三重県情報公開審査会 答申第235号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年4月13日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成16年度分限審査委員会の議事録、平成16年度指導力向上支援審査委員会の議事録、平成16年度分限処分を行ったとき本人に渡した人事異動通知書」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成17年4月19日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「教育委員会職員分限審査委員会議事録(平成16年8月31日、平成16年9月6日分)」及び「三重県指導力向上支援審査委員会議事録(平成17年1月26日、平成17年2月3日、平成17年2月4日分)」(以下「本件対象公文書」という。)である。
なお、実施機関が本決定で部分開示とした「人事異動通知書」については、部分開示を容認するとの異議申立人の主張であるので、本件異議申立ての対象となっている公文書には含めない。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○条例第7条第2号(個人情報)に該当
教員の勤務校名、勤務状況、診断結果、審議内容等は、個人に関する情報であって、開示することによって個人が特定され、その権利利益が害されるおそれがあることから、本号に該当するとして非開示とした。
○条例第7条第5号(審議検討情報)に該当
三重県指導力向上支援審査委員会議事録における発言者名は、開示されることによって今後の同様の審議において意思決定の中立性や率直な意見交換が不当に損なわれるおそれがあることから、本号に該当するとして非開示とした。
5 異議申立て理由
教育委員会職員分限審査委員会議事録として部分開示された文書は同委員会のまとめであって議事録になっておらず、委員の発言はまったく開示されていないから、審査対象者から曲解を受けたり不当な恨みを買うおそれはない。同議事録中の「現状はどんな勤務か」部分は、公の勤務実態であって分限処分の理由とする重大な事実であり、客観的なものであるので、もし、個人が特定されるおそれがあるなら具体的に説明しなければならない。「親族はどんな状況か」部分は、他人からのうわさ・聞き伝えであり、「辞職願いを出す様子はないか」部分は、周囲の職員等の観察内容であって客観的なものであり、開示しても問題ない。
三重県指導力向上支援審査委員会は、法令に基づいて設置されていないので、法令に定める事項について審査する根拠がない。また、同委員会は5~6時間開催されながら議事録の内容が少なすぎる。
また、いずれの議事録も、説明責任の観点から開示すべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報のうち異議申立ての対象となっているのは、本件対象公文書の教育委員会職員分限審査委員会議事録のうち、「現状はどんな勤務か。」、「親族はどんな状況か。」、「辞職願いを出す様子はないか。」、三重県指導力向上支援審査委員会議事録のうち、「審議内容」(以下「個人情報該当部分」という。)である。
個人情報該当部分には、「個人の心身の状況、健康状態、病歴、辞職に対する意向、財産状況、自宅の住所等」の情報、「学校での勤務状況、学校の指導体制、研修状況等」の情報が記載されている。
まず、個人の心身の状況、健康状態、病歴、辞職に対する意向、財産状況、自宅の住所等の情報は、公務員個人の私的な情報であり、個人に関する情報であって、特定の個人を識別できる情報であり、本号本文に該当することは明らかである。
また、本号ただし書により非開示情報から除くとされている「法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」あるいは「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」のいずれの情報にも該当するとは認められない。
次に、学校での勤務状況、学校の指導体制、研修状況等の情報について判断する。
条例第7条第2号(個人情報)は、公務員等の職務に関する情報は、公務員等の職務の性格上公益性が強いことから、個人に関する情報には含まれないとしているが、公務員等の職務に関する情報であっても、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある場合は、条例第7条第2号(個人情報)に該当するとしている。
確かに、学校での勤務状況、学校の指導体制、研修状況等の情報は、公の勤務実態であるとの異議申立人の主張も理解できなくはない。
しかしながら、これらの情報には、地方公務員法第28条第1項各号に該当する勤務実績が良くない等の教育公務員を降任あるいは免職することについての審査を行う教育委員会職員分限審査委員会及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律第47条の2第1項各号に該当する児童又は生徒に対する指導が不適切である等の教育公務員であるかどうかの判断等の審査を行う三重県指導力向上支援審査委員会の審査対象となった者の勤務校名、勤務状況、認定の妥当性等の個別具体的な事実、議論された内容が記載されている。
よって、これらの情報を開示すると、他の情報と組み合わせることにより、審査対象者が識別される可能性がないとは言い切れず、開示することにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある。
また、本号ただし書のいずれの情報にも該当するとは認められない。
したがって、個人情報該当部分は、本号本文に該当し、ただし書にも該当しないことから、非開示が妥当である。
(4) 条例第7条第5号(審議検討情報)の意義について
本号は、行政における内部的な審議、検討又は協議の際の自由な意見交換や公正な意思形成が妨げられ、歪められたり、特定の者に利益や不利益をもたらすことなく、適正な意思形成が確保される必要から定められたものである。
(5) 条例第7条第5号(審議検討情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、三重県指導力向上支援審査委員会議事録のうち、「発言者名」であって、実施機関は、当該情報を開示すると、今後の同様の審議において意思決定の中立性や率直な意見交換が不当に損なわれるおそれがあると主張している。
確かに、審査対象者に係る審査がすでに終了していたとしても、今後も同様の審査が行われるわけであり、三重県指導力向上支援審査委員会終了後に議事録がすべて開示されることになると、誰がどのような発言をしたのかということが分かり、外部等から批判されるのではないか等を考慮し、委員の率直な意見交換がためらわれ、三重県指導力向上支援審査委員会を設けた本来の意義が損なわれるおそれがあると考えられる。
しかしながら、委員による率直な意見交換は保護すべきであると考えるが、既に三重県指導力向上支援審査委員会議事録の出席者欄の委員名は開示されているとともに、(3)で述べたように同議事録のうち審議内容を非開示としていることから、同議事録のうち発言者名を開示したとしても、各議題において誰が発言しているのかが特定されるだけであって、誰がどのような内容の発言をしたのかは分からず、委員による率直な意見交換、意思決定の中立性が不当に損なわれるとは認められない。
したがって、三重県指導力向上支援審査委員会議事録のうち発言者名については、本号に該当するとは認められないことから開示すべきである。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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17. 6.29 | ・諮問書の受理 |
17. 7. 5 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
17. 7.25 | ・非開示理由説明書の受理 |
17. 8. 3 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 8.16 | ・異議申立人からの意見書の受理 |
17. 8.19 | ・実施機関に対して意見書の送付 |
18. 3.14 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第242回審査会)
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18. 4.21 |
・審議 ・答申 (第244回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 (平成18年3月31日辞職) |
委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部助教授 (平成18年4月1日任命) |
委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。