三重県情報公開審査会 答申第216号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった部分開示決定を取り消し、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年7月21日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県が起こしたすべての非訟事件および三重県に対して起こされた訴訟事件および非訟事件に関するすべての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年8月3日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
「支出命令書」及び「支出負担行為書」のうち請求書(以下「本件対象公文書」という。)
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
原告の氏名及び個人の印影は、個人に関する情報であり、開示することにより、特定の個人が識別され、また、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるため。
5 異議申立て理由
裁判は憲法上公開で行われており、原告の氏名を非開示とする理由はない。また、印影は単に慣習上押印されているのであって、弁護士の氏名がすでに開示されているならば、氏名と切り離して印影のみを非開示とする理由はない。弁護士は職業上、認印、三文判程度の性格だということは十分熟知しているのだから、プライバシーの侵害はない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本決定において本号に該当するとして非開示としたのは、本件対象公文書のうち「弁護士の印影」及び「原告の氏名」である。
「弁護士の印影」について、実施機関は、弁護士が事業を営む個人であることは理解しているが、本件対象公文書に押印されている印影は、認印、三文判等であると見受けられ、一般的に認印、三文判等であっても銀行印等に登録されている場合もあるので、当該印影は本号本文に該当し、同号ただし書には該当するとは認められないことから、開示することにより、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあると主張している。
しかしながら、本件対象公文書は、訴訟事件等において弁護士が県側の代理人を務めた際に支払われる弁護士事務手数料を当該弁護士から県に対して請求している書類であって、そこに押印されている印影は、弁護士業務を遂行する上で押印されている印影であると認められ、本号本文に規定する個人に関する情報に該当するとは認められず、非開示とする根拠として本号を適用した実施機関の判断は妥当ではない。
なお、実施機関は非開示とした理由として条例第7条第3号(法人情報)の該当性を主張してはいないが、当該印影は、事業を営む個人に関する情報であることから、当審査会としては、後述において、条例第7条第3号(法人情報)の該当性について判断する。
次に、「原告の氏名」については、異議申立人も言及しているように、本決定以降に行った開示請求に対する決定において当該情報がすでに開示されている。実施機関の説明においても、本決定では、本号に該当するとして非開示としているが、本決定以降に民事訴訟法第91条第1項により何人も訴訟記録を閲覧することができることが判明し、当該情報も閲覧できるので、同号ただし書イに該当するとして、開示しているということである。
したがって、閲覧できるのであれば、当該情報を非開示とする理由は認められないので、「原告の氏名」については開示すべきであると判断する。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
上記(3)で述べたように本件対象公文書の印影について、実施機関は個人に関する情報に該当するとして非開示としたため、本決定では本号の該当性を主張していないが、弁護士業務を遂行する上で押印された印影と認められ、事業を営む個人に関する情報であることから、本号の該当性を判断すべきである。
当審査会としては、本件公文書の印影を開示することにより、直ちに印影偽造等を誘発するおそれがあるとは認められず、事業を営む個人のその事業活動の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは言えないので、非開示とする理由はなく、開示すべきであると判断する。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
16.10. 8 | ・諮問書の受理 |
16.10.14 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16.11. 4 | ・非開示理由説明書の受理 |
16.11. 9 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 8. 3 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第227回審査会)
|
17. 9. 9 | ・審議 ・答申 (第229回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。