三重県情報公開審査会 答申第229号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった部分開示決定を取り消し、開示すべきである。また、「開示しない部分」への記載が漏れた情報について、開示請求人に通知すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年12月10日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特殊学級に在籍する児童生徒の人権に配意した教育実践記録及び三重県教育委員会(各市町村教育委員会、校長)が作成した、教職員に対する障害のある児童生徒の人権に配意する必要性に言及した文書」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成16年12月16日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「平成14年度人権教育実践推進事業実績報告書(第9号様式)三重県立養護学校伊賀つばさ学園」(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○条例第7条第2号(個人情報)に該当
本決定において非開示とした箇所は、講師の氏名等であり、これらは個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得ることから本号に該当するとして非開示とした。
5 異議申立て理由
実施機関が非開示にした講師の氏名は、条例第7条第2号ただし書イの慣行として公にされている情報又は公にすることが予定されている情報に該当することから開示すべきである。講師は、所属団体の活動の広報の役割を担っている人であって、人権問題に関心のある人が自由に聴くことができる講演会の講師になる人は、その分野では有名人である。講師が人権について活動していることについて、講師自身が自己の活動を他人に知られたくないと思うはずはなく、非開示にしなければならない情報であるとは考えられない。また、講演会の講師であっても、氏名を開示しているものもあり、同じ講師であれば同じ判断をすべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書における講師の氏名等について、実施機関は、講師が公務員であるものについては、公務員等の職務に関する情報として開示としたが、それ以外の講師の氏名等については、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得ることから、本号に該当し、非開示が妥当であると主張している。また、当該講演会は、基本的に三重県立養護学校伊賀つばさ学園の教職員を対象に実施し、校外への案内についても当該養護学校に在籍する児童生徒に関連する小中学校等の教職員を対象として当該養護学校から直接案内を出しており、広報等によって広く地域住民に周知されたものではないので、本号ただし書イには該当しないと主張している。
確かに、実施機関が非開示とした講師の氏名等は、個人に関する情報であり、特定の個人が識別され得る情報として本号本文に該当することは明らかである。
本号本文が保護されるべき個人情報として、「個人に関する情報であって特定の個人が識別され得る」情報であると定義しているのは、個人のプライバシーの概念が法的に未成熟であるので、特定の個人が識別できる情報か否かをもって判断し、当該特定個人の人権を保護する必要があると考えたところにある。しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示とすると、プライバシー保護という本来の趣旨を超えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがあることから、本号ただし書が定められている。
そこで、本号ただし書に該当するか否かについて検討する。
実施機関が非開示とした各講師は、それぞれの団体を代表して講師として来られ、講演会の講師というと、一般的に広く公にされることを前提としていると考えられる。また、本件講演会には、三重県立養護学校伊賀つばさ学園のみならず、児童生徒の居住地の小中学校、早期療育機関、保育所等の教職員も対象としていたものもあり、割合広範に呼びかけを行っていた講演会もあることから、実施機関が非開示とした講師の氏名等は、プライバシー性は極めて低いものであり、特に秘匿すべき情報とは認められない。
よって、講師の氏名等については、本号ただし書イの情報すなわち「法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当することから、開示すべきである。
ただし、実施機関が非開示とした情報のうち、講師の役職名が、本決定の通知書の「開示しない部分」欄の記載から漏れている。実施機関は、この情報を非開示としたことを開示請求人に通知すべきである。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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17. 1.17 | ・諮問書の受理 |
17. 1.19 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
17. 1.27 | ・非開示理由説明書の受理 |
17. 2. 2 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 2. 9 | ・異議申立人からの意見書の受理 |
17. 2.14 | ・実施機関に対して意見書の送付 |
17.12.16 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第236回審査会)
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18. 1.31 | ・審議 ・答申 (第238回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。