三重県情報公開審査会 答申第218号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年10月15日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の宗教法人に関する宗教法人法規定のすべての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年10月20日付けで行った部分開示決定の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「(1)「起案(規則認証申請の受理について)」(2)「事務所備付け書類の写し(役員名簿・財産目録)」」(以下「本件対象公文書」という。)である。
なお、実施機関は、本件対象公文書の開示を行った際に説明を求められた公文書は、保存期間(1年保存)を経過したため既に廃棄済であり、存在しないと説明している。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第2号(個人情報)、第7条第3号(法人情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
個人の氏名、生年月日、住所及び印影については、登記し、公にされている代表役員の氏名、住所以外の個人に関する情報である。そのため、特定の個人が識別され、当該個人の信教が公にされることになり、憲法で保障された信教の自由が侵害されることになる。
なお、代表役員の生年月日については、登記事項外であり、個人に関する情報である。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
宗教法人法(以下「法」という。)第25条第4項の規定に基づき宗教法人が所轄庁に提出する書類(以下「提出書類」という。)は、同条第2項により宗教法人が事務所に備えなければならない書類の写しであり、事務所備付け書類の閲覧については、同条第3項により、信者その他の利害関係人であって、閲覧することに正当な利益があり、かつ、その閲覧の請求が不当な目的によるものではないと宗教法人が認める者のみに、閲覧が許されているものである。
したがって、土地、建物にかかる種別や数量、基本財産の総額といった登記事項等の公知の事項を除く、資産の増減、預貯金等の法人の財産にかかる情報については、公にすると正当な利益を損なうおそれがあり、また、憲法で保障された信教の自由に基づく当該法人の権利を害するおそれがあるため、非開示とした。
(3) 公文書不存在とした理由
開示を行った際に説明を求められた「提出書類」は、法第25条第4項の規程に基づき、所轄庁に届出が義務付けられているものであり、また、「代表役員変更届」は、法第52条第1項及び第2項第6号の規定に基づき設立時に登記された代表役員に変更があった場合に、法第55条の規定に基づき変更の登記を行い、法第9条の規定に基づき所轄庁に届出が義務付けられているものである。
三重県公文書整理保存規程別表(第3条関係)に基づき、これら文書は、「報告、届出、申請等に関する軽易な文書」に該当するとして、1年保存としており、保存期間(1年保存)を経過したために既に廃棄済であり、存在しない。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤っているというものである。
各集落単位に存する宗教法人の運営内容が、憲法に定める信仰の自由とはかけ離れ檀徒の本来の基本的人権を無視し、単に宗教法人役員の経済的利益のためにのみ利する実態となっている。宗教法人役員が教員や公務員と兼職にある事例は多々あり、宗教法人の財産や経営内容が公私混同されているとの指摘もあり、監督官庁の宗教法人法による監督権の行使に不作為が発生する要因とされている。提出文書の不存在及び部分非開示は、宗教法人の実態を覆い隠し、不明朗なものとするもので、本来信仰の自由と相反するものである。宗教法人に関する全ての文書を全面開示とすることは、その宗教の主旨を公明正大なものとして法定の権利の保証を行うことの証とするためにも担保されなければならない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示としたのは、本件対象公文書に含まれる「宗教法人設立の公告をしたことの証」中の確認者の住所、氏名及び印影、「宗教法人設立公告」中の責任役員の氏名、「責任役員就任受諾書」中の受諾者の住所、氏名及び印影、「未成年者等に該当しないことの証」中の氏名及び印影、「宗教法人規則」中の責任役員の氏名、法第25条第4項に基づき提出される「代表役員名簿」中の生年月日、「責任役員名簿」、「その他の役員名簿」中の氏名、生年月日及び住所である。
これらの情報は、法令等の規定により又は慣行として公にされているとは認められず、明らかに特定の個人が識別される情報であり、本号本文に該当すると認められる。
異議申立人は、部分非開示は、宗教法人の実態を覆い隠し、不明朗なものとするもので、本来信仰の自由と相反するものであり、当該宗教法人の地元住民は、関心がある者なら誰が役員に就任しているかということを認知していることから、容易に知ることができる情報であると主張している。
しかしながら、特定の宗教に属することは、個人の信仰に関する情報であり、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれもあり、これらの情報を開示すべき公益性があるとまでは認められず、本号ただし書きにも該当しないため、非開示が妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(法人情報)に該当するとして非開示としたのは、法第25条第4項の規定に基づき提出される財産目録に記載の情報で、土地、建物にかかる種別、数量及び基本財産計の数量・金額を除く法人の特別財産、基本財産、普通財産、資産合計、負債及び正味財産に関する情報である。(資産の部、特別財産、特別財産計等の区分及び宗教法人の印影は開示している。)
実施機関の説明によれば、これらの情報を開示すると、宗教法人の管理運営に何ら関わりを有しない第三者により、当該宗教法人の宗教活動の態様に対する誹謗中傷など、自由な宗教活動を妨害するための材料や宗教法人の自律的な運営に干渉するための材料として使われ、そのために、宗教法人及びその関係者の正当な利益である信教の自由、特に宗教上の結社の自由が害されるおそれがあると主張している。
他方、異議申立人は、宗教法人の財産や経営内容が公私混同されているとの指摘もあり、監督官庁の宗教法人法による監督権の行使に不作為が発生する要因とされており、また、提出文書の不存在及び部分非開示は、宗教法人の実態を覆い隠し、不明朗なものとするもので、本来信仰の自由と相反するものであると主張している。
確かに、所轄庁である県知事が宗教法人に対して適正に監督を行っているか否かを財産目録の開示により県民が確認できることに意味がないわけではない。
しかし、これらの情報については、法第25条第3項において、宗教法人の事務所備付け書類に対する閲覧請求権者を「信者その他の利害関係人であって、閲覧することについて正当な利益があり」等と限定しており、公にされている情報とは言えない。 したがって、これらの情報を開示することにより当該法人の信教の自由が損なわれるおそれは否定できず、当該法人の正当な利益を害すると認められ、本号本文に該当する。
また、本号ただし書きにも該当しないため、非開示が妥当である。
(6) 公文書不存在について
異議申立人は、法で届け出なければならない文書が全て揃っていない現実があり、責任役員の改選などの機会がある毎にそれが行われず、監督が行き届いていないことが問題であると主張している。
これに対し、実施機関は、部分開示を行った際に説明を求められた公文書(「提出書類」、「代表役員変更届」)は存在したが、保存期間(1年保存)を経過したために既に廃棄済であり、存在しない。三重県公文書整理保存規程別表に基づき、これら文書は、「報告、届出、申請等に関する軽易な文書」に該当するとして1年保存としていると説明している。
この説明について、特段の不合理な事情は認められず、説明を求められた公文書が存在しないことが妥当でないと認めることはできない。
(7) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16.11. 5 | ・諮問書の受理 |
16.11. 9 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16.11.19 | ・非開示理由説明書の受理 |
16.11.26 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 7.19 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第226回審査会)
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17. 8.26 | ・審議
(第228回審査会)
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17. 9.28 | ・審議 ・答申 (第230回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。