三重県情報公開審査会 答申第221号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の存否を明らかにしない決定のうち、一部を取り消し、改めて開示・非開示等の決定を行うべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年8月27日、平成16年8月31日、平成16年9月5日、平成16年9月11日及び平成16年9月12日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成13年6月25日に三重県教育委員会職員2名が元三重県立学校校長、教頭と共に特定の法律事務所にて特定の弁護士に会い、平成12年11月27日の三重県立学校校長、教頭らの強盗事件について交渉したことに係るすべての資料」、「平成12年11月27日の三重県立学校校長らによる強盗事件について、同校校長からの報告のすべて」、「平成12年11月27日の三重県立学校校長らによる強盗事件について、教育委員会が校長と教頭らから聞き取った、事件についての報告および事情説明のすべて」、「平成13年3月4日および5日に三重県立学校教頭が、特定の教諭が入院中の特定の病院に現れ、『教頭が病院から当該特定の教諭の診断書を取り寄せることを承諾せよ』と迫ったことについての教頭の出張伺い、報告書などすべての資料」、「平成12年11月27日の三重県立学校での事件について、特定の人物から三重県教育委員会に出された手紙に関するすべての書類、および三重県教育委員会からの当該特定の人物宛の文書」、「平成12年11月27日に発生した三重県立学校校長と教頭による強盗事件について、三重県教育委員会は『事件はなかった』と判断しているが、そう判断するに至った過程、判断根拠などに係るすべての資料」、「三重県立学校における平成12年11月27日の、特定の教諭に対する強盗事件について、県民等から県立学校及び県教育委員会に対する問い合わせ等についての返事等すべての書類」、「平成12年11月27日の三重県立学校校長と教頭が三重県立学校の特定の教員に対して暴力を振るった件について、県教育委員会等が当該特定の教員に対して行った聞き取りについてのすべての資料(当該特定の教員への聞き取りの呼び出し等を含む)」及び「平成13、14年度に三重県立学校の特定の教諭に与えられた職務についての一切の資料」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成16年9月9日及び平成16年9月16日付けで行った公文書の存否を明らかにしない決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第11条(公文書の存否に関する情報)に該当
公文書の存否を答えるだけで、特定の個人についての個々の事実の有無を開示することとなり、特定の個人の個人情報の保護利益を害するおそれがあるため、公文書の存否を明らかにしないとすることが妥当と判断した。
4 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から、実施機関の決定は条例の解釈運用を誤っているというものである。
個人のプライバシーには一切関係がなく、個人のプライバシーを侵害するおそれがあるとは言えない。また、これらは公務員の公務中の行為であり、県民に対し説明義務がある。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第11条(公文書の存否に関する情報)の意義について
開示請求に対する決定は、本来、請求文書を特定した上で、①不存在を理由とする非開示、②非開示情報該当性の判断に基づく開示・部分開示・非開示、③非開示情報について公益上の理由による裁量的開示、であることが原則である。しかし、例外的に開示請求に係る公文書の存否自体を明らかにすることによって、非開示情報の規定により保護しようとしている利益が損なわれる場合がある。本条は、この決定の枠組みの例外を定めたものである。
(3) 条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性について
実施機関が本条に該当するとして非開示とした情報は、次の(ア)から(ケ)に掲げるとおりである。
(ア)「平成13年6月25日に三重県教育委員会職員2名が元三重県立学校校長、教頭と共に特定の法律事務所にて特定の弁護士に会い、平成12年11月27日の三重県立学校校長、教頭らの強盗事件について交渉したことに係るすべての資料」
(イ)「平成12年11月27日の三重県立学校校長らによる強盗事件について、同校校長からの報告のすべて」
(ウ)「平成12年11月27日の三重県立学校校長らによる強盗事件について、教育委員会が校長と教頭らから聞き取った、事件についての報告および事情説明のすべて」
(エ)「平成13年3月4日および5日に三重県立学校教頭が、特定の教諭が入院中の特定の病院に現れ、『教頭が病院から当該特定の教諭の診断書を取り寄せることを承諾せよ』と迫ったことについての教頭の出張伺い、報告書などすべての資料」
(オ)「平成12年11月27日の三重県立学校での事件について、特定の人物から三重県教育委員会に出された手紙に関するすべての書類、および三重県教育委員会からの当該特定の人物宛の文書」
(カ)「平成12年11月27日に発生した三重県立学校校長と教頭による強盗事件について、三重県教育委員会は『事件はなかった』と判断しているが、そう判断するに至った過程、判断根拠などに係るすべての資料」
(キ)「三重県立学校における平成12年11月27日の特定の教諭に対する強盗事件について、県民等から県立学校及び県教育委員会に対する問い合わせ等についての返事等すべての書類」
(ク)「平成12年11月27日の三重県立学校校長と教頭が三重県立学校の特定の教員に対して暴力を振るった件について、県教育委員会等が当該特定の教員に対して行った聞き取りについてのすべての資料(当該特定の教員への聞き取りの呼び出し等を含む)」
(ケ)「平成13、14年度に三重県立学校の特定の教諭に与えられた職務についての一切の資料」
本決定に対し、異議申立人は、個人のプライバシーを侵害するおそれがあるとは言えず、公務員の公務中の行為であり、県民に対し説明義務があると主張しており、(ア)から(ケ)について、以下のとおり検討する。
(ア)に掲げる情報について、実施機関は、存否を回答するだけで、特定の個人が平成12年11月27日に管理職による強盗事件があったとして三重県教育委員会と争っており、そのことについて特定の弁護士への委任に関する情報を提供することとなり、特定の個人の個人情報を侵害するおそれがあるため、その情報の存否自体が条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして、当該公文書の存否を明らかにできないと主張している。
しかしながら、(ア)に掲げる情報は、公務員の勤務時間中の行為に関しての三重県教育委員会の職員と弁護士との交渉に関するものであって、三重県教育委員会の職員の行為は公務員の職務に関する情報であり、弁護士の氏名及び事務所の名称についても、当該事件について代理人として交渉に関わっていることが、事業を営む個人のその事業活動の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは言えない。また、実施機関が個人に関する情報により保護しようとしている特定の個人についても、その氏名が(ア)に掲げる情報に記載されていないことから、(ア)に掲げる情報からは、誰が平成12年11月27日に管理職による強盗事件があったとして三重県教育委員会と争っており、そのことについて特定の弁護士に委任をしているのかは推定されず、公文書の存否を明らかにすることで、特定の個人が識別され、その特定の個人の私生活上の権利利益を侵害するとは考えられない。
したがって、(ア)に掲げる情報について、存否を回答することにより、条例第7条第2号の規定による非開示情報(個人情報)の保護利益が害されるとは認められないのであり、実施機関は、本決定を取り消し、改めて開示・非開示等の決定を行うべきである。
(イ)、(ウ)、(カ)に掲げる情報について、実施機関は、存否を回答するだけで、特定の個人が平成12年11月27日に管理職による強盗事件があったという主張をしていることを推定する情報を提供することとなり、特定の個人の個人情報を侵害するおそれがあるため、その情報の存否自体が条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして、当該公文書の存否を明らかにできないと主張している。
しかしながら、(イ)、(ウ)、(カ)に掲げる情報は、公務員の勤務時間中の行為に関しての三重県立学校の管理職からの報告や事情説明及び三重県教育委員会の判断に係るものであって、これらは公務員の職務に関する情報であると言える。また、実施機関が個人情報で保護しようとしている特定の個人について、その氏名が(イ)、(ウ)、(カ)に掲げる情報に記載されていないことから、(イ)、(ウ)、(カ)に掲げる情報からは、誰が平成12年11月27日に管理職による強盗事件があったという主張をしているのかは推定されず、公文書の存否を明らかにすることで、特定の個人が識別され、その特定の個人の私生活上の権利利益を侵害するとは考えられない。
したがって、(イ)、(ウ)、(カ)に掲げる情報について、存否を回答することにより、条例第7条第2号の規定による非開示情報(個人情報)の保護利益が害されるとは認められないのであり、実施機関は、本決定を取り消し、改めて開示・非開示等の決定を行うべきである。
(エ)に掲げる情報について、実施機関は、存否を回答するだけで、特定の個人の入院に関する情報を提供することとなり、特定の個人の個人情報を侵害するおそれがあるため、その情報の存否自体が条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして、当該公文書の存否を明らかにできないと主張している。
確かに、異議申立人が主張するように、(エ)に掲げる情報の特定の個人は公務員であって、公務員の職務に関する情報が記載されているならば、条例第7条第2号本文に規定する個人に関する情報には含まれないが、当該公務員が特定の病院に入院していたという事実の有無は、公務員の職務に関する情報ではなく、公務員個人の私的な情報であると認められ、個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得る情報であり、条例第7条第2号本文に該当することは明らかである。
また、条例第7条第2号ただし書により非開示情報から除くとされている「法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」(同号ただし書イ)又は「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」(同号ただし書ロ)のいずれの情報にも該当するとは認められない。
したがって、(エ)に掲げる情報については、個人を特定した上で、当該個人の入院に関することについて、公文書の開示を求めているものであり、公文書の存否を明らかにすることが非開示情報を開示することとなることが認められ、実施機関の本条による存否応答拒否は妥当である。
(オ)に掲げる情報について、実施機関は、存否を回答するだけで、特定の個人が三重県立学校での事件に関して私信を三重県教育委員会に発信していることが明らかになり、特定の個人の個人情報を侵害するおそれがあるため、その情報の存否自体が条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして、当該公文書の存否を明らかにできないと主張している。
確かに、特定の個人が三重県教育委員会に対して手紙を出したという事実の有無は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得る情報であり、条例第7条第2号本文に該当することは明らかである。
また、条例第7条第2号ただし書により非開示情報から除くとされている同号ただし書イ又はロのいずれの情報にも該当するとは認められない。
したがって、(オ)に掲げる情報については、個人を特定した上で、当該個人が三重県教育委員会に出した手紙に関する文書について、公文書の開示を求めているのであり、公文書の存否を明らかにすることが非開示情報を開示することとなることが認められ、実施機関の本条による存否応答拒否は妥当である。
(キ)、(ク)に掲げる情報について、実施機関は、存否を回答するだけで、特定の個人が平成12年11月27日に管理職による強盗事件があったとして学校や教育委員会と争っていることを推定する情報や聞き取りが行われる予定であったことを推定する情報を提供することとなり、特定の個人の個人情報を侵害するおそれがあるため、その情報の存否自体が条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして、当該公文書の存否を明らかにできないと主張している。
しかし、当該特定の個人は、平成12年11月27日に発生した事件について、県等に対し、損害賠償を求め訴訟を提起しているのであって、その訴訟記録は、民事訴訟法により何人も閲覧を求めることができるのである。また、訴訟記録は、何人も閲覧を請求することができることから、一般に条例第7条第2号ただし書イの情報に該当し、非開示情報から除かれると考える。
これらのことから、実施機関が特定の個人が管理職による強盗事件があったとして三重県教育委員会や三重県立学校と争っていることを推定する情報を提供することになる等として、公文書の存否を明らかにしなかったのは妥当であるとは認められない。
したがって、(キ)、(ク)に掲げる情報について、存否を回答することにより、条例第7条第2号の規定による非開示情報(個人情報)の保護利益が害されるとは認められないのであり、実施機関は、本決定を取り消し、改めて開示・非開示等の決定を行うべきである。
(ケ)に掲げる情報について、実施機関は、存否を回答するだけで、特定の個人の個人情報を侵害するおそれがあるため、その情報の存否自体が条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして、当該公文書の存否を明らかにできないと主張している。
しかしながら、異議申立人が主張するように、(ケ)に掲げる情報は、三重県立学校の特定の教諭に与えられた職務に関する情報であって、公務員の職務に関する情報そのものであり、公文書の存否を明らかにすることで、当該公務員個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとは認められない。
したがって、(ケ)に掲げる情報について、存否を回答することにより、条例第7条第2号の規定による非開示情報(個人情報)の保護利益が害されるとは認められないのであり、実施機関は、本決定を取り消し、改めて開示・非開示等の決定を行うべきである。
ところで、本来、条例第11条により、存否応答を拒否できる場合は、例えば特定個人の病歴情報や犯罪の内偵捜査情報のように、開示を求める文書の性質上、その文書の存否を回答するだけで、非開示情報の保護利益が害される場合である。
しかし、本件の場合は、開示を求める文書そのものの性質ではなく、当該文書を特定するための表現が不適切なため、存否を明らかにすると、特定のための表現により非開示情報の保護利益が害されるおそれがあるというのである。
したがって、本来は文書の特定の段階で、十分その旨の説明をすれば解決する問題であるが、同表現のまま開示請求がなされた以上、これに対し当否を判断せざるを得ない。
その結果、上記のとおり(エ)、(オ)については、存否応答拒否は妥当と判断せざるを得なかったが、いずれも対象文書の特定のための表現を工夫することにより、少なくとも存否応答拒否の判断は避けられた可能性があることを指摘しておきたい。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
16.10. 4 | ・諮問書の受理 |
16.10. 7 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
17. 2.25 | ・非開示理由説明書の受理 |
17. 3. 1 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 7. 1 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第225回審査会)
|
17. 8. 3 | ・実施機関の追加説明 ・審議 (第227回審査会)
|
17. 9. 9 | ・審議
(第229回審査会)
|
17.10.14 | ・審議
(第231回審査会)
|
17.11.11 | ・審議 ・答申 (第233回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。(豊島委員は、平成17年9月まで当部会の構成員であった。早川委員は、平成17年10月から当部会の構成員となった。)