三重県情報公開審査会 答申第167号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書を部分開示する旨の実施機関の決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成15年10月14日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定法人の平成14年度特別管理産業廃棄物処理実績報告書及び特別管理産業廃棄物の収集・運搬・処理に係る許可申請書、許可証」の開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる「平成14年度特別管理産業廃棄物処理実績報告書」「特別管理産業廃棄物収集運搬業許可申請書」(以下「本件対象公文書」という。)を対象公文書として特定し、平成15年12月5日付けで開示請求者に対して行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立てについて
実施機関は本請求に際し、本件対象公文書中に異議申立人を含む事業者の情報が含まれていることから、条例第17条第2項の規定に基づき、関係事業者に対して意見照会を行い、それを経て本件対象公文書を部分開示する旨の本決定を行った。
実施機関は本決定を行うと同時に、関係事業者に対して条例第17条第3項の規定に基づき、情報を開示する旨の通知をしたところ、異議申立人(4事業者)から本件異議申立てが提起されたものである。
なお、本請求を行った開示請求者には、平成15年12月22日付けで、本件異議申立てに係る決定に至るまで開示を停止する旨の通知がなされている。
4 実施機関の開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本件対象公文書を部分開示決定したというものである。
本件対象公文書の記載事項の一部は、顧客に関する情報であって、公にすることにより競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められるが、産業廃棄物処理業の一般的性質上、当該事業の及ぼす社会的影響やその責任において、取り扱う廃棄物の種類、量、処分方法、搬入者名、受託事業者名等を公にすることで、住民等への不安感を取り除き、ともすれば抱かれがちである当該事業に対する社会的偏見を払拭し、正しい理解を得る必要があるものと考えている。
なお、平成6年、産業廃棄物処分業に係る同種の情報を非開示とした処分について、三重県を被告とした情報公開請求事件が提訴され、平成9年6月、津地方裁判所において、その処分を取り消す判決があった。
また、同種の情報を開示とした決定について、対象第三者からの異議申立てを受けて実施された三重県情報公開審査会において、平成14年10月1日付け答申第128号、平成15年12月16日付け答申第159号で、その情報を開示する実施機関の決定は妥当であると答申がだされていることなどを総合的に判断し、開示が適当であるとした。
5 異議申立ての理由
異議申立人(4事業者)の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
本決定は三重県情報公開条例第7条第3号ただし書きハの解釈を誤っている。当該情報に記載されている排出事業者・産業廃棄物処理業者等の事業活動により、人の生命・身体・健康・財産等に危険を及ぼす可能性があるのか否か、「県民等の生活または環境」に現実的かつ具体的に如何なる影響を及ぼすのか、全く検討されていない。したがって、当該情報をただし書きイ、ロに掲げる情報に準ずるということはできない。
また、本件対象公文書は、行政運営上必要なものとして、かつ、第三者には公開されないことを条件に提出したものである。なかでも、排出事業者名は当社の顧客リストであり、これらとその取扱量を併せて見ることによって、同業者ならば、この事業者がいくらの料金によって受注可能かを容易に把握でき、当社が苦労して開拓してきた顧客を労を要せずわずかの廉売によって容易に横取りされる。確かに、公益上公にすべき情報があることは当然であるが、産業廃棄物に関係するものは、どんなまき網的な開示請求でも、開示すべき情報にあたると認定するのは、個別情報に沿った判断に対する思考を停止していると言わざるを得ない。以上のとおり、競争上の地位その他正当な利益を害することは明白であり、非開示情報の最たるものである。
6 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は条例第7条第3号(法人情報)ただし書きハに該当するので開示が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記載されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務付けられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書の排出事業者、取引量等の情報を開示することにより、容易に単価が推測され同業他社に顧客を奪われる可能性があることから、これらの情報は重要な営業上の情報である、というのが異議申立人の主張の趣旨であると認められる。しかしながら、平成9年6月の津地方裁判所における判決以降、実施機関がこれらの情報を常に開示している運用の結果として、特定の法人に多大な不利益を及ぼしたとの事例が顕在化した事実には接していないことから、これらの情報が事業者の企業活動から得られた情報であることは認めるものの、事業活動上の技術的なノウハウ等のように、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を即座に損なうような情報とまでは言えず、本号ただし書きの該当性を判断するまでもなく開示が妥当であるとの見方も可能であると考えられる。
他方、これらの情報を開示することで、どのように事業者の利益を損なうかという点についての異議申立人の主張には具体性があるとは言えず不明確な部分があるものの、一般的に法人の顧客情報は重要な営業情報であり、同業他社の努力次第で不利益を被る可能性が全くないと断言することもできない。
よって、本号本文に該当する可能性があることから、以下のとおり本号ただし書きの該当性をあわせて判断することとする。
本号ただし書きは法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものに開示を義務づけたものである。
本件対象公文書のうち実績報告書に記載された情報は、産業廃棄物処理に関する情報であり、住民の関心が日増しに高まっている環境問題に関する情報であることから、人の生命、身体、健康に深く関係した非常に公益性の高い情報といえる。地域住民の不安等を払拭するためには、たとえ県が搬入を承認した産業廃棄物であっても、具体的な搬入の実態等を明かにすることが求められる。上述のとおり、当該情報を開示することによって当該法人をとりまく市場環境に影響を及ぼす可能性は否定できないものの、平成9年6月津地方裁判所の処分取消判決にもあるように、産業廃棄物処理という事業には、事業者の運営によっては地域住民の生活環境等に重大な影響をあたえる危険性があることも事実であり、当該事業の特質から非開示により保護すべき利益よりも地域住民の健康等の公益が優先されると判断せざるを得ない。
したがって、条例第7条第3号(法人情報)ただし書きに該当し、開示すべきであるとした実施機関の決定に誤りはないと判断される。
なお、異議申立人は、本件対象公文書を第三者には公開されないことを条件に任意に提出したものであると主張しているが、条例では、そのような条件の有無によって、開示・非開示が決定されるものではなく、その内容に則して実質的に判断されるべきであることから、この点についての異議申立人の主張を認めることはできない。
また、本件対象公文書のうち許可申請書に添付されている車両登録番号及び車両写真を開示すると、同業他社による不当な営業妨害も考えられ、当該法人及び顧客である排出事業者にも多大な損害・損失を及ぼすことになる、と異議申立人である事業者の一部が主張しているが、仮に違法な営業妨害が発生すれば、それは別の法令によってしかるべく取り締まられるべきであって、違法行為を助長するおそれがあることを理由に開示・非開示の判断をすることは適当ではない。これらの情報は事業活動上の技術的なノウハウ等のように当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害する情報とまでは言えず、実施機関の開示決定に誤りがあったとは言えない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16. 1. 6 | ・諮問書の受理 |
16. 1. 8 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
16. 2. 3 | ・開示理由説明書の受理 |
16. 2. 4 | ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16. 2.26 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の開示理由説明の聴取 ・審議 (第193回審査会)
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16. 3.12 | ・審議 ・答申 (第194回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。