三重県情報公開審査会 答申第172号
答申
1 審査会の結論
実施機関が当初の部分開示決定の一部を取り消したうえで行った部分開示決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年12月24日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「RDF事故に関しての監査委員の監査結果報告書と記録」の開示請求に対し、三重県監査委員(以下「実施機関」という。)が平成16年1月21日付けで行った部分開示決定の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「(1)予備監査復命書(定期監査:三重ごみ固形燃料発電所(企業庁及び環境部))(2)委員監査復命書(定期監査:環境部)(3)三重ごみ固形燃料発電所に係る監査提出書類(企業庁:平成15年11月10日付け)(4)監査委員会議結果について(伺い)(平成15年12月4日付け)」の添付書類(以下「本件対象公文書」という。)である。
なお、本件対象公文書である予備監査復命書の添付書類の御見積書・出来高認定書(11回分)については、当初の決定において、企業庁にて作成・取得され、かつ、県警に押収されたもののコピーであり、開示に支障があるとしている書類を、実施機関が開示することで、今後、監査対象機関の協力が得られにくくなり、監査の適正な執行に著しい支障をおよぼすおそれがあるとの理由で非開示(平成16年1月21日付け)としたが、後日、企業庁において開示(平成16年2月2日付け)されており、非開示情報に該当しなくなったので、改めて部分開示決定(平成16年3月9日付け)を行っている。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第2号(個人情報)、第7条第6号(事務事業情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
業者の従業員の氏名及び電話番号が個人に関する情報であり、開示することにより特定の個人が識別され、又は識別され得るため非開示とした。
なお、異議申立ての理由の中に、新聞報道で公表された個人名を非公開とすることは許されない旨の主張があるが、異議申立人が指摘するような事実はないと理解している。
(2)条例第7条第6号(事務事業情報)に該当
個人情報に該当するとして非開示としたもの以外の本件対象公文書については、知事(環境部)又は企業庁において作成・取得され、県警による押収を受けたもののコピーである。当該機関では、押収されたもののコピーについて非開示としており、本件対象公文書についても、開示することに支障があるとしている。このように、他の機関において開示に支障があるとする書類を実施機関において開示するならば、今後、実施機関が当該機関の監査を実施するにあたり、関係書類の提出の協力が得られにくくなるなど、正確な事実の把握を困難にするおそれがあり、監査の適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
したがって、条例第7条第6号のイに掲げる「監査、検査、取締り又は試験に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」の要件に該当することから、非開示とした。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤っているというものである。
今回の爆発事故についての原因解明と損害の回復について、県民に対して充分な説明責任を果たさなければならないにも関わらず、監査委員がこのように部分秘匿したことは、その職責を放棄したことと同様で、形式的な監査内容であることを自ら立証したものである。知事部局・企業庁の行政事務については、前知事は原則公開であることを明示しており、知事部局・企業庁の事務運営財務会計上の行為についての非違行為について是正を求めるべき立場から、専門的な事項について監査委員の及ぶところでないとしても、県民のえい知により解明、判断を求めるうえで全面公開すべきである。新聞報道で公表された個人名を非公開とすることは、刑事訴追についての配慮から県民に対して秘匿することは許されない。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。 当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
なお、本件異議申立ては、実施機関が平成16年1月21日付けで行った部分開示決定に対するものであるが、上述のとおり、同年3月9日付けで当初の部分開示決定を一部取り消し、改めて部分開示決定(以下「本決定」という。)を行っていることから、当審査会として本決定において一部取り消された非開示決定を除いた部分について判断するものとする。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシ-等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシ-保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシ-保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示としたのは、予備監査復命書の添付書類である「三重ごみ固形燃料発電所に係る監査提出書類」、「緊急連絡体制表(2件)」、「職場防衛隊組織表」に記載されている業者の従業員の氏名、電話番号である。
これらの情報は、明らかに特定の個人が識別される情報であり、本号に該当すると認められる。
一方、異議申立人は、新聞報道で公表されており、また、緊急連絡体制表はRDF発電所内にて第三者でも見られる状態にあるのだから、すでに公になっている情報であり、開示すべきであると主張しているが、新聞報道等で業者の従業員の氏名、電話番号が公表されている事実は確認されておらず、たとえ、事故発生時の緊急連絡先として所内に表示されているとしても、それが必ずしも何人も知り得る状態に置かれているとまでは言えない。これらの情報を開示すべき公益性があるとまでは認められず、本号ただし書きにも該当しないため、非開示が妥当である。
(4)条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(5)条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(事務事業情報)に該当するとして非開示としたのは、個人情報に該当するとして非開示とした上記4件以外の本件対象公文書のすべてである。
本号に該当する本件対象公文書はすべて環境部・企業庁が県警に押収された公文書のコピーであり、類似の事案で当審査会は、「これらは、押収された原本と同視し得るものと認められ、刑事訴訟法に規定する押収物として条例第48条(適用除外)に該当し、非開示決定に誤りがあったとは言えない。」と答申(平成16年2月26日付け答申第164号)したところである。本決定は、開示に支障があるとする対象公文書の原本を押収された当該機関の主張を、実施機関として正当な理由であると判断した結果によるものであると認められる。また、実施機関の独断で開示すると、当該機関との信頼関係を失い、今後、監査において本件対象公文書のような情報を含む、多くの情報が提供されなくなることが予想されることから監査事務の適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある、とする実施機関の主張は必ずしも否定できない。したがって、本号に該当すると認められ、非開示が妥当であると言わざるを得ない。
(6)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16. 1.28 | ・諮問書の受理 |
16. 1.30 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 2.24 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 2.24 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16. 3.12 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第194回審査会)
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16. 5.26 | ・審議 ・答申 (第199回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。