、結果的に申立人の今後の学校運営にとって大きな損害となる可能性が大きい。
7 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記載されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
異議申立人は、個人情報、あるいは個人が特定され得る情報が開示されると主張するが、本号本文により事業を営む個人の当該事業に関する情報、本号ただし書きイにより法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報は、非開示とする個人情報にはあたらないと規定している。異議申立人の主張する個人は、当該学校法人の代表者にあたり、開示・非開示の判断は、プライバシー保護の問題ではなく、本条第3号に規定する法人等の事業活動情報と同様の基準で判断されることになる。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務付けられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書の中で、異議申立人が開示されると支障があると主張している部分を開示することにより、具体的に当該法人のどのような利益が損なわれるかは不明確な部分があるが、法人に内部管理運営上の問題点があること、その問題点が指摘され改善命令が出されている事実は、一般的には法人の事業活動を損なう可能性のある情報であり、不利益を被る恐れは高いと思科される。この点は、実施機関も認めるところであり、当審査会としても法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることを否定しえない。
よって、本条本号本文に該当すると判断する。
次に、本号ただし書きに該当するか否かについて検討する。本号ただし書きは法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法もしくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものについて開示を義務づけたものである。学校教育の特殊性から、これらの情報は、県民の生活に深く関係し、教育問題に対する県民の関心が高いことを勘案すると、公益性の高い情報といえる。
一方、異議申立人は、既に十分な社会的制裁を受け、現に改善努力を行っているところであり、開示はその改善努力を妨げる可能性があると主張している。しかし、県民等の不安等を払拭するためには、県民からの指摘を受けて県が立入調査等を行った事実、その調査等を通じて把握した問題が教育運営の根幹にかかわることであることから改善指導をしている事実を明らかにする必要がある。
これらのことから、当該情報を開示することによって当該学校法人をとりまく状況に影響を及ぼす可能性は否定できないものの、私立学校事業には、事業者の運営によって、在校生やその保護者、将来的な入学希望者等県民の生活に重大な影響を及ぼす可能性があることも事実である。当該学校法人の回答部分を全て非開示としていることから、当該学校法人の今後の改善努力を妨げるという異議申立人の主張は認められず、教育分野の特質から非開示により保護すべき利益よりも県民等の生活等の公益を優先すべきと判断する。
したがって、条例第7条第3号(法人情報)ただし書きに該当し、異議申立人が非開示と主張する部分について開示すべきである。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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18. 3.30 | ・諮問書の受理 |
18. 3.31 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
18. 4.12 | ・開示理由説明書の受理 |
18. 4.14 | ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
18. 4.28 | ・異議申立人から意見書の受理 |
18. 5. 2 | ・実施機関に対して意見書(写)の送付 |
18. 5.15 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第245回審査会)
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18. 6.19 | ・審議 ・答申 (第248回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 (平成18年5月31日退職) |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学講師 (平成18年6月1日任命) |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。