三重県情報公開審査会 答申第165号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った部分開示決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年7月4日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「管理職選考試験に関する問題・回答・配点・採点基準・評価方法・評価票 外」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成15年7月18日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の部分開示決定理由の説明要旨
異議申立ての対象となった公文書は(1)管理職選考試験の問題・解答・配点・採点基準、(2)管理職選考試験の論文の問題・配点・採点基準・評価方法、(3)管理職選考試験の面接の配点・採点基準・評価方法・評価票である。
筆記試験においては、学校の管理運営に必要な知識、課題解決や問題処理への考え方、学習指導や生徒指導の専門的知識や指導技術、人権意識等を問うこととしている。
面接においては、管理職としての抱負やリーダーシップ、学校の課題への認識と取組みへの考え方、社会性、対話能力等を把握することとしている。したがって、筆記試験、面接ともに毎年様々な工夫をするものの、設問の範疇が限定されることから、同様の傾向にならざるを得ない場合がある。
試験問題を開示すると、受験者が過去の筆記試験問題や面接の質問内容や評価基準をもとに、想定問題等を作成し、受験のテクニックに特化した演習を繰り返すことになるおそれが極めて強い。現に、受験者で研修会を開催したり、専門学校等で受験の傾向と対策について講習を受けている受験者がいると聞いている。このような事態になると、受験者の客観的かつ正確な管理職としての資質を把握することが困難となり、管理職としての適格性の判断を誤り、公正かつ的確な管理職の選考ができなくなる。その結果、管理職としての使命が果されず、学校に山積している課題の解決が適切に行われないことになり、県民の公教育に対する信頼を確保していくことが困難となることが明白である。
試験問題や採点基準について公開すると、こうした傾向を助長することとなることから、毎年、管理職試験の内容について大きく変えていく必要が生じる。しかし、限られた範疇の設問にならざるを得ない中で、過去と類似の問題にならないよう細心の注意を払いながら、限られた職員により問題を作成することになり、適切に業務を行うことが極めて困難になる。
したがって、(1)管理職選考試験の問題・解答・配点・採点基準は、条例第7条第6号(事務事業情報)に該当する。
なお、(2)管理職選考試験の論文の問題・配点・採点基準・評価方法については論文の問題を実施していないので存在しない。また、(3)管理職選考試験の面接の配点・採点基準・評価方法・評価票については、面接要領、評価方法が記載された面接試験実施要項や面接試験記録表を既に開示している。
4 異議申立ての理由
管理職選考試験の問題・解答・配点・採点基準、管理職選考試験の論文の問題・配点・採点基準・評価方法、管理職選考試験の面接の配点・採点基準・評価方法・評価票の非開示の決定に対して不服である。解答の開示については他県においては、開示しており、それによって事務の支障や公正な審査を妨げる原因になっていない。こうした文書の開示を拒むというのは情報公開の本旨に照らして妥当性を欠くものである。
非開示の理由を「開示されると、試験対策につながり、公正な選考や適正な執行に著しい支障が生じる」としているが、現在も試験対策は行われている。このような中では情報を有した限られた者の方が状態を悪化させる要因になり得る。開示して万人が試験の問題について同じように情報を有することの方が公正であり、透明性が増すと思える。
よって、開示することによって公正かつ的確な選考という目的達成が困難になるとは言えず、開示されると今後の試験の適正な執行に著しい支障が生じるとする実施機関の判断は誤っている。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
なお、異議申立人は、(1)管理職選考試験の問題・解答・配点・採点基準、(2)管理職選考試験の論文の問題・配点・採点基準・評価方法、(3)管理職選考試験の面接の配点・採点基準・評価方法・評価票を実施機関が非開示としたことに対して異議を申し立てているが、このうち(2)については論文試験が平成15年度には実施されていないこと、(3)については実施要項等により既に開示されているものと認められることから、平成15年度公立小中学校長任用候補第1次選考・筆答試験問題・解答・配点及び、平成15年度公立小中学校教頭任用候補第1次選考・筆答試験問題・解答・配点(以下「本件対象公文書」という。)について、以下のとおり検討することとする。
(2)条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(3)条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
筆答試験においては、毎年工夫するものの、設問の範疇が限定されることから、同様の傾向にならざるを得ない状況であり、本件対象公文書を開示すると、公正かつ的確な管理職の選考ができなくなる、と実施機関は主張している。また、開示することが前提になれば、毎年、管理職試験の内容について大きく変えていく必要性が生じ、限られた範疇の設問にならざるを得ない中で、過去と類似の問題にならないよう細心の注意を払いながら、限られた職員で問題を作成することになり、適切に業務を行うことが極めて困難になる、と説明している。
一方、実施機関が公教育現場の管理職にどのような人材を求めているのかを明らかにするうえで、本件対象公文書を開示することは意味のあることである。
しかしながら、本件選考については、もっぱら実施機関内部における人事管理上の業務として行われているものであり、公募して外部からの登用を目的としているわけではなく、情報公開制度に則して何人にも等しく公にすることが強く求められているような公益性の高い情報であるとまでは言えない。
むしろ、公教育に資する管理職選考という事務を小人数で実施している体制を強化し、問題を自主的に公表していくような検討を進めることが実施機関には望まれるが、現時点においては、限られた範疇の中で、類似の出題を避けるといった配慮が必要とされる問題を公開した場合、将来の問題作成事務に支障を生ずるおそれがあることは否定できず、実施機関の本決定は妥当であると言わざるを得ない。
(4)結論
よって主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15.10. 6 | ・諮問書の受理 |
15.10. 8 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15.10.30 | ・非開示理由説明書の受理 |
15.11. 4 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼 |
16. 1. 9 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・審議 (第190回審査会)
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16. 2.26 | ・審議 ・答申 (第193回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。