三重県情報公開審査会 答申第175号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年11月26日付け、平成15年12月19日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「紀勢町特定地番と奥川に関する土地境界確認申請の現在までの経緯が確認出来る書」等の開示請求 (以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成15年12月10日付け(平成15年11月26日付け本請求に対して決定したもの)、平成15年12月22日付け(平成15年11月26日付け本請求に対して追加決定したもの)、平成16年1月5日付け(平成15年12月19日付け本請求に対して決定したもの)で行った公文書部分開示決定(以下「部分開示決定」という。)及び平成16年1月5日付け(平成15年12月19日付け本請求に対して決定したもの)で行なった公文書不存在決定(以下「不存在決定」という。)の取り消しを求めるというものである。
なお、上記4つの決定について異議申立人から複数の異議が提起されていると同時に平成15年12月10日付け部分開示決定以降の公文書の開示については、現在まで開示には至っていない。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、上記決定が妥当というものである。
境界立会経過報告関係書類等にて異議申立人の氏名(開示請求者に同じ)を開示したのは、異議申立人自身からの境界確認申請であり、仮に本人から三重県個人情報保護条例に基づき開示を求められた場合は開示することになるからである。
また、他を非開示としたのは、異議申立人本人の情報ではなく、特定の個人が識別される情報であることから、条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして非開示とした。
上記関係書類等には異議申立人以外の個人情報(立会人等)も含まれているため、原本ではなく個人情報を黒塗りした写しを開示した。原本の開示を求めるのであれば、事前に非開示部分をテープ等で覆う必要があり当日は時間的に余裕がなかった。
視聴に対しては視聴に該当するテープ等の記録は作成していないので不存在であり、全て紙文書で記録している。
さらに平成15年12月22日付け部分開示決定で特定された文書は、当初の部分開示決定の開示を実施する日(平成15年12月12日)に異議申立人との話し合いの中で特定されたものであり、条例第14条の開示決定の期限内に決定の延期処分をすることは不可能である。仮に当初の部分開示決定を取り消し、再請求を行なったとしても実質的に意味のないことであって、異議申立人が求めている情報を開示することは情報公開制度の本旨にも合致するものであるとともに、この処分により異議申立人の権利、利益が直接侵害されているわけでもないと思料されることから追加で部分開示決定を行なった。
開示に関しては、平成15年11月26日付け本請求に対する2つの部分開示決定に対する異議が解決されなければ、平成16年1月5日付け部分開示決定の開示には応じないと繰り返し主張され、文書開示に至っていない。さらに許認可工事に伴う指導等は口頭で行い工事の完了届は未提出のため、現地立会は行なっておらず文書は不存在である。
その他、「境界確認請求者への通知と、その前と後の経緯行為が確認できる書」は、境界確定に至っていないため、文書は不存在である。
平成15年12月9日付け知事宛文書は受理しておらず、「救済契約書」名の公文書も不存在である。
さらに「特定の法人が行なった工事内容が確認できる書」は、三重県公文書整理保存規程に定められている県単河川事業の実施設計等の文書の保存期間が5年であり、既に廃棄していることから不存在である。
4 異議申立て理由
異議申立人は、以下の決定に対して異議申立を提起した。
(ア)平成15年12月10日付け部分開示決定
1.請求者本人の氏名を開示したのは、違法である。請求者本人の氏名を開示したことが妥当であれば、その他の境界立会関係者の氏名も合わせて開示すべきである。
2.公文書の写しのみを開示し、原本は一切開示しない。視聴に対しても実施機関は何も回答しない。
(イ)平成15年12月22日付け部分開示決定
1.平成15年11月26日付け開示請求について、期間内(平成15年12月10日)までに処分が行なわれず、条例第14条の延期通知もされていない。
(ウ)平成16年1月5日付け部分開示決定
1.数回にわたる請求に対して、原本の縦覧は一度もない。視聴において回答を拒めば開示を行なったとはいえないことから、条例第1条に規定する目的が達成されていない。
(エ)平成16年1月5日付け不存在決定
1.建設部職員と異議申立人が許認可の申請内容が適正か確認するため、現地確認を行なっている。目的を持って出張するには、上司の承諾は必要不可欠であり、その旨を示す文書及び報告書は当然作成されるべきである。
2.建設部職員と現地許可地の確認を行なったところ、許可申請工事は完了していることから許可条件に示す工事届出書等は存在するはずである。
3.占用許可を示す表札は現地に付設している。これは県職員の立会があったことを示していることから、現地立会行為を示す何らかの文書は存在しなければならない。
4.三通の境界確認申請を県が受理し、現地確認行為がある。境界立会経過報告書による決裁書が二通存在しているから、不存在処分の取り消しを求める。
5.平成15年12月9日付け知事宛て文書は、県庁に提出していることから不存在処分の取り消しを求める。
6.農地の救済を行なう旨を示す公文書は、複数存在するので不存在決定の取り消しを求める。
7.保存期間が経過し廃棄処分した旨の理由が記載されているが、廃棄したとする証拠は開示されていない。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、4 異議申立て理由を以下のように分類したうえで当審査として判断する。
- ○条例第7条第2号(個人情報)に関するもの
(ア)1. - ○公文書不存在決定に関するもの
(エ)1.~7. - ○公文書の部分開示に係る追加決定に関するもの
(イ)1. - ○公文書における原本の開示に関するもの
(ア)2.(ウ)1.
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシ-等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシ-保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシ-保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本号(個人情報)に該当するとして非開示としたのは、「境界立会経過報告」、「境界立会者名簿」、「境界確認申請書」に記載されている異議申立人の情報を除く申請者の住所、氏名、印影である。
これらの情報は、明らかに特定の個人が識別される情報であり、本号に該当すると認められる。
しかし、異議申立人は、開示された文書中、異議申立人本人の氏名を開示したのは違法であって、異議申立人本人の氏名を開示したことが妥当であれば、その他の境界立会関係人の氏名も合わせて開示すべきであると主張している。
本来、開示請求者本人の情報であっても非開示とすべき氏名等を含む個人識別情報を実施機関が一部の文書において開示した事務処理は不適切であると言わざるを得ないが、自己の氏名が開示されているからといって他の申請者の氏名も同様に開示すべきであるとの異議申立人の主張は認められない。またこれらの情報を開示すべき公益性があるとまでは認められず、本号ただし書きにも該当しないため、非開示が妥当である。
(4) 公文書不存在決定について
異議申立人の主張は、4 異議申立て理由(エ)1.~7.に記載したとおり不存在であるはずがなく、実施機関の説明は信用し難いものである点であると認められる。
実施機関の説明によれば、「河川工事着手届」は提出されており、平成15年12月10日に開示決定している。許認可工事に伴う指導等は口頭で行っており、文書は不存在であり、「工事の完了届」は未提出のため、現地立会は行なっておらず文書は不存在である。また、境界確認申請による現地確認行為に関する「境界確認請求者への通知と、その前とその後の対応行為が確認できる書」については、境界確認の確定に至っていないことから文書は不存在であるとしている。さらに、「平成15年12月9日付け知事宛文書」も受理しておらず、「救済契約書」名の文書も不存在であるとしている。その他、「特定の法人が行なった工事内容が確認できる書」は、三重県公文書整理保存規程に定められている県単河川事業に関する実施設計等に関する文書の保存期間が5年であることから既に廃棄済みであるとしている。
これら不存在理由に関する実施機関の説明が不十分であるとは言えず、不存在決定時点において、文書を作成、保有していないという説明に不自然な点があるとは認められないことから、本請求に係る公文書が存在しないとする実施機関の主張は妥当であると言わざるを得ない。
(5) 公文書の部分開示に係る追加決定について
実施機関は、非開示理由説明要旨に記載のとおり平成15年11月26日付け本請求に対して平成15年12月10日付けで部分開示決定後、平成15年12月22日付けで追加して部分開示決定を行なったものである。実施機関の説明によれば、これら追加して決定を行なったのは、当初部分開示決定(平成15年12月10日付け)の開示日(平成15年12月12日)に異議申立人との話し合いの中で特定されたからである。
一方、異議申立人の主張は、実施機関が追加決定を行なったのは、平成15年11月26日付け開示請求に基づくものであって、条例上の15日以内(平成15年12月10日)に処分が行なわれず、条例第14条の延期通知もされていない点であると認められる。
確かに開示に至る一連の手続きを厳格に条例に照らし合わせれば、実施機関の追加決定は理由もなく延長通知もされていないなど事務手続き上の不備があるとの異議申立人の主張は、十分理解できる。
しかしながら、実施機関と異議申立人の対象公文書の特定作業が十分に協力して行なわれたとは言い切れないが、実施機関の説明を聞く限りにおいては、条例の趣旨に沿って異議申立人が知りたい情報を遅滞なく開示しようとする姿勢が見受けられる。
本件の場合、仮に当初の部分開示決定を取り消し、改めて決定を行なったとしても事務処理に要する時間が経過するのみであって、異議申立人にとって結果的に必ずしも最良な方法であるとは考えにくい。
よって、実施機関が当初の決定を取り消さずに追加決定した事務処理に形式的な不備はあるものの、異議申立人との話し合いの中でさらに文書特定を行なうために時間を要したものであることから、当該決定を直ちに取り消すべき程度の手続き上の誤りがあったとまでは言えない。
(6) 公文書における原本の開示について
異議申立人は、今まで数回にわたる本請求に対して、当初の開示から公文書の写しのみを開示し、原本は一切開示せず視聴に対しても実施機関は何も回答しない。開示時に視聴において回答を拒めば開示を行なったとはいえないことから、条例第1条に規定する目的が達成されていないとも主張している。
確かに原本の開示が原則であるが、条例第18条では、「その他正当な理由があるときは、その写しにより、これを行なうことができる。」としている。
本件のような部分開示の場合は、仮に非開示情報をテープ等で覆ったとしても、原本を閲覧することにより非開示部分の内容が知れるおそれがあることから、写しによる開示はやむを得ない
(7) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会からの意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、本件事案について次のとおり意見を申し述べる。
上記5(6)で写しによる開示はやむを得ないと判断したが、本件のような異議申立人が開示を受ける毎に原本での閲覧を強く求めている場合、事務処理に伴う労力を考慮したとしても原本にて閲覧が可能なものは、出来る限り原本での開示が望まれる。
さらに、情報公開制度への信頼をより一層確保する意味においても、実施機関、開示請求者の双方が公文書の特定に互いに協力しながら、情報公開制度の運用が円滑に行な われるよう努めるべきである。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
16. 2.10 | ・諮問書の受理 |
16. 2.12 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 3. 1 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 3. 4 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16. 3.16 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 (第195回審査会)
|
16. 5.18 | ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第198回審査会)
|
16. 6.22 | ・審議 ・答申 (第200回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授(平成16年4月20日辞職) |
※委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授(平成16年5月1日任命) |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。
三重県情報公開審査会委員(平成16年6月1日以降)
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
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