三重県情報公開審査会 答申第208号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年7月27日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定土地改良区の設立申請に係る文書の全部」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年8月6日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「特定土地改良区の設立認可申請書」である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1)条例第7条第2号(個人情報)に該当
個人の住所、氏名及び印影については、特定の個人が識別され得る情報であるため、個人の権利利益を侵害するおそれがあることから、個人情報に該当し非開示とした。
5 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
非開示部分は、本件土地改良区が公益に基づき適法に法律行為を行ったか否かの責任を明らかにするために必要である。土地改良区の設立申請人は、氏名を公表して成立するのであり氏名不明では設立できない。印影は自らの真正を明らかにして意思を示したものであって、一連の責任をあらわしたものであると言える。特に公益法人であるので、隠すことはないはずである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において非開示とした情報は、設立申請人(者)、設立申請人(者)代表及び発起人の住所、氏名及び印影、土地改良法第3条の資格を有する者の署名のうち個人の住所、氏名及び印影である。
まず、設立申請人(者)、設立申請人(者)代表及び発起人の住所及び氏名(以下「設立申請人等住所・氏名」という。)についてであるが、土地改良区が役員の就任又は退任に伴い、役員の住所及び氏名を届け出たときは、都道府県知事は土地改良法第18条第17項の規定により、これを公告しなければならないこととされており、実際には三重県公報に住所及び氏名が公告されている。設立申請人等住所・氏名のうち公報に記載された役員の住所及び氏名と一致するものについては、本号ただし書イにより非開示情報から除くとされている「法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当すると認められることから、非開示とする理由はない。ただし、設立申請人等住所・氏名のうち公報に記載された役員の住所及び氏名と一致しないもの(以下「不一致住所・氏名」という。)については、個人に関する情報であって、特定の個人を識別できる情報であり、本号本文に該当することは明らかである。
なお、実施機関の説明によると、設立申請を行う一連の手続きのなかで、不一致住所・氏名も含め設立申請人等住所・氏名は、土地改良法第5条第2項の規定により、一定の期間市において縦覧に供されていたということである。しかしながら、過去にこれらの情報が縦覧された事実があったとしても、当時からかなりの年数が経過しており、現在は誰もが知り得る状態には置かれていない以上、不一致住所・氏名は本号ただし書イに該当するとは認められず、また、本号ただし書ロにより非開示情報から除くとされている「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」にも該当するとは認められないことから、非開示が妥当である。
次に、設立申請人(者)、設立申請人(者)代表、発起人及び土地改良法第3条の資格を有する者の署名のうち個人の印影について、これらは個人に関する情報であって、特定の個人を識別できる情報であり、本号本文に該当することは明らかである。設立申請人(者)及び設立申請人(者)代表の印影については、実施機関の説明によると、土地改良法上、設立申請を行う一連の手続きのなかで、一定の期間市において縦覧に供されていたということであるが、過去にこれらの情報が縦覧された事実があったとしても、当時からかなりの年数が経過しており、現在は誰もが知り得る状態には置かれていない。また、土地改良法上、役員の就退任の際はその住所及び氏名を公告することとなっており、実際には三重県公報に住所及び氏名が公告されているが、個人の印影は、役員以外の者はもちろん役員についても、公告されていないことから、本号ただし書イに該当するとは認められない。なお、本号ただし書ロにも該当するとは認められないことから、非開示が妥当である。
土地改良法第3条の資格を有する者の署名のうち個人の住所及び氏名については、本件土地改良区の設立及び同土地改良区が行う農業構造改善事業及び土地基盤整備事業に対して個人の同意の意思を表示したものであると認められる。当該事業を行うにあたり土地改良法上必要とされるのは、同法第3条の資格を有する者の3分の2以上の同意であり、必ずしも全員の同意が必要とはされていない。したがって、これらの住所及び氏名を開示すると当該事業に同意している特定の個人が識別され得ることとなるため個人情報に該当する。また、本号ただし書に掲げる情報に該当するとは認められず、非開示が妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16.10. 1 | ・諮問書の受理 |
16.10. 5 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16.11.10 | ・非開示理由説明書の受理 |
16.11.12 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 5.13 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第221回審査会)
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17. 6.10 | ・審議 ・答申 (第223回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。