三重県情報公開審査会 答申第170号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った部分開示決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年12月25日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「亀山市内の特定複合商業施設建設に係る都計法32条に基づく開発許可申請、協議に関する文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年1月9日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
本決定において非開示とした箇所は、個人の氏名や住所、学歴、年齢、勤続年数、特定個人のサイン及び印鑑登録証明書であり、これらは特定の個人が識別される情報であることから非開示とした。また同意証明書については、法律上全員の同意を必要としておらず、開示することにより誰が開発に同意しているのかどうかが判明してしまう。当該事業に対する同意の有無は、個人の思想信条に関わるプライバシー情報であり、非開示とした。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
法人の残高証明書及び納税証明書については、法人の内部管理情報であり、開示することにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため非開示とした。
4 異議申立て理由
当該開発行為区域内の関係地権者の同意の有無は開発行為自体を左右するものであり、その同意証明書の正当性を確認しなくてはならないことは、開発の許可処分を行うに当って必須の要件であることから、説明責任を果たすためにも開示すべきである。また、当該申請書に添付されている、当該法人に係る納税証明書等の証拠書類も開示すべきである。
5 審査会の判断
本決定において実施機関が非開示とした情報は、大別すると以下のとおり分類することができる。
ア.権利者の同意証明書、印鑑証明書及び審査調書に記載されている同意者の氏名、地番
イ.開発行為法人の設計者の学歴及び役員の年齢、勤続年数
ウ.打合せメモに記載されている法人担当者の氏名、サイン及び工事着手届に記載された夜間連絡先の電話番号
エ.開発行為法人の残高証明書、納税証明書、前年度及び前年の納税額、及び工事施工法人の納税証明書
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。 そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示とした情報のうち、本件異議申立ての対象となっているのは、前述のとおり「ア.権利者の同意証明書、印鑑証明書及び審査調書に記載されている同意者の氏名、地番」、「イ.開発行為法人の設計者の学歴及び役員の年齢、勤続年数」、「ウ.打合せメモに記載されている法人担当者の氏名、サイン及び工事着手届に記載された夜間連絡先の電話番号」である。
まず、アについてであるが、実施機関は法律上、関係地権者の全員の同意を必要としていないため、開示することにより誰が同意したのか否かが判明してしまい、当該個人の私生活上の権利利益を侵害するとして非開示が妥当であると主張している。
一方、異議申立人は、関係地権者の同意は開発行為の成否を左右するものであり、開発許可処分の正当性について判断できる要件であることから、説明責任を果たすためにも開示すべきであると主張している。
確かに、関係地権者の同意の有無は開発行為の許可における重要な要件であり、許可処分についての説明責任から開示を求める異議申立人の主張も理解できないではない。しかしながら、本件事案の場合、法律上必要とされるのは関係地権者の相当数の同意であり、必ずしも全員の同意が必要とされていない以上、同意証明書を開示すると当該事業に同意している特定の個人が識別されることとなるため、本号本文に該当する。
次に、イについてであるが、氏名自体は他の法令等で明らかになっているものの、学歴・年齢・勤続年数といった情報については、個人に関する情報であると認められるため、個人情報に該当する。また、ウについても、法人の担当者の氏名や個人の電話番号であるが、これらは他で公になっている情報とは言えず、特定個人が識別できる情報であると認められる。
また、ア・イ・ウにつき、公益上開示すべきであると認められる情報であるとはいえないため、非開示妥当である。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。
(5)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(法人情報)に該当するとして非開示とした情報のうち、本件異議申立ての対象となっているのは、「エ.開発行為法人の残高証明書、納税証明書、前年度及び前年の納税額、及び工事施工法人の納税証明書」である。
異議申立人は、開発行為法人と工事施工法人の資金計画や納税情報などの企業情報をすべて開示して、適正な開発であることの説明責任を果たすべきであると主張している。
しかしながら、これらの情報は明らかに当該法人の内部管理情報であり、開示することにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められることから、法人情報に該当すると言わざるを得ない。また、公益上開示すべきであると認められる情報であるとは言えないため、非開示が妥当である。
(6)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
16. 1.20 | ・諮問書の受理 |
16. 1.22 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 1.30 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 1.30 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16. 2.24 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第192回審査会)
|
16. 3.16 | ・実施機関の追加説明 ・審議 (第195回審査会)
|
16. 4.20 | ・審議 ・答申 (第196回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。