三重県情報公開審査会 答申第185号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は理由附記に不備の点は認められるものの、非開示とした情報の判断は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年1月16日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定法人の処分場の増設にかかわる事前協議の事項についての一切の情報」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年1月29日付けで行った公文書部分開示決定の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「業務報告書」(以下「本件対象公文書1」という。)、「特定法人の最終処分場設置にかかる三重県産業廃棄物処理指導要綱第9条の規定に基づく事業計画周知について(伺い)」(以下「本件対象公文書2」という。)、「事業計画周知実施結果報告書」(以下「本件対象公文書3」という。)、「現地居住者確認調査結果報告書の提出について」(以下「本件対象公文書4」という。)である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
今回非開示とした情報は、廃棄物処理施設の増設に関して、個人として同意しているか否かに関した情報であり、廃棄物処理施設にかかる紛争が多発している現状を考えると、極めて秘匿性を要する個人情報である。一方、これにかかる情報は「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている」ものではなく、また、「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護する」ため何らかの対応をとる必要があるとしても、当該個人情報を公にしなければその対応をとれないというものではなく、「公にすることが必要であると認められる情報」とする積極的な理由もない。
5 異議申立て理由
産業廃棄物処理施設の設置許可の事前協議において、周辺住民の同意は重要な部分であり、その同意書が法的に適正な手続で取得されたものか知る必要がある。当該施設の性格から周辺住民の健康・生活等に及ぼす影響があり、条例第7条第2号の但書きに該当するから、公益上開示すべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシ-等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシ-保護のため非開示とすることができる情報として、個人に関する情報であって個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めている。 しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシ-保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が個人情報として非開示とした部分は、別表のとおりである。実施機関はこれらの情報は秘匿を要する情報であり、公益上の理由により開示すべき情報にも該当しないと主張する。
ところで、当審査会において、インカメラ審理を行ったところ、実施機関が非開示とした部分の中には、例えば、氏名ではなく建物の種類など、特定の個人が識別され得るとは言いがたい情報が含まれているにもかかわらず、このことが公文書部分開示決定通知書に明記されていない。この点について実施機関の決定に緻密さを欠いた対応があったと言わざるを得ない。しかしながら、当該非開示とした部分は、これに関連して、特定の建物の現況についてかなり詳細かつ具体的な情報が記述されており、これらが開示されることにより、特定の個人を特定できるわけではないが、犯罪被害に遭うなど、ある個人の財産上の権利利益を侵害するおそれがあるとする実施機関の主張にも理由があると認めざるを得ず、これらの情報も個人情報に該当すると認められる。
なお、実施機関が個人情報として非開示とした情報の中に、法人の名称や所在地など個人情報とは認められないものも一部認められるが、これについては、項を改めて検討を行なうこととする。
次に、異議申立人は、廃棄物処分場増設の事前協議において、住民の同意は重要な部分であるから、それらが適正な手続で取得されたかどうかを知る必要があり、また、公益上開示すべき情報であると主張する。確かに、産業廃棄物処理施設の性格上、周辺住民の生命・身体・健康等に影響を与えるおそれがある一方で、当該施設の増設に際して同意書が不正に取得される可能性があり、そのため情報公開制度を通じて住民がチェックを行えることが必要であることから、個人情報といえども公益上開示すべきであるとする異議申立人の主張も理解できないわけではない。しかしながら、誰が同意するかしないかという情報は、非常にプライバシー性の高いものであって、個人の意思表示の問題であるから最大限保護されなければならないものである。実施機関が説明するように、同意書に不正の疑いがある場合は、住民が実施機関に対して再調査を申し立てれば、実施機関自らが不正の有無を調査することになっており、不正をチェックする手段が別途存在する以上、必ずしも情報公開制度で第三者である住民が個人情報を収集してチェックしていく方法を認める必要性は低い。
したがって、実施機関が別表に掲げる情報を非開示とした決定は妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
前述のように、実施機関が個人情報として非開示とした情報の中には、法人の名称や所在地など個人情報とは認められないものが一部認められる。これらの情報は、法人に関する情報であるので、これらの情報が条例第7条第3号に掲げる情報(法人情報)に該当するか否かを以下のとおり検討する。
同号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
当審査会から実施機関に説明を求めたところ、増設を計画されている施設は産業廃棄物処理施設であり、その施設の性格とそれを取り巻く状況から、開示されることにより、同意を求める対象となる法人の名称や所在地など、特定の法人を識別し得る情報が明らかにされると、当該法人に対して不買運動などの営業妨害等の悪影響が及ぶことが実際に可能性として考えられるので、法人の正当な利益を害すると認められる。このことから、公文書部分開示決定通知書に記載された非開示理由に不備はあるものの、これらの情報は法人情報に該当する。
また、個人情報の該当性で述べたように、他の方法で同意書のチェックが行える以上、当該非開示情報が公益上開示すべきであると認められる情報であるとは言えないため、非開示が妥当である。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会からの意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、本件事案については実施機関の事務処理に不適切な点が見受けられることから、当審査会として次のとおり意見を申し述べる。
今回争いとなった部分は、個人情報のみ該当するとの理由で一律に非開示としているが、内容によっては、法人情報に該当する情報と認められる部分も見受けられ、決定の際の事務手続きに緻密さを欠いた対応であったと言わざるを得ない。
実施機関は、情報公開制度への信頼を確保するためにも、非開示の際は理由附記を求めている条例第15条第1項の趣旨を尊重し、条例の適正な運用に努めるべきである。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別表
対象公文書 | 非開示とした部分 | |
---|---|---|
対象公文書1 | 出席者名簿 | 地区水利関係者の連絡先電話番号 |
対象公文書2 | 同意取得対象外リストに係る現地調査 | 氏名等、住所、備考欄中の個人の氏名及び住所 |
現地調査に係る写真 | 撮影されている物件の所有者等氏名等 | |
現地居住者確認継続調査結果一覧表 | 氏名等 | |
対象公文書3 | 周知の方法、実施年月日、実施場所を記載した文書 | 氏名 |
同意書等の取得状況 | 氏名、所在地、同意書取得の有無、 同意書等の取得年月日、同意書等の名称 |
|
同意書等の取得対象外とした建物等 | 氏名、所在地 | |
同意書 | 氏名、住所、印影 | |
対象公文書4 | 現地居住者確認調査結果報告書の提出について | 氏名等 |
現地居住者確認調査結果報告書 | 氏名等、住所、調査結果中の建物等の利用状況 | |
同意書 | 氏名、住所、電話番号、印影 |
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
16. 3. 8 | ・諮問書の受理 |
16. 3.11 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 4. 5 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 4. 7 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16. 9.17 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第205回審査会)
|
16.10. 1 | ・審議
(第207回審査会)
|
16.11. 5 | ・審議 ・答申 (第209回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。