三重県情報公開審査会 答申第226号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年10月18日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「あすなろ学園(以下「学園」という。)倫理委員会議事録及びそこで配布された資料」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年11月1日付けで行った開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
「『小児期に始まる発達障害の関連遺伝子ならびに相互作用する環境因子に関する研究分』(以下「関連遺伝子等研究」という。)の学園関係部分」を対象公文書として特定した。
4 実施機関の開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○本決定を行った理由
(1)学園では医学研究のための倫理委員会そのものを設置していない。したがって、開示請求者が請求した内容の公文書は存在せず、開示請求に係る公文書を保有していない旨の決定を行うこととしていた。
(2)公文書不存在通知を行う前に、開示請求者に対して、開示請求者が請求した内容の公文書は存在しないことを通知した。
(3)これに対して、開示請求者からは、研究協力者に対してどのような文書を渡し、研究目的等について如何なる説明を行い、どのような手続きで承諾を得たのか、について確認できる文書の開示を請求する趣旨であるとの回答があった。
(4)開示請求者の意向を尊重し、学園が研究に関わった事項に関する公文書の本決定を行った。すなわち、関連遺伝子等研究の学園関係部分を開示すべき公文書として特定し、具体的には、「保護者の皆様へ」、「東京大学精神医学教室における広汎性発達障害研究のご説明とご協力のお願い」、「東京大学大学院医学研究科・医学部倫理委員会委員長あて委任状」、「東京大学ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会委員長あて委任状」(以上、4つの文書をまとめて以下「学園特定文書」という。)を特定した。
○対象公文書の特定について
(1)倫理委員会を学園内に設けていないことについて
①ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成13年3月文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号)において、「試料等の提供が行われる機関が小規模であること等により、倫理審査委員会の設置が困難である場合には、共同研究機関、公益法人又は学会によって設置された倫理審査委員会をもってこれに代えることができる。」とされている。
②臨床研究に関する倫理指針(平成15年厚生労働省告示255号)において、「臨床研究機関が小規模であること等により当該臨床研究機関内に倫理審査委員会の設置ができない場合には、共同臨床研究機関、公益法人又は学会等によって設置された倫理審査委員会に審査を依頼することをもってこれに代えることができる。」とされている。
③学園の許可病床数は104床であり、また正規職員94名(うち医師6名)で構成されているに過ぎない病院であることから、小規模な病院であるといえる。したがって、東京大学大学院医学研究科・医学部倫理委員会や同大学ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会といった共同研究機関が設置する倫理審査委員会に審査を依頼することは、指針に反するものではない。また、実質的に見ても、遺伝子研究といった極めて高度で先進的な研究についての倫理的な観点からの審査に関しては、高度の専門性を有する同大学において設置されている倫理委員会に一任することにより、適切な審査・判断がなされるといえる。
(2)研究における学園の役割について
①学園としては、日本自閉症協会三重県支部事務局に研究目的説明を行い、協力を依頼した。また、東京大学に対しては、学園の会議室等を会場として使用する承諾をしている。
②研究協力者への研究目的説明、文書通知、承認手続きの一切は、同大学医学部精神医学教室の担当者が学園へ出張し行った。学園は、同大学が研究協力者を集めるに当たって協力を行ったのみであり、研究そのものの内容に関与するものではない。
5 異議申立ての理由
開示決定処分に誤りがある。開示請求者の意見、意向、開示請求の趣旨を確認することなく、処分をしている。研究に参加するには、倫理委員会の承認を必要とする。なぜならば、研究に協力する当事者の権利利益を侵害するおそれがあるからである。当事者の権利利益の侵害が起きないような研究体制を確立して、研究に参加しなければならない。開示請求者が知りたいのは、当事者の権利利益の侵害が起きない体制になっていることを記載した文書である。研究参加の手続きが適切に行われたかどうかを確認したい。通常、それは倫理委員会議事録及びそこで配布された資料により確認することが出来る。研究の共同研究機関として位置付けられている学園は、共同研究機関であれば当然入手しているだろうと思われる文書を開示して、共同研究機関としての責任を果たすべきである。適切な開示決定であると主張するのであれば、共同研究機関という位置付けを否定するか、又はそのように記載した文書の正当性を否定すべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 本決定の妥当性について
異議申立人は、「開示決定処分に誤りがある。開示請求者の意見、意向、開示請求の趣旨を確認することなく、処分をしている。開示請求者が知りたいのは、当事者の権利利益の侵害が起きない体制になっていることを記載した文書である。研究参加の手続きが適切に行われたかどうかを確認したいのであり、学園は、共同研究機関であれば当然入手しているだろうと思われる文書を開示して、共同研究機関としての責任を果たすべきである。」と主張している。
他方、実施機関は、「公文書不存在通知を行う前に、開示請求者に対して、開示請求者が請求した内容の公文書は存在しないことを通知したところ、開示請求者からは、『研究協力者に対してどのような文書を渡し、研究目的等について如何なる説明を行い、どのような手続きで承諾を得たのか、について確認できる文書の開示を請求する趣旨である。』との回答があった。そこで、開示請求者の意向を尊重し、関連遺伝子等研究の学園関係部分を開示すべき公文書とし、具体的に学園特定文書を特定した。」と主張している。異議申立人も研究参加の手続きが適切に行われたかどうか確認したい等と主張しており、実施機関は、開示請求者の意向を確認したと認められる。
また、実施機関は、「研究における学園の役割については、東京大学に対して学園の会議室等を会場として使用する承諾の他、同大学が研究協力者を集めるに当たって協力を行ったのみであり、研究そのものの内容に関与するものではない。また、学園は小規模な病院であり、医学研究のための倫理委員会そのものを設置しておらず、同大学の倫理委員会や倫理審査委員会といった共同研究機関が設置する倫理審査委員会に審査を依頼しているため、その倫理審査委員会の議事録及び審査結果の報告等を受けていないし、実際にも入手していない。」と説明するが、この説明に不自然な点は認められない。
よって、実施機関が開示請求者の意向を聞き、保有する公文書のうち、関連遺伝子等研究の学園関係部分を開示すべき公文書として特定したことは、不当とすることはできない。
(3) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
学園は関連遺伝子等研究など、極めて高度な医学研究そのものには実際にも関与していないとはいえ、何らかの形態により主たる研究機関に対して協力等を行う場合には、研究内容や協力の手続き等について十分説明できるようにしておくことが望まれる。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
16.11.30 | ・諮問書の受理 |
16.12. 2 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
16.12.16 | ・開示理由説明書の受理 |
16.12.27 | ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 2. 7 | ・異議申立人から意見書の受理 |
17. 2. 9 | ・実施機関に対して意見書(写)の送付 |
17.10.18 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 (第232回審査会)
|
17.10.21 | ・異議申立人からの追加意見書の受理 |
17.11.15 | ・審議
(第234回審査会)
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18. 1.17 | ・審議 ・答申 (第237回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠 宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。