三重県情報公開審査会 答申第178号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、審査会が非開示妥当と判断した部分(実施機関は、決定の際に対象となる公文書の件名を具体的に明示すべきであった。)を除き、開示すべきである。
実施機関の行なった不存在決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年11月26日付け及び同年11月28日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下」条例」という。)に基づき行った」ごみ固形燃料発電所事故調査専門委員会・第7回議事録と資料・第6回資料・第1回から第7回までの議事録を作るための審議を録音したテープ等」及び」ごみ固形燃料発電所事故調査専門委員会が現地調査・関係機関ヒアリング・県外施設調査の際に取得した一切の情報」の開示請求に対し、三重県知事(以下」実施機関」という。)が平成15年12月8日付けで行った公文書非開示決定及び公文書不存在決定並びに平成15年12月10日付けで行った非開示決定の取り消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
平成15年12月8日付け公文書非開示決定(以下「A決定」という。)で請求の対象公文書として特定した「第7回の資料」は、最終報告書について審議を行なうための案であり、報告書として確定する前の情報であることから事務事業情報に該当するため非開示とした。
平成15年12月8日付け公文書不存在決定(以下「B決定」という。)では、「第7回議事録」及び「第1回から第7回までの議事録を作るための審議を録音したテープ等」(以下「録音テープ等」という。)について、委員への確認用原稿の作成が終了した時点でその都度消去しており存在しないため、不存在とした。
平成15年12月10日付け公文書非開示決定(以下「C決定」という。)では、「ごみ固形燃料発電所事故調査専門委員会が現地調査・関係機関ヒアリング・県外施設調査の際に取得した一切の情報」について、事故調査にあたって、特に関係者の協力を得て早急に資料等の提出を求めた経緯から、正確性や客観性の確認も十分ではなく、その中には事故の当事者責任に係る部分もあることから、今後の三重ごみ固形燃料発電所の安全対策を進めるうえで支障が出るおそれがあり事務事業に該当するため非開示とした。
4 異議申立て理由
「第7回の資料」が確定前の案であっても、最終報告書が公表されているので、未確定であるとの前提で開示すべきである。実施機関が存在しないとした「録音テープ等」については、毎回消去したとしても、最後の審議は残されているはずであるから不存在の判断は誤りである。「ごみ固形燃料発電所事故調査専門委員会が現地調査・関係機関ヒアリング・県外施設調査の際に取得した一切の情報」についても、事務事業情報に該当すると認められるには実質的で具体的な支障があることが要求されるから、情報公開審査会でのインカメラ審理で開示の可否を判断すべきである。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。 当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
なお、B決定については、実施機関が不存在とした「第7回議事録」について後日不存在決定の一部を取り消して開示決定を行ない、これに係る諮問の取下げを行なったため、当審査会としては、B決定のうち「録音テープ等」の不存在についてのみ判断を行なうものとする。
(2) A決定の妥当性について
請求の対象公文書である「第7回の資料」は「最終報告書(案)」と「資料」で構成されており、実施機関は、これらは最終報告案を審議するうえでの検討資料であり、いまだ確定していない情報もあることから事務事業情報に該当すると主張している。これに対し、異議申立人は、最終報告書が既に公表され、会議録が開示されている以上、たとえ未確定な情報が含まれていても、それを前提として開示し、審議の過程を明らかにすべきであると主張している。
確かに、最終報告書が既に公にされている以上、「最終報告書(案)」と最終報告書が整合しないことを理由とした非開示の判断は誤りであるとした異議申立人の主張は理解できなくもない。
しかしながら、「最終報告書(案)」については、当審査会でインカメラ審理をしたところ、最終報告書までにかなりの部分で修正がなされていたことが認められる。 限られた時間の中で作成を求められ、委員の間でも意見の分かれるようなたたき台である資料であったからこそ、開示することにより十分な審議ができなくなることが想定される。
このような審議検討段階のたたき台である「最終報告書(案)」が公開されることで、委員との信頼関係を失い、今後三重ごみ固形燃料発電所の安全対策を進めるうえでの支障となるとする実施機関の主張には理由があると認められることから、非開示が妥当である。
次に「資料」についてであるが、当審査会でインカメラ審理を行なったところ、県のホームページ上で報告されているものと内容がほぼ同一であることから、当該公文書を開示することにより何らかの支障が生じるとは考えにくく、事務事業情報に該当するとする実施機関の主張は認められないことから、開示すべきである。
なお、実施機関はA決定において公文書の件名を「第7回の資料」と記載するのみで、「第7回の資料」が「最終報告書(案)」と「資料」とで構成されていることを明示しなかったが、このように請求の対象公文書の件名を概括的に表示することは、請求者が不服申立てや訴訟を行なう際に正当な主張を行う妨げとなり、救済の道を閉ざすことになりかねない。実施機関は、A決定を行なう際に、公文書の件名を具体的に明示すべきであった。
(3) B決定の妥当性について
異議申立人は実施機関が行った当該決定の取消しを求めているが、異議申立ての主旨は、実施機関が審議の際録音したテープ等を保有していないとして不存在とした点であると認められる。
異議申立人は、その都度消去されているとしても、最後の審議内容は録音されているはずであると主張している。
しかしながら、「録音テープ等」とはICレコーダーであり、環境森林部全体の共用物品であることから、最終の第7回の審議を録音したものについても、他の業務等で上書きして消去されたとする実施機関の説明に不自然な点があるとは認められず、公文書が存在しないとする実施機関の当該決定は妥当であると言わざるを得ない。
(4) C決定の妥当性について
請求の対象公文書は、「ごみ固形燃料発電所事故調査専門委員会が現地調査・関係機関ヒアリング・県外施設調査の際に取得した一切の情報」と認められる。
これについて、実施機関は、第三者から聴き取った内容が当事者の事故責任に関わる部分があることから、当該公文書を開示すれば相手方との信頼関係を害して、今後同様の聴き取りができなくなるおそれがあり、また、その一部は捜査押収物でもあることから警察の捜査等に支障が生じ事務事業情報に該当すると説明している。
これに対し異議申立人は、事実を記録した文書などは開示しても問題ないはずで、全面非開示はありえず、実施機関はもっと精査して、実質的で具体的に支障のある部分を除き開示すべきであると主張した。
ところで、当決定において非開示とした公文書の件名を特定していないことは、開示請求者の今後の訴訟等での争う途を閉ざすことにもなり、この点について、実施機関は公文書の件名を特定するか、または件名すら公開できないのであればその理由を明確にすべきであったと言わざるを得ない。
しかしながら、当該公文書はその原本が押収されているものや、事故調査専門委員会としての立場で、相手方の任意の協力で事情聴取した内容を含んだものもあり、これらを開示することで、相手方の任意の協力を得られなくなるおそれがあり、今後必要不可欠となる三重ごみ固形燃料発電所の安全対策を進めるうえで支障になると認められ、この点で実施機関の説明には理由があると言わざるを得ない。
したがって、非開示とした公文書の件名の特定について不適切な対応があったものの、非開示とした実施機関の決定は妥当である。
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16. 3. 1 | ・諮問書の受理 |
16. 3. 4 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 3.23 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 3.24 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16. 7.13 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第201回審査会)
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16. 8.17 | ・審議
(第203回審査会)
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16. 9.28 | ・審議 ・答申 (第206回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。