三重県情報公開審査会 答申第205号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年6月29日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「生活部の所轄するすべての委員会、審議会の委員選定の経緯のわかるすべての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年7月27日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となった公文書は、別紙1「本件対象公文書」に記載したとおりである。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書には、個人の住所、年齢、学歴及び職歴等が記載されており、これらは個人に関する情報であり、開示することにより、私生活上の権利利益を害するおそれがある。
5 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
非開示理由として、私生活上の権利利益を害するおそれがあるとされているが、公益委員以外の委員については、年齢及び住所のうち市または郡までの部分を限定的に開示してもそのようなことは考えられない。公益委員にあっては、少なくとも個人情報とされているうち職業、年齢、学歴及び住所の情報がない限り、国民の知る権利をまったく無視したものとなる。
6 審査会の判断
本件事案について、異議申立人は「すべての委員の住所」、「すべての委員の年齢」、「公益委員の職歴」及び「公益委員の学歴」についてのみ異議を申し立てていることから、当審査会では当該異議申立て部分について次のとおり判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書における「すべての委員の住所」、「すべての委員の年齢」、「公益委員の職歴」及び「公益委員の学歴」について、実施機関は、これらの情報は個人に関する情報であり、開示することで当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとして非開示が妥当であると主張している。また、実施機関は、「すべての委員の住所」について、自宅と所属団体を区別することなく本号に該当するとして非開示としている。
一方、異議申立人は、公益委員以外の「委員の住所のうち市または郡まで」及び「委員の年齢」の情報を開示しても私生活上の権利利益を害するおそれはないと主張している。また、住所は一体不可分であって個人情報だからすべて非開示とする対応は極めて不適切で、三重県は南北に長い地形であるので地域の偏在性がないように十分配慮して検討すべき情報であり、年齢は「審議会等の設置・運営等に関する判断基準」(以下「判断基準」という。)において幅広い年齢層から委員を選任し広く人材の登用を図るものとすると明記されているのだから、一般的な個人情報として非開示とすることは著しく妥当性に欠くものであると主張している。公益委員にあっては、「委員の住所」、「委員の年齢」、「委員の職歴」及び「委員の学歴」の情報がない限り、国民の知る権利をまったく無視したものとなると主張している。
まず、「すべての委員の住所」のうち所属団体の住所については、すでに所属団体名が明らかにされていることから、その住所を非開示とする理由はない。よって、委員の所属団体の住所は、本号には該当しないと認められることから、開示すべきであると判断する。
また、実施機関が非開示とした「すべての委員の住所」のうち「委員の自宅の住所のうち市または郡まで」の情報について、審議会等の委員に限定すれば、これらの情報が通常他人に知られたくない情報にあたるとは社会通念としても考えにくく、個人のプライバシーを侵害するとまでは言えず、このことから、「委員の自宅の住所のうち市または郡までの情報に個人識別性があるとは認められず、また、すでに委員の氏名が開示されていることをもって、委員の自宅の住所のうち市または郡までの情報と他の一般に容易に入手し得ることができる情報とを組み合わせることで、委員個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとは言えない。」とする異議申立人の主張も理解できないわけではない。審査会としても、個人情報該当性の判断には難しい部分があることから、個人情報保護法などをはじめとする個人情報保護制度が確立された以上、制度上の是非について条例改正も含めた議論を行うべき時期にきているものと考える。しかしながら、個人情報の該当性について個人識別情報型を採用している現行の条例においては、住所を分割して判断することは条例の解釈上無理があり、たとえ実質的には支障がなかったとしても、住所を全体として個人情報に該当するとした実施機関の決定は妥当であると言わざるを得ない。
また、本号ただし書にも該当しないことから非開示が妥当である。
次に、「すべての委員の年齢」について、これらの情報は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別できる情報であり、本号本文に該当することは明らかである。確かに、異議申立人が主張している判断基準からすると、特定の個人と結びつく可能性のない年齢構成を公にすることの公益性はあると考えられるが、本件対象公文書においては、特定個人と結びついた形態で記載されており、当該個人の権利利益を侵害してまで公にすべきであるとの公益上の理由も認められず、本号ただし書にも該当しないので「すべての委員の年齢」は非開示が妥当である。
次に、「公益委員の職歴」について、これら非開示とした情報のなかには、すでに別の対象公文書で明らかになっている部分も含まれている。したがって、すでに明らかにされている情報については非開示とする理由は認められない。また、当該委員を選任する際の理由の一つとして職歴が考慮されていると見受けられることから、県として当該委員の選任理由の説明責任を全うすべきであり、開示することによって当該個人の権利利益を侵害するおそれは認められないことから、「公益委員の職歴」のうちすでに明らかにされている職歴及び選任する際に考慮された職の職歴は開示すべきであると判断する。
しかしながら、「公益委員の職歴」のうちすでに明らかにされている職歴及び選任する際に考慮された職の職歴を除くその他の部分については、個人情報に該当し非開示が妥当である。
次に、「公益委員の学歴」について、これらの情報は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別できる情報であり、本号本文に該当することは明らかである。なお、委員の選任理由として、高度な専門知識や見識を有し、または、専門領域で高い評価を得ている等、学歴よりもむしろ職歴が重視されていると見受けられ、また、上記において述べているように、説明責任を全うするためには委員を選任する際に考慮された職歴を開示すべきであることから、当該個人の権利利益を侵害してまで公にすべき情報であるとの公益上の理由も認められず、本号ただし書にも該当しないので「公益委員の学歴」は非開示が妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会からの意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、本件事案については実施機関の事務処理に不適切な点が見受けられることから、当審査会として次のとおり意見を申し述べる。
本決定において、非開示とされている情報が、別の対象公文書で開示されているなど、全体として非開示部分に一貫性がないと見受けられ、決定の内容に整合性を欠く対応であったと言わざるを得ない。実施機関は、情報公開制度への信頼を確保するためにも、条例の適正な運用に努めるべきである。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
(本件対象公文書)
- 第38期三重県地方労働委員会委員(公益)の任命について(伺い)
- 第37期三重県地方労働委員会委員(公益委員)の同意について(伺い)
- 第38期地方労働委員会委員の任免について(伺い)
- 第38期三重県地方労働委員会公益委員就任予定者の履歴書について(伺い)
- 第38期三重県地方労働委員会委員の推薦に係る公告について(伺い)
- 第38期三重県地方労働委員会委員作業計画(案)
- 三重県地方労働委員会委員の辞任に伴う後任者の任命について(伺い)
- 地方労働委員会委員(公益委員)の辞任に伴う後任者の補充にかかる同意について(伺い)
- 第37期三重県地方労働委員会委員(公益委員)の任命について(伺い)
- 第37期地方労働委員会委員の任免について(伺い)
- 第37期地方労働委員会公益委員就任予定者の履歴書について(伺い)
- 第37期地方労働委員会委員(公益委員)の同意について
- 第37期三重県地方労働委員会委員の推薦に係る公告について(伺い)
- 第37期三重県地方労働委員会委員の選任について
- 第37期三重県地方労働委員会委員任命計画(案)
- 第36期三重県地方労働委員会委員(公益委員)の任命について(伺い)
- 第36期三重県地方労働委員会委員の任命について(伺い)
- 第36期三重県地方労働委員会委員(公益委員)の同意について(伺い)
- 第36期三重県地方労働委員会委員候補者(公益委員)の選任について(伺い)
- 第36期地方労働委員会委員にかかる刑罰等調書の交付申請について(伺い)
- 第35期三重県地方労働委員会委員の補充任命について(伺い)
- 第35期三重県地方労働委員会公益委員の補充について
- 第35期三重県地方労働委員会公益委員の補充任命について(協議)
- 第35期三重県地方労働委員会補充委員任命に係る刑罰等調書の交付申請について(伺い)
- 第35期三重県地方労働委員会使用者委員の補充任命について(協議)
- 第35期三重県地方労働委員会補充委員任命に係る刑罰等調書の交付申請について(伺い)
- 第35期三重県地方労働委員会委員の任命について(伺い)
- 第35期三重県地方労働委員会委員(公益委員)の選考について
- 第35期三重県地方労働委員会委員の任命について(協議)
- 第35期三重県地方労働委員会委員にかかる刑罰等調書の交付申請について(伺い)
- ・謔R4期三重県地方労働委員会委員(使用者委員)の補充任命について(伺い)
- 三重県地方労働委員会委員の補充について
- 第34期三重県地方労働委員会補充委員任命に係る刑罰等調書の交付申請について
- 第34期地方労働委員会委員について(協議)
- 第34期地方労働委員会委員の任命について(伺い)
- 第34期三重県地方労働委員会委員の任命について(協議)
- 第34期三重県地方労働委員会委員にかかる刑罰等調書の交付申請について(伺い)
- 第33期三重県地方労働委員会委員(労働者委員)の補充任命について(伺い)
- 第33期三重県地方労働委員会委員補充委員任命に係る刑罰等調書の交付申請について
- 第33期三重県地方労働委員会委員(使用者委員)の補充任命について(伺い)
- 第33期三重県地方労働委員会補充委員任命に係る刑罰等調書の交付申請について(伺い)
- 第33期三重県地方労働委員会使用者委員の補充任命について(協議)
- 第33期三重県地方労働委員会補充委員の任命について
- 第33期三重県地方労働委員会補充委員任命に係る刑罰等調書の交付申請について(伺い)
- 第33期三重県地方労働委員会委員の任命について(伺い)
- 第33期三重県地方労働委員会委員にかかる刑罰等調書の交付申請について(伺い)
- 第33期三重県地方労働委員会委員の任命について
- 第33期三重県地方労働委員会委員(公益委員)の任命について
- 地方労働委員会委員の任命等について
- 第33期三重県地方労働委員会委員の任命計画について(伺い)
- 地方労働委員会委員の任命等について(副知事・出納長説明用)
- 第32期三重県地方労働委員会委員(労働者委員)の任命について(伺い)
- 第32期三重県地方労働委員会補欠委員任命に係る刑罰等調書の交付申請について(伺い)
- 第32期三重県地方労働委員会委員(使用者委員)の補充任命について(伺い)
- 第32期三重県地方労働委員会補欠委員任命に係る刑罰等調書の交付申請について(伺い)
- 第32期三重県地方労働委員会委員の任命について(伺い)
- 第32期三重県地方労働委員会委員にかかる刑罰等調書の交付申請について(伺い)
- 第32期三重県地方労働委員会委員(公益委員)の任命について
- 第32期三重県地方労働委員会委員の任命計画について(伺い)
- 第31期三重県地方労働委員会委員(労働者委員)の補充任命について(伺)
- 第31期三重県地方労働委員会委員の任命について(伺い)
- 第31期三重県地方労働委員会委員の任命について
- 第30期三重県地方労働委員会委員(労働者委員)の補充任命について(伺い)
- 第31期三重県地方労働委員会委員の任命計画について(伺い)
- 第30期三重県地方労働委員会委員(使用者委員)の補充任命について(伺い)
- 第30期三重県地方労働委員会委員の任命について(伺い)
- 第30期三重県地方労働委員会委員の推せんについて
- 第29期三重県地方労働委員会委員(公益委員)の補充任命について
- 第29期三重県地方労働委員会委員(労働者委員)の補充任命について
- 地方労働委員会委員の補充任命について
- 第29期三重県地方労働委員会委員(使用者委員)の補充任命について
- 身分調書について(照会)
- 第29期三重県地方労働委員会委員の任命について
- 第28期三重県地方労働委員会委員(使用者委員)の補充任命について(伺)
- 地方労働委員会委員の(補充)任命について
- 第28期三重県地方労働委員会委員(労働者委員)の補充任命について(伺い)
- 第28期三重県地方労働委員会委員の任命についてい(伺い)
- 第28期三重県地方労働委員会委員の推薦要領について(伺い)
- 第27期三重県地方労働委員会委員(労働者委員)の補充任命について(伺い)
- 地方労働委員会委員(公益委員)の任命手続き等について
- 第27期三重県地方労働委員会委員(使用者委員)の補充任命について(伺)
- 第27期三重県地方労働委員会委員の任命について
- 労働組合資格証明書の交付について
- 第27期三重県地方労働委員会委員の推薦要領について
- 第26期三重県地方労働委員会委員(使用者側)の補充任命について
- 第26期三重県地方労働委員会委員の任命について
- 第25期三重県地方労働委員会委員(使用者側)の補充任命について
- 第25期三重県地方労働委員会(労働者委員)の補充任命について
- 第25期三重県地方労働委員会委員(使用者委員)の補充任命について
- 第25期三重県地方労働委員会委員の任命について
- 第24期三重県地方労働委員会委員(使用者委員)の補充任命について
- 第24期三重県地方労働委員会委員の任命について
- 第23期三重県地方労働委員会委員(公益委員)の補充任命について
- 第23期三重県地方労働委員会委員(労働者委員)の補充任命について
- 第23期三重県地方労働委員会委員(使用者委員)の補充任命について
- 第23期三重県地方労働委員会委員の任命について
別紙2
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
16. 8. 9 | ・諮問書の受理 |
16. 8.19 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 9. 9 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 9.13 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 1.21 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 (第214回審査会)
|
17. 2. 4 | ・実施機関の補足説明 ・審議 (第215回審査会)
|
17. 3.18 | ・審議
(第218回審査会)
|
17. 4.15 | ・審議 ・答申 (第220回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。