三重県情報公開審査会 答申第171号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、異議申立人が開示を求めなかった部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年1月27日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「自閉症・発達障害支援センターの厚生労働省協議書のうち職員に関すること」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年1月27日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
○条例第7条第2号(個人情報)に該当
本決定において非開示とした箇所は、自閉症・発達障害支援センター事業の委託先である民間施設の担当職員の氏名、年齢、学歴、職歴、取得資格、自閉症児(者)療育に関する経験であり、これらは個人に関する情報であって、また特定の個人が識別される情報であることから本号に該当するとして非開示とした。
4 異議申立て理由
当該支援センターの職員については、たとえ民間の職員であっても、自閉症に対する専門的知見があるという説明をする必要がある。職務遂行能力があると判断したのは県であるので、職員全員についての情報を、年齢・学歴の部分を除きすべて開示すべきである。
5 審査会の判断
本件の本決定について、異議申立人は、職員の年齢及び学歴については開示の是非を問わないとしている。そこで、当審査会では異議申立人が開示を請求した内容のうち、上記以外の情報について判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。 そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書における民間社会福祉施設の職員の「氏名」、「関係する職歴」、「取得資格(取得年月日)」、「自閉症児(者)療育に関する経験(事業名、職種、職務内容)」について、実施機関は、これらの情報は個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものであり、本号に該当し、非開示が妥当であると主張している。
確かに当該公文書における氏名等の記載内容は、一般的には個人に関する情報であり、特定の個人が識別され得る情報として非開示情報に該当すると判断した実施機関の主張も理解できないわけではない。しかし、本号本文の非開示情報に該当するか否かは、個人のプライバシーに関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限に配慮しつつも、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするという条例の目的に照らして解釈するべきである。この点で、民間の社会福祉施設の職員であるとの理由だけで本号本文の非開示情報に該当するとした実施機関の判断は、やや形式的な判断であると言わざるを得ない。そこで、当審査会は、実施機関が非開示情報とした情報が、上述の条例の目的に照らし開示して県の諸活動を県民に説明する責務を全うするため開示の必要性が高いと認められる情報であって、個人のプライバシーに関する情報をみだりに公開することにならない場合は、本号本文の非開示情報には該当しないと解する。
県が実施主体である当該支援センター事業は、県立施設及び県から当該事業の一部委託を受けた民間の社会福祉施設で、自閉症児とその家族への支援・相談を主な業務として運営されており、民間の社会福祉施設における当該支援センター事業の運営費には、国の補助金を財源の一部として県から当該社会福祉施設に支払われる委託料が充当されている。したがって、当該支援センター事業は県が直接実施する事業と同程度の公益性の高い業務であると認められる。
そして、本決定で実施機関が非開示とした部分は、県が厚生労働省へ国庫補助金の申請協議を行う際に必要な範囲の情報であり、むしろ、当該支援センターにはどのような資格・経験をもっている職員が支援・相談業務に携わっているかという情報は、当該支援センター事業の適正な運営を行う上で重要な情報であり、民間の社会福祉施設に事業の一部を委託している県としてその活動を説明する責務を全うするためにこれらの情報を開示する必要性は高いと認められる。また、本決定で実施機関が非開示とした情報のうち民間の社会福祉施設の職員の年齢及び学歴を除いた部分は、当該職員が当該支援センター事業の業務を行うために必要な資格、経験に関するものにとどまるため、これを開示しても個人のプライバシーをみだりに公にすることにはならないと認められる。
よって、本決定において本号本文の個人に関する情報であって特定の個人を識別し得る情報と解し非開示とした実施機関の判断は相当でない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16.2.10 | ・諮問書の受理 |
16. 2.12 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 2.16 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 2.16 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16. 2.24 | ・実施機関に対して意見書の送付 |
16. 3. 1 | ・実施機関からの非開示理由追加説明書の受理 |
16. 3. 4 | ・異議申立人に対して非開示理由追加説明書の送付 |
16. 3. 8 | ・異議申立人からの追加意見書の受理 |
16. 3.11 | ・実施機関に対して追加意見書の送付 |
16. 4.20 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第196回審査会)
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16. 5.18 | ・審議 ・答申 (第198回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。