三重県情報公開審査会 答申第219号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。また、「開示しない部分」への記載が漏れた情報については、開示請求人に通知すべきである。しかし、実施機関が行った決定の理由付記が不当とはいえない。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年7月21日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県が起こしたすべての非訟事件及び三重県に対して起こされた訴訟事件及び非訟事件に関するすべての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年8月4日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「(1)「財政課協議事項」(2)「特別車両料金による出張承認について(伺い)」(3)「弁護士報償費に係る支出命令書」」(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第2号(個人情報)、第7条第3号(法人情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書のうち、(1)及び(2)に記載されている原告の氏名及び住所、「依頼弁護士の顔写真・出身地・生年月日・学歴・自宅住所及び電話番号」(以下「依頼弁護士の出身地等情報」という。)は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得るものであり、開示することにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあると認められるため。
また、開示しない部分は、条例第7条第2号ただし書イ、ロに掲げる情報にも当たらない。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
本件対象公文書のうち、(3)に記載されている依頼弁護士の金融機関口座情報(以下「依頼弁護士の口座情報」という。)は、法人の内部に関する情報であり、開示することにより当該法人の正当な利益を害するおそれがあると認められるため。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤っているというものである。
実施機関の挙げている理由として条例第7条第2号、3号を示し、単に条文を並べただけで本請求文書に即し、申請人が了解し得る程度の説明がなされていない。
また、弁護士は現在職業独占が認められており、保護されるべき個人情報もその他の個人情報とは異なり、出身地、生年月日、学歴、自宅住所などは公にされることが多い。このような事情から、開示すべき情報である弁護士について情報開示をしないのは違法であり、また、開示しない理由について、原告に関する情報と依頼弁護士に関する情報を区別しないで非開示決定したことも違法である。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
なお、本件事案について、異議申立人は原告の氏名及び住所を除き、実施機関が行った本決定の取り消しを求めるとともに、公文書部分開示決定通知書において、開示しない理由として条文を示しているのみである点についても異議があると認められる。
よって、当審査会は、この点について情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関は本決定において本号(個人情報)に該当するとして依頼弁護士の出身地等情報を非開示としている。
実施機関は、当該情報は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得るものであり、開示することにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあり、また、開示しない部分は、本号ただし書イ、ロに掲げる情報にも当たらないと主張している。
他方、異議申立人は、弁護士は現在職業独占が認められており、保護されるべき個人情報もその他の個人情報とは異なり、出身地、生年月日、学歴、自宅住所などは公にされることが多いと主張している。
しかし、非開示とされた依頼弁護士の出身地等情報は、出身地、生年月日、学歴等であり、個人に関する情報であることは明らかで、これら情報は、他の情報と組み合わせることにより特定の個人が識別され得る情報と認められるから、本号本文に該当すると考えられる。また、弁護士が自己の個人に関する情報を出版物等に載せることについては、当該弁護士の意思によるのであるから、依頼弁護士の出身地等情報は、法令等の規定により又は慣行として公にされている情報とは認められない。また、人の生命、身体、健康等を保護するため、公にすることが必要であるとも認められないから、依頼弁護士の出身地等情報は、本号ただし書に該当せず非開示が妥当である。
ただし、実施機関が非開示とした情報のうち、依頼弁護士の顔写真及び原告の職業・所属団体での役職名が、本決定の通知書の「開示しない部分」欄の記載から漏れている。実施機関は、これらの情報を非開示としたことを開示請求人に通知すべきである。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(法人情報)に該当するとして非開示としたのは、本件対象公文書のうち、(3)に記載されている依頼弁護士の口座情報である。
異議申立人は、依頼弁護士名は開示されており、口座番号を知り得ることによる実質的な不利益を被るようなことはなく、保護すべき個人情報でもないものを非開示とする必要はないと主張している。
他方、実施機関は、依頼弁護士の口座情報は一般に取引金融機関に関する情報であって、法人の内部管理に関する情報として取引関係のある者以外の第三者に広く知られることを予定していない情報であり、例えば一般の商店が発行するような請求書に記載される金融機関口座情報とは異なり、多数のものに流通することを想定しない情報であることから、正当な利益を害すると説明している。
しかし、本件対象公文書のうち、(3)には、訴訟事件等において弁護士が県側の代理人を務めた際に支払われる報酬金を当該弁護士から県に対して請求している書類が含まれ、そこに記載されている依頼弁護士の口座情報については、弁護士業務を遂行する上で使用されている口座であることが推測される。また、商業取引の場合には取引の相手方に特定の金融機関の口座番号への振込みを依頼することは一般的に行われているのであって、このような依頼弁護士の口座情報を開示することにより直ちに事業を営む個人の正当な利益を害するとはいえない。
よって、本号本文に規定する法人に関する情報に該当するとは認められず、本件対象公文書中の依頼弁護士の口座情報は開示すべきである。
(6) 本決定の理由付記について
条例第15条には、「実施機関は、第12条各項の規定により開示請求に係る公文書の全部又は一部を開示しないときは、開示請求者に対し、同条各項に規定する書面によりその理由を示さなければならない。この場合においては、開示しないこととする根拠規定を明らかにするとともに、当該規定を適用する根拠が当該書面の記載自体から理解され得るものでなければならない。」との規定があり、全然理由を付さなかったり、理由らしき理由を付さなかったときは、決定に形式上の瑕疵があるとされる。
異議申立人は、異議申立ての理由として、実施機関は条例第7条第2号、3号を示し、条文を並べただけで本請求文書に即し、申請人が了解し得る程度の説明がなされておらず、個々の場合についての非開示とした理由を明記しなければならないと主張している。
他方、実施機関は、条例第7条第2号では、個人に関する情報であって、特定の個人が識別し得るものについては非開示情報として開示しないことができるのであり、どの情報が特定の個人を識別し得る情報かということさえ明示すれば、非開示の理由を了知し得ることから、それ以上の詳細な説明は必要ないと主張している。
ところで、条例第7条第2号は、非開示情報について、いわゆる個人識別情報型を採用しており、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示とすることができるのであって、理由の詳細な記載は省略することができると考えられる。
そして、本決定の通知書においては、「開示しない部分」欄の(1)のところに条例第7条第2号に該当する各情報が記載され、これと対応させて、「上記部分を開示しない理由」欄に(1)として条例第7条第2号該当の理由が記述されている。
したがって、実施機関は、どの情報が特定の個人を識別し得る情報かということを明示しているのであって、理由付記が不当とはいえない。
次に、条例第7条第3号の該当性について、実施機関は、依頼弁護士の口座情報は一般に取引金融機関に関する情報であって、法人の内部管理に関する情報として取引関係のある者以外の第三者に広く知られることを予定していない情報であり、正当な利益を害すると説明している。実施機関は、このことを本決定の通知書の「上記部分を開示しない理由」欄の(2)に「法人の内部に関する情報であり、開示することにより当該法人の正当な利益を害するおそれがあると認められるため」と簡潔に記したのであって、理由付記について不当とまでいうことはできない。
(7) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16.10.20 | ・諮問書の受理 |
16.10.22 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16.11.19 | ・非開示理由説明書の受理 |
16.11.26 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 8.26 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第228回審査会)
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17. 9.28 | ・審議 ・答申 (第230回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。