三重県情報公開審査会 答申第204号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年6月29日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「生活部の所轄するすべての委員会、審議会の委員選定の経緯のわかるすべての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年7月12日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となった公文書は、「三重県私立学校審議会委員の任免について」、「三重県私立学校審議会委員の任命等について」、「三重県私立学校審議会委員の任命等について(伺)」、「三重県私立学校審議会委員の任命等について(伺い)」、「三重県私立学校審議会委員の任命について」、「三重県私立学校審議会委員の任命について(伺)」、「三重県私立学校審議会委員の任命について(伺い)」、「三重県私立学校審議会委員任命伺」、「三重県私立学校審議会委員の推薦について」、「三重県私立学校審議会委員の推薦について(依頼)」、「三重県私立学校審議会委員の推薦について(伺い)」、「私立学校審議会委員の推薦について(伺)」、「三重県私立学校審議会委員候補者の推薦について(伺い)」、「私立学校審議会委員の任期満了に伴う委員の推せんについて」、「私立学校審議会委員の任期満了に伴う委員候補者の推薦について(伺い)」、「三重県私立学校審議会委員の任期満了に伴う委員候補者の推薦について(伺い)」及び「三重県私立学校審議会委員の辞職に伴う委員候補者の推薦について(伺い)」(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書には、個人の住所等が記載されており、これらは個人に関する情報であり、開示することにより、私生活上の権利利益を害するおそれがある。
5 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
非開示理由として、私生活上の権利利益を害するおそれがあるとされているが、住所のうち市または郡までの部分を限定的に開示してもそのようなことは考えられない。
6 審査会の判断
本件事案について、異議申立人は「委員の住所」についてのみ異議を申し立てていることから、当審査会では当該異議申立て部分について次のとおり判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書における「委員の住所」について、実施機関は、これらの情報は個人に関する情報であり、開示することで当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとして非開示が妥当であると主張している。なお、実施機関は、過去30年分の公文書が請求対象であったことから、過去のこれらの情報が自宅の住所であるのか、学校または事務所等の住所であるのか判別できないところがあったので、「委員の住所」については、本号に該当するとして一律に非開示としている。
一方、異議申立人は、「委員の住所のうち市または郡まで」の情報を開示しても私生活上の権利利益を害するおそれはないと主張している。また、住所は一体不可分であって個人情報だからすべて非開示とする対応は極めて不適切で、三重県は南北に長い地形であるので地域の偏在性がないように十分配慮して検討すべき情報であると主張している。
まず最初に、「委員の住所」を一律に非開示としたことについてであるが、当審査会において、インカメラ審理を行ったところ、実施機関が非開示とした部分のなかに、委員が所属している学校または事務所等の住所と見受けられるところが一部認められる。したがって、判別できないところがあるからと言って「委員の住所」を一律に非開示とするのではなく、明らかに委員が所属している学校または事務所等の住所であると判断できる部分については、すでに所属団体名が明らかにされていることから、その住所を非開示とする理由はない。よって、委員が所属している学校または事務所等の住所は、本号には該当しないと認められることから、開示すべきであると判断する。
それでもなお、自宅の住所か学校または事務所等の住所か判断できない場合は、次に述べる「委員の自宅の住所」と同様の開示・非開示の判断とすべきである。
実施機関が非開示とした部分のうち「委員の自宅の住所のうち市または郡まで」の情報について、審議会等の委員に限定すれば、これらの情報が通常他人に知られたくない情報にあたるとは社会通念としても考えにくく、個人のプライバシーを侵害するとまでは言えず、このことから、「委員の自宅の住所のうち市または郡までの情報に個人識別性があるとは認められず、また、すでに委員の氏名が開示されていることをもって、委員の自宅の住所のうち市または郡までの情報と他の一般に容易に入手し得ることができる情報とを組み合わせることで、委員個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとは言えない。」とする異議申立人の主張も理解できないわけではない。審査会としても、個人情報該当性の判断には難しい部分があることから、個人情報保護法などをはじめとする個人情報保護制度が確立された以上、制度上の是非について条例改正も含めた議論を行うべき時期にきているものと考える。しかしながら、個人情報の該当性について個人識別情報型を採用している現行の条例においては、住所を分割して判断することは条例の解釈上無理があり、たとえ実質的には支障がなかったとしても、住所を全体として個人情報に該当するとした実施機関の決定は妥当であると言わざるを得ない。
また、本号ただし書にも該当しないことから非開示が妥当である。
なお、委員のうち県議会議員の自宅の住所については、三重県職員録においてすでに公になっている。したがって、慣行として公にされている情報であると認められることから、本号ただし書イに該当すると認められ、委員のうち県議会議員の自宅の住所は開示すべきであると判断する。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16. 8. 4 | ・諮問書の受理 |
16. 8.10 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 8.30 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 9. 1 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
17. 1.21 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 (第214回審査会)
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17. 2. 4 | ・実施機関の補足説明 ・審議 (第215回審査会)
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17. 3.18 | ・審議
(第218回審査会)
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17. 4.15 | ・審議 ・答申 (第220回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。