三重県情報公開審査会 答申第196号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年6月11日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「情報公開審査会委員就任承諾書(直近のもの)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年6月18日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立ての対象公文書
「三重県情報公開審査会委員の任命について(伺い)」(平成16年5月31日決裁)添付書類のうち、「承諾書」 12通(以下「本件対象公文書」という。)
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
条例第7条第2号(個人情報)に該当
三重県情報公開審査会委員及び同候補者(以下、「委員」という。)の住所並びに印影(弁護士の印影を除く)は、個人に関する情報であって、また、公務員等の職務に関する情報には当たらず、条例第7条第2号により非開示情報に該当する。
(住所について)
委員は、三重県の条例上、その選任に当たり三重県議会の同意又は報告を必要とされていないので、委員の氏名や住所等を記載した議案を作成しておらず、したがって三重県議会の議案の公表を通じて委員の住所を公にしている事実はない。また、その他の方法で委員の住所を公表している事実もない。したがって、委員の住所は、条例第7条第2号ただし書イに掲げる情報には当たらない。
(印影について)
本件対象公文書は、委員の職務として作成される性質の文書ではなく、委員の職務とは別に作成される性質のものである。そのような文書に表示されている委員の印影は委員の公務員としての職務に関して押捺されたものではなく、公務員等の職務に関する情報には当たらない。
したがって、本件対象公文書に表示されている印影が委員個人としての印影である場合は、その印影は個人に関する情報として非開示情報とするべきである。
他方、異議申立人が指摘する「復命書」では、三重県の職員の印影が開示されているが、「復命書」は三重県の職員として職務に関して作成される文書であり、当該印影は公務員等の職務に関して押捺されたものであるから、公務員等の職務に関する情報となり、非開示情報とされない。また、開示しない部分を開示することが、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するために必要であるとは認められないから、開示しない部分の情報は条例第7条第2号ただし書ロに掲げる情報にも当たらない。
5 異議申立て理由
条例第7条第2号に該当しない。川崎市は、住所を開示しており、安城市は、印影を開示している。また、三重県の職員の印影は、開示されている。委員の位置付けを明らかにし、住所及び印影を開示すべきである。
(1) 委員の住所について
期待されている情報公開審査会機能の重要性を勘案して、議案作成すれば公開される程度の内容を公開してもよいのではないかと判断する。情報公開審査会の機能をどのように位置付けているのかが問われている。委員の住所が開示されて不都合があれば、川崎市も制度を変更すると思われる。議会の同意、承認が必要であると考えられる程度の位置付けが情報公開審査会に対してなされていれば、公開は可能である。実施機関は、委員の住所は公開されていないと主張しているが、どのようにして三重県は委員の職務遂行性についての情報及び住所に関する情報を入手することができたのかを説明すべきである。県は委員が自ら公開する予定又は既に公開している、委員として必要な知見を持っているか否かについて判断することができる情報を入手、利用して就任依頼をしたのではないかと思われる。このような視点から、県が委員の住所を公開している事実はないのかもしれないが、委員が公開しているかどうかを確認して、公開の事実がないという場合、そして、公開の予定もない場合に不開示決定をすべきである。
(2) 承諾書の性格について
県は、委員の職務として作成されていない本件対象公文書のうち、自署を全部開示の決定をしているが、個人識別情報であると認識しても、自署を開示し、印影は不開示にする一貫性のない判断をしている。公務員の職務に関する情報ではない自署を開示した 理由を説明すべきである。他市の事例では、自署を開示すれば印影も開示する傾向がある。印影を不開示にする場合は、自署も不開示にする傾向がある。また、職務に関する情報ではないかもしれないが、職務と分離して全く私的な活動であるとはいえず、あえて言えば準職務行為であると理解できる。同じ公務員なのに、特別職である委員の印影 はなぜ不開示にするのか理解できる方法で説明すべきであり、印影を開示することによる具体的な委員に対する権利利益侵害の発生のおそれはなく、印影は委員の職務として使用されることもあるということを考えると、県の職員と同じ立場になるから、不開示にする理由はない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当し非開示とした箇所で異議申立ての対象となっているのは、本件対象公文書の委員の住所及び印影(弁護士の印影を除く)である。
まず、住所について検討する。
実施機関は、「委員は、三重県の条例上、その選任に当たり三重県議会の同意又は報告を必要とされていないので、委員の氏名や住所等を記載した議案を作成しておらず、したがって三重県議会の議案の公表を通じて委員の住所を公にしている事実はない。また、その他の方法で委員の住所を公表している事実もない。したがって、委員の住所は、条例第7条第2号ただし書イに掲げる情報には当たらない。」と非開示理由を述べており、本号(個人情報)に該当して非開示が妥当であると主張している。
他方、異議申立人は、「川崎市は、住所を開示している。期待されている情報公開審査会機能の重要性を勘案して、議案作成すれば公開される程度の内容を公開されてもよく、また、議会の同意、承認が必要であると考えられる程度の位置付けが情報公開審査会に対してなされていれば、公開は可能である。」と主張している。
確かに、委員には人選の公平性及び中立性が求められ、高い公益性のある公職であると認められるが、委員個人の住所は、明らかに特定の個人が識別できる個人情報であり、開示すべきほどの公益性があるとまではいえず、地域性を考慮した委員構成における選任の妥当性を確認するために、委員個人の住所の開示が特に必要と認められる特段の理由がない限り、本号ただし書ロに該当しない。
また、「委員は、県議会の議案の公表を通じて委員の住所を公にしている事実はなく、また、その他の方法で委員の住所を公表している事実もない。」との実施機関の説明には理由があり、本号ただし書イにも該当しない。
したがって、本件対象公文書中の、実施機関が非開示とした委員の住所は、本号(個人情報)に該当し、非開示が妥当である。
次に、印影について検討する。
実施機関は、「本件対象公文書は、委員の職務として作成される性質の文書ではなく、委員の職務とは別に作成される性質のものであり、印影は委員の公務員としての職務に関して押捺されたものではないことから、公務員等の職務に関する情報には当たらない。したがって、印影が委員の個人としての印影である場合は、その印影は個人に関する情報として非開示情報とするべきである。また、「復命書」は、三重県の職員として職務に関して作成される文書であり、そこに押捺されている印影は公務員等の職務に関して押捺されたものであるから、非開示情報とされない。」と主張している。
他方、異議申立人は、「安城市は、印影を開示している。三重県の職員の印影は、開示されている。県は、委員の職務として作成されていない本件対象公文書のうち、自署を全部開示しているが、個人識別情報であると認識しても、自署を開示し、印影は非開示にする一貫性のない判断をしており、公務員の職務に関する情報ではない自署を開示した理由を説明すべきである。また、職務と分離して全く私的な活動であるとはいえず、準職務行為であると理解できる。同じ公務員なのに、特別職である委員の印影はなぜ非開示なのか説明すべきであり、印影を開示することによる具体的な委員に対する権利利益侵害の発生のおそれがなく、印影は委員の職務として使用されることもあるということを考えると、県の職員と同じ立場になるから、不開示にする理由はない。」と主張している。
確かに、自署を開示した点に関する異議申立人の指摘は理解できなくはない(この点については次項で述べる。)。しかし、ここでは非開示とされた印影について開示を求めているのであるから、この点について述べることとする。委員の印影は、委員への就任を要請された特定の個人が、自らの意思に基づいて作成されたものであることを証するため、氏名を記入した書類に押捺したものであり、純然たる特定の個人の行為であって、委員の職務として作成された性質のものではないことから、個人情報であると認められる。
よって、「本件対象公文書は、職務として作成される性質の文書ではなく、委員の印影は、公務員等の職務に関する情報には当たらない。」との実施機関の説明には理由がある。
そうすると、異議申立人が指摘するような「復命書」で開示されている県職員の印影は、職務上作成したものに押捺されたものであって、これをもって本件対象公文書の印影を開示することにはならない。
したがって、本件対象公文書中の、実施機関が非開示とした部分は、本号(個人情報)に該当し、本号ただし書にも該当しないことから、非開示が妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
(1) 自署について
一般的に氏名が自署である場合には、開示することにより個人の筆跡の特徴が明らかとなり、その結果、当該個人の権利利益が侵害されるおそれも否定できない。
このことから、たとえ、本件事案のように慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報であったとしても、氏名(自署)の取り扱いについては、プライバシーの保護と情報公開制度の原則公開の理念を十分踏まえたうえで、今後検討すべき課題であると思料する。
また、本件対象公文書にとどまらず、県が設置する各種審査会、審議会等の委員就任の承諾書についても、最近の個人情報の保護の観点から、その記載事項が必要以上の個人情報を収集していないかどうかについて検討することが望ましい。
今後、実施機関はこれらの趣旨を十分踏まえたうえで、条例の適正な運用に、より一層努められたい。
(2) 委員の回避について
条例第30条第1項には、「委員は、調査審議の公正を妨げるべき事情があると判断するときは、会長の許可を得て、回避することができる。」との規定があり、また、同第2項には、「会長は、自らに調査審議の公正を妨げるべき事情があると判断するときは、前条第3項の規定による会長の職務を代理する者の許可を得て、回避することができる。」との規定がある。この規定の趣旨は、委員が本務等との関わりで請求に係る公文書に利害関係を有することがあり得ることから、委員の審議の中立性を確保する観点から設けられているものである。
本件事案は、現在、委員に就任している就任承諾書に関するものが対象公文書であることから、仮にすべての委員が利害関係を有するとした場合、調査審議の公正を妨げるものか否かについて検討する。まず、条例第21条には、「開示決定等について行政不服審査法(昭和37年法律第160号)の規定による不服申立てがあったときは、当該不服申立てに対する裁決又は決定をすべき実施機関(議会を除く。)は、(1)不服申立てが不適法であり、却下するとき (2)裁決又は決定で、不服申立てに係る開示決定等(開示請求に係る公文書の全部を開示する旨の決定を除く。)を取り消し又は変更し、当該不服申立てに係る公文書の全部を開示することとするとき、のいずれかに該当する場合を除き、速やかに、三重県情報公開審査会(以下、「審査会」という。)に諮問しなければならない。」と規定されている。本件事案の場合、実施機関が非開示とした情報は、すべての委員に関わることから、全委員が本決定に利害関係を有する以上、審議に参加すべきではないとの解釈もあり得ることから、実施機関が審査会に諮問し、その答申を得ずに決定又は裁決を行った場合には、デュー・プロセス(適正手続きの保障)の理念に照らし、公正さを欠く可能性がある。
さらに、実施機関が非開示とした情報は、当審査会のみならず、県が設置する各種審査会、審議会等のすべての委員に関する共通的な事項に適用されるものと判断でき、委員個人が特別に利害関係を有するものではないといえる。
よって、本件事案について異議申立人は、特に委員の回避を求めていないが、異議申立てに係る審議を速やかに行う必要があることから、当審査会としては、回避することなく、審査会が審議を行った方が公正さを担保できるものと考え、回避の必要はないと判断する。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
16. 8.13 | ・諮問書の受理 |
16. 8.24 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 9. 3 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 9.29 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16.10. 5 | ・異議申立人からの意見書の受理 |
16.10. 6 | ・実施機関に対して意見書の送付 |
17. 2.23 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第216回審査会)
|
17. 3.15 | ・審議
(第217回審査会)
|
17. 4.12 | ・審議 ・答申 (第219回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 三重中京大学短期大学部教授 |
※委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。