三重県情報公開審査会 答申第220号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年9月14日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「情報公開室保有文書のうち、津地方裁判所平成8年(行ウ)第14号、名古屋高等裁判所平成11年(行コ)第9号、最高裁判所平成12年(行ヒ)第40号に関するすべての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年10月4日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「(1)「副知事、部長と弁護士との面接時の資料について(平成8年12月12日起案)」(2)「復命書(平成9年1月9日)」(3)「復命書(平成10年2月26日)」」(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第2号(個人情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
○条例第7条第2号(個人情報)に該当
「訴訟代理人に選任した弁護士の生年、出身都道府県名、国家公務員試験の種類、学歴」(以下「弁護士の生年等情報」という。)、所属弁護士事務所の担当従業員の姓、「裁判を傍聴していた団体の会員の氏名、裁判を傍聴していた団体の会員の姓」(以下「傍聴人の氏名」という。)は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得るものであり、条例第7条第2号により非開示情報に該当する。
また、開示しない部分は、条例第7条第2号ただし書イ、ロに掲げる情報にも当たらない。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤っているというものである。
非開示の理由として、単に「条例第7条第2号に該当するため。」としているが、本請求文書について、どのようにこの条項が該当するかの説明がまったくなされていない。
裁判の傍聴人、弁護士事務所の担当従業員、選任弁護士に関する情報、これら個々について開示しない理由を示していない。
また、弁護士は現在職業独占が認められており、保護されるべき個人情報もその他の個人情報とは異なり、出身地、生年月日、学歴、自宅住所などは公にされることが多い。このような事情から、開示すべき情報である弁護士について情報開示をしないのは違法である。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
なお、本件事案について、異議申立人は所属弁護士事務所の担当従業員の姓を除き、実施機関が行った本決定の取り消しを求めるとともに、公文書部分開示決定通知書において、開示しない理由として条文を示しているのみである点についても異議があると認められる。
よって、当審査会は、この点について情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示としたのは、弁護士の生年等情報、傍聴人の氏名である。
実施機関は、これらの非開示とした情報は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得るものであり、条例第7条第2号により非開示情報に該当し、また、本号ただし書イ、ロに掲げる情報にも当たらないと主張している。
他方、異議申立人は、弁護士は現在職業独占が認められており、保護されるべき個人情報もその他の個人情報とは異なり、出身地、生年月日、学歴、自宅住所などは公にされることが多いと主張している。
しかし、非開示とされた弁護士の生年等情報は、弁護士の生年、出身都道府県名等であり、個人に関する情報であることは明らかで、これら情報は、他の情報と組み合わせることにより特定の個人が識別され得る情報と認められるから、本号本文に該当すると考えられる。また、弁護士が自己の個人に関する情報を出版物等に載せることについては、当該弁護士の意思によるのであるから、弁護士の生年等情報は、法令等の規定により又は慣行として公にされている情報とは認められない。また、人の生命、身体、健康等を保護するため、公にすることが必要であるとも認められないから、弁護士の生年等情報は、本号ただし書に該当せず非開示が妥当である。
傍聴人の氏名についても、個人に関する情報であって、特定の個人を識別できる情報であり、本号本文に該当することは明らかであり、本号ただし書にも該当するとは認められないので非開示が妥当である。
(4) 本決定の理由付記について
条例第15条には、「実施機関は、第12条各項の規定により開示請求に係る公文書の全部又は一部を開示しないときは、開示請求者に対し、同条各項に規定する書面によりその理由を示さなければならない。この場合においては、開示しないこととする根拠規定を明らかにするとともに、当該規定を適用する根拠が当該書面の記載自体から理解され得るものでなければならない。」との規定があり、全然理由を付さなかったり、理由らしき理由を付さなかったときは、決定に形式上の瑕疵があるとされる。異議申立人は、異議申立ての理由として、実施機関は単に「条例第7条第2号に該当するため。」としているが、本請求文書について、どのようにこの条項が該当するかの説明がまったくなされておらず、個々の場合についての非開示とした理由が明記されていないと主張している。
他方、実施機関は、条例第7条第2号では、個人に関する情報であって、特定の個人が識別し得るものについては非開示情報として開示しないことができるのであり、どの情報が特定の個人を識別し得る情報かということさえ明示すれば、非開示の理由を了知し得ることから、それ以上の詳細な説明は必要ないと主張している。
ところで、条例第7条第2号は、非開示情報について、いわゆる個人識別情報型を採用しており、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示とすることができるのであって、理由の詳細な記載は省略することができると考えられる。
そして、本決定の通知書においては、その別紙に「実施機関が特定した公文書の件名」欄と「開示しない部分」欄からなる一覧表が作成されており、実施機関が特定した各公文書とこれら各公文書のうち実施機関が非開示とした情報が判るようになっている。
したがって、実施機関は、どの情報が特定の個人を識別し得る情報かということを明示しているのであって、本決定の理由付記が不当とはいえない。
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16.10.20 | ・諮問書の受理 |
16.10.22 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16.11.19 | ・非開示理由説明書の受理 |
16.11.26 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 8.26 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第228回審査会)
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17. 9.28 | ・審議 ・答申 (第230回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。