三重県情報公開審査会 答申第186号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示するべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年3月18日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「工業団地造成工事に関する開発許可についての全ての文書」の開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年3月30日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「事業主の残高証明書」(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○条例第7条第3号(法人情報)に該当
本決定において非開示とした銀行の残高証明書は、法人の経理上の内部情報であり、開示することにより、競争上の地位その他正当な利益を害することから本号に該当するとして非開示とした。
5 異議申立て理由
開発事業の成否に関して重要な要素となる資金計画の裏付けとなる会社の決算報告書と共に添付された銀行預金残高証明書を開示しながら、複写申請をしたところ非開示であるとして写しを交付しなかったことは文書隠しに当る。
また、工事施工業者の経営実態を表示する文書を添付させていないことは、未だ未完成で工事施工者が変更している現状からみてもずさんな審査であったことが分り、本件開発に関する県の放置状態に問題があり、開示対応に不満である。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 実施機関が、開示の最中に、開示のため提示した公文書の中から本件対象公文書を抜き取り、開示及びその写しを交付しなかったことについて
異議申立人は、本件対象公文書を開示しながら、複写申請をしたところ非開示であるとして写しを交付しなかったことは文書隠しに当たると主張する。しかし、本決定において作成された公文書部分開示決定通知書には、非開示にする部分として本件対象公文書が記載されており、本件対象公文書の存在自体は明記されているので、本件対象公文書が存在することは、開示を請求した異議申立人でも知り得ることである。したがって、後ほど具体的に検討するが、仮に本件対象公文書全体を非開示とするべきと判断し得る場合であれば、当該公文書部分開示決定通知書の記載内容に格別問題はない。ただし、実施機関が当審査会に説明するように、開示の際、実施機関は、誤って、開示する公文書の中に本件対象公文書を混在させたまま異議申立人にこれらの公文書を提示して閲覧し得る状態に置き、異議申立人が本件対象公文書の閲覧を開始して間もなく、異議申立人が本件対象公文書の内容を実際に閲覧する直前にそのことに実施機関が気付き、急遽開示する公文書の中から引き上げたという事態を引き起こしたことには、その原因として、実施機関の杜撰な対応があったと言わざるを得ない。しかしながら、このことをもって、直ちに、条例第7条により一定の利益を保護するために開示しないことができるとされている情報(非開示情報)を含む公文書を開示する理由にはならない。本件対象公文書を開示するには本件対象公文書に非開示情報が含まれるか否かを検討する必要があり、以下のとおり判断する。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
実施機関は、本件対象公文書全体を非開示とする理由として、本件対象公文書が条例第7条第3号に掲げる非開示情報に該当することを挙げているので、まず、本件対象公文書が同号に該当するか否かを検討する。
同号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。 しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
まず、本件対象公文書に記載されている情報を個別に検討すると、記載されている情報のうち、「証明書を発行する銀行名」、「証明書を発行する銀行の印影」「取引の種類」「金額」「合計金額」「摘要」(以下「銀行名等の情報」という。)は、当該法人と金融機関との具体的な取引関係及び資金関係に関する内部管理情報であり、銀行名等の情報を開示することにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められることから、銀行名等の情報は同号本文に該当する情報であると言わざるを得ない。
しかし、銀行名等の情報以外の情報のうち、「証明を受ける法人の所在地及び郵便番号並びに名称」は本決定において他の公文書により既に開示済みであり本件対象公文書において非開示とする理由がなく、また、銀行名等の情報以外の情報のうち、「証明書の標題」、「証明書の発行年月日」、「証明する残高の現在年月日」、「証明の種類」及び「合計金額の左右に押捺された銀行の従業員の印の印影」は、これらの情報を開示しても、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。よって、銀行名等の情報以外の情報のうち、「証明を受ける法人の所在地及び郵便番号並びに名称」、「証明書の標題」、「証明書の発行年月日」、「証明する残高の現在年月日」、「証明の種類」及び「合計金額の左右に押捺された銀行の従業員の印の印影」(以下「法人所在地等の情報」という。)は、同号本文には該当しない。したがって、本件対象公文書の中には、非開示情報に該当しない情報が含まれていたことになり、この限りで、本件対象公文書には非開示情報に該当しない情報が含まれているにもかかわらず、本件対象公文書全体が同号に該当するとして非開示とした実施機関の判断には誤りがある。
次に、異議申立人は、銀行の預金残高証明書は開発事業の成否に関して重要な要素となる資金計画の裏付けであるので開示するべきであると主張する。また、異議申立人は、本請求に係る「工業団地造成工事」に関連して、長期間の放置により土砂災害など様々な災害を引き起こす危険があるとも主張する。確かに、工業団地造成の計画が長期間放置され様々な災害を引き起こす危険があると予想される場合には、条例第7条第3号本文に該当する情報であっても、当該危険を予防、回避又は除去するために必要な範囲で、公益のため開示するべき場合がある。しかし、たとえ本件対象公文書に記載されている銀行の預金残高に関する情報を開示しても、申請前の特定の時点の特定の銀行における申請者の預金の残高を知ることができるに留まり、この情報を開示することが当該危険を予防、回避又は除去するために効果があるとは認め難い。さらに、当審査会が実施機関に災害防止措置について説明を求めたところ、現地には既にきちんと調整池が設置され、災害を引き起こすほどの危険は予想されない状況にあるとの説明があったので、このことも考慮すれば、本件対象公文書に記載された銀行名等を条例第7条第3号ただし書イ又はロの規定により敢えて開示する必要性は認められない。
なお、法人所在地等の情報のうち、「合計金額の左右に押捺された銀行の従業員の印の印影」(以下「従業員の印影」という。)は、個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものであるので、条例第7条第2号本文に掲げる情報(個人情報)に該当すると認められるが、従業員の印影は、同号ただし書に掲げる情報にも、また、前述の法人所在地等の情報について検討した際に示した理由と同じ理由で、同号ただし書ロに掲げる情報にも該当しない。したがって、従業員の印影は非開示情報であると認められる。実施機関は本件対象公文書の全体を非開示としたため、本決定に係る公文書部分開示決定通知書では、従業員の印影が個人情報に該当することには触れられておらず、結果として、本事案の争点にならなかったことに問題はあるものの、当審査会としては、従業員の印影は、本来非開示とするべき個人に関する情報であると認められることから、結果として実施機関が従業員の印影を非開示とした点は妥当であったと判断せざるを得ない。
以上により、当審査会は、実施機関が本件対象公文書の全体を非開示とした決定は妥当でなく、本件対象公文書に記載されている情報のうち、銀行名等の情報及び従業員の印影を除く部分は開示するべきであると判断する。
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審 査 会 の 処 理 経 過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
16. 5.19 | ・諮問書の受理 |
16. 5.24 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 5.26 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 6. 1 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16.10. 1 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第207回審査会)
|
16.11. 5 | ・審議 ・答申 (第209回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。