三重県情報公開審査会 答申第177号
答申
1 審査会の結論
実施機関が「他工区でのVE提案に係る文書」及び「他工区での比較検討の文書」を不存在とした判断は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年1月19日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「中勢沿岸流域下水道事業志登茂、安濃幹線、河芸幹線管渠の工事に関する全ての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年3月2日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取り消しを求めるというものである。
なお、異議申立人は、本決定の開示時に「VE提案に係る文書」の写しの交付を求めたところ、実施機関は、安濃幹線(第1工区)管渠工事に係る「VE提案書」及び「VE提案採否通知書」の写しを交付した。その際、異議申立人は、「他工区でのVE提案に係る文書」及び「他工区での比較検討の文書」の提示を求めたが、実施機関から口頭で受けた「他工区における該当文書は存在しない。」との説明が不当であるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、不存在が妥当というものである。
VE提案とは、「設計図書に定める工事目的物の機能、性能を低下させることなく、請負代金額を低減することを可能とする施工方法等に係る設計図書の変更について、契約締結後に受注者が発注者に行なう技術提案」を言うが、中勢沿岸流域下水道事業(志登茂川処理区)においては、安濃幹線(第1工区)管渠工事以外に受注者からのVE提案は無く、「他工区でのVE提案に係る文書」は存在しない。また、安濃幹線(第1工区)管渠工事におけるVE提案の対象となった工種(高圧噴射攪拌工法による底盤改良工)と同様の工種は、志登茂川幹線(第2工区)管渠工事及び志登茂川幹線(第3工区)管渠工事において実施しているが、両工区とも安濃幹線(第1工区)管渠工事での提案前に既に施工済みである。このため、同工事で提案のあった工法との比較検討は行なっておらず、「他工区での比較検討の文書」も存在しない。
4 異議申立て理由
対象する文書が無いという回答には納得できない。対象工事区間における、底盤地盤改良工法のVE提案による工法と設計での工法との費用比較を行なったところ、「VE提案工法の方が高価となったため採用しなかった。」と実施機関が説明したため、その費用比較した根拠となる文書の開示を求めたが、「それは、メモ書き程度で今は存在しない。」としたのが不当である。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
なお、本件事案について、異議申立人は実施機関が行った本決定の取り消しを求めているが、異議申立ての主旨は、実施機関が対象公文書として特定した中勢沿岸流域下水道事業の幹線管渠工事の11の工区の内、既に開示を行なっている安濃幹線(第1工区)管渠工事の「VE提案に係る文書」以外の「他工区でのVE提案に係る文書」及び「他工区での比較検討の文書」に関して不存在とした点であると認められる。
よって、当審査会は、それら不存在とした点について情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下に判断する。
(2) 不存在とした判断の妥当性について
異議申立人の主張によれば、受注者か・逕ュ注者(実施機関)へ提出されるVE提案は、審査の結果、その提案内容が採用された場合には工事費の縮減に繋がるほか、受注者の工事成績の加点要素となるなどのメリットが存在するにもかかわらず、安濃幹線(第1工区)管渠工事の「VE提案に係る文書」以外に「他工区でのVE提案に係る文書」及び「他工区での比較検討の文書」は存在しないとの実施機関の回答には納得できないとしている。県が契約VE方式による入札を実施して契約を行なった以上、発注者から受注者に対して積極的にVE提案を求める必要があると主張している。また、県土整備部職員が契約後VEという新契約方式に対する無知と無視、あるいは不作為が為されたかが本件不服申立てによって明らかにされなければならないとも主張している。
他方、実施機関は、安濃幹線(第1工区)管渠工事以外の工事の受注者からVE提案は無く、「他工区でのVE提案に係る文書」は存在しないと主張している。また、同管渠工事におけるVE提案の対象となった工種と同様の工種は、志登茂川幹線(第2工区)管渠工事及び志登茂川幹線(第3工区)管渠工事にて実施しているが、両工区とも安濃幹線(第1工区)管渠工事での提案前に既に施工済みであり、同管渠工事で提案のあった工法との比較検討は行なっておらず、「他工区での比較検討の文書」は存在しないとも主張している。
確かに県が契約後VE方式による入札を実施して契約を行なった以上、発注者から受注者に対して積極的にVE提案を求める必要があるとの異議申立人の主張は理解できなくはない。しかし、発注者が工事費や工期の縮減に繋がるVE提案を求めるよう受注者に何らかの働きかけを行なうなどの努力をすることは望ましいことではあるが、その努力を怠ったからと言って責められるべきこととまでは言えない。
さらに、三重県契約後VE実施要領によれば、受注者は、VE提案の対象工事とされた工事であってもVE提案を行なうことを義務付けられているものではなく、「他工区でのVE提案に係る文書」及び「他工区での比較検討の文書」について不存在であるという実施機関の主張に不自然な点は認められない。
したがって、本請求に該当する公文書が存在しないとする実施機関の判断は妥当であると言わざるを得ない。
(3) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16. 3.22 | ・諮問書の受理 |
16. 3.26 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 4.21 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 4.23 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16. 7.13 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第201回審査会)
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16. 8.17 | ・審議 ・答申 (第203回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。