三重県情報公開審査会 答申第210号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年8月25日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「下野排水場の事故の原因を調査した調査委員会の調査記録及び報告書等全ての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年9月2日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
事故調査委員会調査報告書(整理番号2)のうち「現場代理人等専任変更通知書」、「監理技術者資格者証」、「現場代理人等選任通知書」、「経歴書」、「主任技術者及び監理技術者の専任申出書」、「緊急連絡体制」、「施工体制台帳」、「1)下野排水機場NO.2ガスタービン事故調査体制表」、「現地工事安全衛生教育終了証」、「現場組織表」及び「事故発生時の安全体制及び人員配置状況」
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
個人の住所、生年月日、学歴、本籍及び個人を識別し、それが為した行為を特定できる部分は、個人に関する情報であり、開示することにより、特定の個人が識別され、また、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるため。
5 異議申立て理由
本件事故原因の究明と今後の同様の事故の抑止のため、実施機関が非開示とした技術者の情報は、個人情報と言えども本人かつ当該法人の社員であることを担保するうえで開示が当然である。責任技術者は建設業法に基づいて届け出なければならず、現場代理人についても同法に定めた学歴、業務年数、どのような国家資格を取得しているのかについて明らかにしなければならない。建設業法の許可申請に係る書類は、閲覧・公開されている。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示とした情報のうち、異議申立ての対象となっているのは、本件対象公文書の「現場代理人等専任変更通知書」、「監理技術者資格者証」、「現場代理人等選任通知書」、「経歴書」、「主任技術者及び監理技術者の専任申出書」、「施工体制台帳」及び「現地工事安全衛生教育終了証」の技術者の住所、本籍、生年月日及び学歴、「緊急連絡体制」、「1)下野排水機場NO.2ガスタービン事故調査体制表」、「現場組織表」及び「事故発生時の安全体制及び人員配置状況」の技術者の自宅の電話番号及び個人の携帯電話番号(以下「個人情報該当部分」という。)である。
異議申立人は、本件事故原因の究明と今後の同様の事故の抑止のため、個人情報該当部分は、個人情報と言えども本人かつ当該法人の社員であることを担保するうえで開示が当然であり、また、個人情報該当部分の一部は建設業法上閲覧されていると主張している。
確かに、建設業の許可申請等に係る提出書類について、建設業法第13条により公衆の閲覧に供されており、監理技術者や主任技術者となる者については、本来、これらの者全員につきその氏名、生年月日等の情報が閲覧に供されるべきとされている。
一方、本号本文により保護されるべき個人情報は、個人の識別が可能な情報か否かにより判断されるものであり、個人の氏名、住所及び生年月日は、これらの情報が一体となれば特定の個人が確実に識別されるという意味で、個人を識別するうえで最も重要な情報であるが、それ以外にも、本籍、学歴、電話番号及び携帯電話番号も、氏名等と一体となって個人を識別し得る個人に関する情報であると考えられる。
本件事案の場合、監理技術者、主任技術者となる者の生年月日以外の個人情報該当部分は、閲覧に供されているのではないから、本号ただし書イの情報すなわち「法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当するとは言えない。
また、本件事案の場合、現在までにどのような技術を身に付けたかが職務の遂行には重要であって、監理技術者については、「監理技術者資格者証」に記載の交付番号と氏名があれば、専門の資格者であることを確認でき、また、現場において写真が添付されている者の資格者証の提示を求めることにより本人であることが確認できると言える。なお、主任技術者についても、「施工体制台帳」に記載の氏名、写真及び会社名があれば、本人であることは確認できると言える。
よって、個人情報該当部分は、本号ただし書ロの情報すなわち「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとも認められない。
監理技術者、主任技術者となる者の生年月日については、上述のように閲覧に供されるべき情報であるから、本号ただし書イに該当すると考えられる。
以上のことから、監理技術者、主任技術者となる者の生年月日以外の個人情報該当部分は、本号本文の個人に関する情報に該当し、同号ただし書の情報には該当するとは認められないことから、非開示が妥当である。個人情報該当部分のうち監理技術者、主任技術者の生年月日については、本号ただし書イの情報に該当し、開示すべきである。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16.10. 4 | ・諮問書の受理 |
16.10. 6 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16.11.10 | ・非開示理由説明書の受理 |
16.11.12 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 6.10 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第223回審査会)
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17. 7. 1 | ・審議 ・答申 (第225回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 (平成17年6月17日辞職) |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 (平成17年6月20日任命) |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。