三重県情報公開審査会 答申第187号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年5月13日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「競争入札参加資格審査申請書(物件の買入れ等)及び添付書類(特定の株式会社分)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年5月18日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立ての対象公文書
競争入札参加資格審査申請書(物件の買入れ等)の添付書類(特定の株式会社分)のうち、「決算報告書」中の
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 販売費及び一般管理費
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○条例第7条第3号(法人情報)に該当
決算報告書(添付書類)の中小項目は、経理上の当該法人内部の情報であり、開示することにより当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。また、当該法人は商法上の小会社に該当し、法令上、公開を義務づけられているのは大項目相当の部分であると認められる。さらに、当該情報は公にされておらず、通常知り得ないものであり、実施機関が公益上開示する必要がない。
5 異議申立て理由
決算報告書については、商法により公開が義務づけされているにもかかわらず非開示にするのは法の精神に反する。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本決定において異議申立ての対象となっているのは、競争入札参加資格審査申請書の添付書類のうち、「決算報告書」中の「貸借対照表」及び「損益計算書」に記載されている中小項目の金額並びに「販売費及び一般管理費」に記載されている科目ごとの金額を非開示とした点であると認められる。
実施機関は、「決算報告書の中小項目は、経理上の当該法人内部の情報であり、開示することにより当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。また、当該法人は商法上の小会社に該当し、法令上、公開を義務づけられているのは大項目相当の部分であると認められる。さらに、当該情報は公にされておらず、通常知り得ないものであり、実施機関が公益上開示する必要がない。」と非開示理由を述べており、本号(法人情報)に該当して非開示が妥当であると主張している。
他方、異議申立人は、「商法第283条第4項によれば株式会社の決算は公告しなければならないと記載されている。また、株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び附属明細書に関する規則第50条には小会社の決算方法、公告方法が記載されており、その中では中小項目は区分してもよいと書いてあるだけで発表してはならないとの記載はない。ただ、発表しなくてもよいと書いてあるだけである。実施機関は、決算報告書の中小項目を経理上の当該法人内部の情報であるとして条例第7条第3号(法人情報)に該当するとして部分開示決定を行なっているが、商法及びその規則により株式会社の決算は公開しなければならないのであるから、内部の情報であるとは言えない。」と主張している。
確かに、株式会社の決算書類のうち、一定のものは商法第283条第4項の規定により公告を要することになっているから、その公開が商法で義務づけられているものに関しては当該法人の内部の情報であるとは言えないとの異議申立人の主張は理解できる。
しかしながら、商法第283条第4項の規定によれば、取締役が公告を要するのは、貸借対照表又はその要旨であり、貸借対照表の全てを公告することが義務づけられているものではない。また、商法施行規則第110条(異議申立人の指摘する株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び附属明細書に関する規則は既に廃止されている。)の規定によれば、小株式会社が公告すべき貸借対照表の要旨は、流動資産や固定資産などのいわゆる大項目とされており、異議申立人が主張するようないわゆる中小項目まで記載することを義務づけられているものではないと認められる。さらに、いわゆる中小項目は、これを公開すると法人の経営状況がある程度具体的に明らかとなり、当該法人の正当な利益を害すると認められる情報である。
また、実施機関が非開示とした「損益計算書」の中小項目相当の部分及び「販売費及び一般管理費」は、商法及び商法施行規則では公開を義務づけられておらず、また、これらの情報も貸借対照表のいわゆる中小項目の場合と同様の理由で当該法人の正当な利益を害すると認められる情報である。
本件対象公文書は、物件関係の入札参加資格の登録を得るために提出された書類に過ぎず、これらの情報を開示することで人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるほどの高い公益性は認められない。
したがって、実施機関が本件対象公文書中の非開示とした部分は、条例第7条第3号の法人に関する情報であると認められ、これらの部分を非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会からの意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
実施機関は、「競争入札参加資格審査申請書及び添付書類は、県が入札による物件等の買入れを行なう前に契約が適正に履行されるように予め申請者(法人)の経営状況を事前に審査する必要性から、申請者から書類を取得するものである。」と説明しているが、これらの手続きは、実際には申請者が入札参加資格を得るために行なわれるものに過ぎないのであって、それ自体に開示すべき高い公益性があるとまでは言えない。しかし、企業が添付書類を含んだ申請書を県に提出し、公共的な事業を受注するための入札参加資格を取得する利益を得る以上は、企業が公的にもその責任を負うという観点から、法人情報であってもできるだけ公にすることが望ましい。そのためには、実施機関は、申請書を受け付ける際に、予め申請者に決算報告書の基本的な書類である「貸借対照表」及び「損益計算書」について開示の是非を確認しておくなどの方策を講じることが望まれる。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
16. 5.25 | ・諮問書の受理 |
16. 5.26 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 6.18 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 6.25 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16.10.19 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第208回審査会)
|
16.11. 9 | ・審議 ・答申 (第210回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。