三重県情報公開審査会 答申第212号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書を部分開示する旨の実施機関の決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成17年2月15日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成12年度から16年度までの特定の漁業協同組合決算書及び議事録」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる「損益計算書、貸借対照表及び総会議事録」(以下「本件対象公文書」という。)を対象公文書として特定し、平成17年3月10日付けで開示請求者に対して行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立てについて
実施機関は本請求に対し、本件対象公文書中に異議申立人の情報が含まれていることから、条例第17条第2項の規定に基づき、関係法人(複数)に対して意見照会を行い、それを経て本件対象公文書を部分開示する旨の本決定を行った。
なお、実施機関は、本決定において、「総会議事録」中の「署名者の印影」、「個人発言者名」、「新委員名」、「審査委員名」、「選挙立会人名」、「選挙個人名」、「死亡者名」、「脱退者名」、「立会人名」、「加入・脱退者名」、「選挙人名」及び「個人名」については、条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして、非開示としている。
実施機関は本決定を行うと同時に、異議申立人に対して条例第17条第3項の規定に基づき、個人情報に該当する情報を除き開示する旨の通知をしたところ、すべての関係法人から本件異議申立てが提起されたものである。
また、本請求を行った開示請求者には、平成17年3月28日付けで、本件異議申立てに係る決定に至るまで開示を停止する旨の通知がなされている。
4 実施機関の開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定が妥当というものである。
法律上、第三者に対してまで閲覧に供する規定はないが、漁業協同組合(以下 「組合」という。)が極めて公的な性格を有する機関であるという実態を考え、決算報告書(損益計算書、貸借対照表)及び総会議事録に記載されている情報は非開示とすべき性格のものとはいえなく、また、情報を開示すると競争上不利益を与えるとの異議申立人の主張は認めることができないと判断した。
5 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
1)組合の損益計算書、貸借対照表及び通常総会議事録は、組合運営上、組合の債権者、組合員には開示している。
2)組合の本質を規定した水産業協同組合法(以下 「水協法」という。)第4条(組 合の目的)によると「組合は、その行う事業によってその組合員又は会員のために直接の奉仕をすることを目的とする。」とあり、構成員のために直接の奉仕をすること が目的で広く一般のための組織という概念はないことにより第三者への公益性が見出せない。
3)水協法第40条第9項「組合員及び組合の債権者は、いつでも、理事に対して前項(事業報告書、貸借対照表、損益計算書及び剰余金処理案又は損失処理案)の書類 の閲覧又は謄写を求めることができる。この場合には、理事は、正当な理由がないの に拒んではならない。」とある。本条文を読み替えると組合員及び組合の債権者以外 の者の請求は拒んでもよいと解する。
4)独自の取引を構築する中、請求者に競合組合との比較をされることにより、取引の縮小、停止等の対応がされる懸念があり、利益の喪失が想定できる。
5)組合の損益計算書、貸借対照表、総会議事録は、条例第7条第3号に該当すると考えられ、また、ただし書イ、ロ、ハのいずれにも該当せず、条例の主旨により非開 示とされるのが妥当である。
6 審査会の判断
本件対象公文書の開示について、以下のとおり判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記載されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下に判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関は本決定において、本件対象公文書のうち、個人情報に該当する部分を除き、開示しようとした。
実施機関は、「水協法では第三者に対してまで閲覧に供する規定はないが、組合等が極めて公的な性格を有する機関であるという実態を考え、本件対象公文書に記載されている情報は、個人情報に該当する部分を除いて非開示とすべきものとはいえず、本件対象公文書を開示すると競争上不利益を与えるとの異議申立人の主張は認めることはできない。」と主張している。他方、異議申立人は、「水協法は、組合の目的を「組合員又は会員のために直接の奉仕をすることを目的とする。」と規定しており、第三者への公益性が見出せない。また、同法では組合員及び組合の債権者は、いつでも、理事に対して書類(事業報告書、貸借対照表、損益計算書及び剰余金処理案又は損失処理案)の閲覧又は謄写を求めることができることから、組合員及び組合の債権者以外の者の請求は拒んでもよいとも解する。さらに、組合は独自の取引を構築する中、競合組合との比較をされることにより、取引の縮小、停止等の対応がされる懸念があり、利益の喪失が想定できることから、条例第7条第3号(法人情報)に該当し、非開示が妥当である。」と主張している。
確かに開示により、他の組合と比較されることが起こり得、「貸借対照表」で組合内部の財務の健全性や支払能力がわかり、また、「損益計算書」により組合の収益力もわかることから、組合が関係する物品の販売及び購入に関して取引の縮小や停止等によって組合の利益の喪失が想定されるとの異議申立人の主張は理解できなくはない。
しかし、「貸借対照表」及び「損益計算書」には、記載されている金額の根拠となる詳細な内訳書が添付されているわけではない。また、組合には、漁業法に基づき知事より特定の公共水面において特定の漁業を排他的に営む権利(漁業権)が免許され、漁業振興を目的とした補助金等が投入されていることも多く、さらに、水協法に基づく組合の設立を知事が認可し、指導監督する権限があること等から、組合が純然な民間企業と同等であるとは言い難く公共性の高い団体であるといえ、組合同士の間に民間企業同士間と同様の競争関係が存するとは認められない。
したがって、本件対象公文書を開示しても、競争上の地位その他組合の正当な利益を害するとは考えられない。
よって、本件対象公文書については、条例第7条第3号本文規定の情報(法人情報)に該当するとは認められず、実施機関の本決定について誤りがあったとは認められない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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17. 4. 5 | ・諮問書の受理 |
17. 4.11 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
17. 4.25 | ・開示理由説明書の受理 |
17. 4.26 | ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 5.17 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第222回審査会)
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17. 6.16 | ・審議
(第224回審査会)
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17. 7.19 | ・審議 ・答申 (第226回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
※委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 (平成17年6月17日辞職) |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 (平成17年6月20日任命) |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。