三重県情報公開審査会 答申第209号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年7月21日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「県民局が提訴した件の告訴状及びこれに関する提出書類のすべて」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年7月27日付けで行った公文書非開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立ての対象公文書
告訴状(以下「本件対象公文書」という。)
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
条例第48条(適用除外)に該当
「有印公文書偽造・同行使」事件の告訴状及び告訴状とともに提出した書類であるので、刑事訴訟法に規定する訴訟に関する書類であり、条例第48条の規定に基づき適用除外となっているため非開示決定とした。
5 異議申立て理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤ってい るというものである。
「訴訟に関する書類」に該当するとするのは法の拡大解釈である。「訴訟に関する書類」として網にかけ、除外規定を適用しようとするのは、不当である。現に告訴内容を記した「公文書偽造・同行使罪にかかる告訴について」なる起案書は(部分)開示されている。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第48条(適用除外)の意義について
本条は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下 「行政機関情報公開法」という。)が適用除外とされる公文書について、条例の適用除外とすることを定めたものである。行政機関情報公開法の適用を除外することが定められているのは、刑事訴訟法に規定する訴訟関係書類及び押収物や漁業法に規定する免許漁業原簿等であって、個別の法令で自己完結的な閲覧・複写の制度が認められるものは当該制度に委ねるという趣旨であり、いわば制度の棲み分けを図ったものである。
(3) 条例第48条(適用除外)の該当性について
実施機関は、「有印公文書偽造・同行使」事件の告訴状は、刑事訴訟法第53条の2に規定する「訴訟に関する書類」であり、条例第48条の規定により条例の適用除外文書に該当すると主張する。また、特定事件に関する証拠金品総目録が刑事訴訟法第53条の2に定める「訴訟に関する書類」に当たり、行政機関情報公開法の適用除外となるとされた判例(大阪地裁平成14年(行ウ)第156号)があり、国の情報公開審査会は、告訴状について「訴訟に関する書類」に該当すると判断しており、非開示が妥当であると主張している。他方、異議申立人は、本件に関わる事件は被告訴人はすでに起訴され、判決が確定して、すべて終了している(刑事訴訟法の規定で閲覧できる状態にあった。)と主張する。また、起案書には当該告訴の概要が記され、開示されており、捜査内容等を理由に、告訴状をいまさら非開示とすべき理由にはならず、情報公開を請求する権利の根元をなす知る権利は憲法で保障されたものであると主張している。
刑事訴訟法第53条の2が「訴訟に関する書類」を行政機関情報公開法の適用除外とした趣旨は、「訴訟に関する書類」については、①刑事司法手続きの一環である捜査・公判の過程において作成・取得されたものであるが、捜査・公判に関する活動の適正さは、司法機関である裁判所により確保されるべきであること、②同法第47条により、公判開廷前における訴訟に関する書類の公開を原則として禁止する一方、被告事件終結後においては、同法第53条及び刑事確定訴訟記録法により、一定の場合を除いて何人にも訴訟記録の閲覧を認め、その閲覧を拒否された場合の不服申立てにつき準抗告の手続きによることとされるなど、これらの書類は、刑事訴訟法及び刑事確定訴訟記録法により、その取扱い、開示・非開示の要件、開示手続き等が自己完結的に定められていること、③これらの書類は、類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに、開示により犯罪捜査、公訴の維持その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが大きいものであることによるものであるとされている。
したがって、異議申立人の主張において、本件に関わる事件は判決が確定し、刑事訴訟法により閲覧できる状態とのことであるから、条例により開示すべきとはいえず、「訴訟に関する書類」は、刑事訴訟法により開示・非開示を決定すべきであり、条例の適用除外とされるべきである。
なお、本件対象公文書は、写しであるが、内容は原本と全く同一であることから、「訴訟に関する書類」に該当すると認められる。
したがって、告訴状は、条例第48条に該当し、非開示とした実施機関の決定に誤りがあったと言うことはできない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16. 9. 9 | ・諮問書の受理 |
16. 9.15 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 9.29 | ・非開示理由説明書の受理 |
16.10. 1 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 5.17 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第222回審査会)
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17. 6.16 | ・審議 ・答申 (第224回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
※委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。